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◇192◇したたかな彼女

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 「あら? 怒ったの? お互い様でしょう?」

 僕の横で、マドラーユさんはにっこり微笑んで言った。
 別に騙された事は怒ってない。マドラーユさんが言う通りお互い様だ。騙されやすいと言われた事に納得していないだけ!

 「で、そのルイユという者に会って、あなたはどうする気なのですか?」

 「言わずと知れた事でしょう? 空飛ぶマントの作り方を聞くのよ」

 ロドリゴさんの質問に、当たり前でしょうと答えたのだ。

 「それ、聞いても普通、教えてくれないんじゃないの?」

 驚いて、イラーノは聞いた。

 「まあね。そこは取り引きよ」

 取り引きって……。もしかして、生きているのを黙っているから教えろみたいな事? この人、結構やばい人だったの!?

 「随分危険な事を考えていますね。生きているって事は、あれが自作自演だった可能性があるわけで、その相手を脅すつもりだった? 殺されるかもしれないと思わなかったのか?」

 ロドリゴさんも驚いて、マドラーユさんに問う。

 「まあね。あの化け物が来た時は驚いたわ。本物のモンスターだったもの。テイマーだとしても、あれに枷を掛けて従わせるのは無理でしょう。だとしたら食べられる寸前で、逃げたと考えるのが妥当よ。まあ、見ていないあなたには、わからないかもしれませんけどね」

 いや、ロドリゴさんはキュイの見た目は知っている。
 って、アベガルさんもマドラーユさんと同じように思っているのだろうか。
 エルフを使って街にキュイを呼びよせた。そう考えているのかもしれない。

 「バカな考えはやめて、違う街で錬金術を行ったらいかがですか? あなたの腕ならどの町でも歓迎だと思いますが?」

 「あのねぇ。男のあなたとは違うのよ? 冒険者ギルドと提携するのって大変なんだから」

 「わかりました。そこは、私が頼んでみます。ですから二人に関わるのは避けて下さい。お願いします」

 「ふーん。わかったわ。じゃ、一旦故郷に帰るわ」

 「……いや、そこまですれとは言ってないのですが」

 いきなり錬金術をやめるような事を言い出し、ロドリゴさんも焦っている。

 「違うわよ。ほとぼりが冷めるまで、そっちで錬金術をするって事よ。で、約束通り、イラーノくんに向こうでお手伝いお願いするわ」

 「え!」

 イラーノは、驚いて声を上げた。
 全然諦める気ないよ、この人。
 はぁっと、ロドリゴさんも大きなため息をついた。

 「で、あなたの故郷はどちらですか?」

 「ずっと南のウィールナチよ」

 「え? そこにですか? どこまでイラーノを連れて行く気ですか……」

 呆れた様に言うロドリゴさんだけど、そう言えば僕も南に行くんだった。
 途中なら行って仕事を手伝って、その後目的地に向かうって言う手もあるよね。

 「そんなに遠いの?」

 「一番端の街だ!」

 「「一番端!?」」

 イラーノが聞いて返って来た答えに、僕とイラーノの声が重なった。
 あぁ、目的地越してるよ、きっと。

 「仕事するのは、手前の大きな街のブツゴゴチよ。ここより大きな街」

 「……あの、すみませんが、私が頼んでもそこだと商売をさせてもらえるかどうかわかりませんが」

 そんな大きな街で商売する気なの?
 って、ロドリゴさんの権力がどれくらいか知らないけど。

 「別に、あなたに頼らないから大丈夫よ。ツテはあるから」

 「え……。あなたは、一体何者なんですか?」

 ロドリゴさんが、本気で驚いている。

 「知りたいのならルイユの事を教えてもらいたいなぁ」

 《随分としたたかな者ですね? もうこの際ですから正体を明かしましょうか?》

 「ダメだから!」

 「あら、残念」

 しまったぁ。つい、ルイユの言葉に反応してしまった。けど、マドラーユさんの言葉に答えたと捉えてくれたみたい。助かったぁ。

 「で、手伝いに来てくれるのかしら?」

 「それ本気なんだ……」

 困り果ててイラーノは、僕を見た。
 そうだった。まだどこに向かうかイラーノに言っていない。

 「僕達も南に向かう予定だったからお手伝いをします」

 「南? どこに行くつもりだ」

 聞いたのはイラーノではなく、彼の隣に座るロドリゴさんだ。
 ロドリゴさんには、エルフの救済に行くって言ってあるから、エルフから行く場所を聞いたと思ったのかも。

 「あ、街の名前とかは聞いてないけど……」

 「それでどうやって行く気だったんだか」

 はあっと、ロドリゴさんは溜息をついた。

 「でも南だからそこら辺で、情報を集めるよ」

 「そうだな」

 「ふーん。今回は、口を滑らせてくれないのねぇ」

 急がなくちゃって焦っていたから、本当に近くの街の名前を聞いてこなかったんだよ。

 「まあいいわ。じゃ。契約成立ね。護衛も宜しく」

 「「護衛!?」」

 僕達が驚くと、マドラーユさんは頷いた。

 「目的地が同じなのだから一緒に行った方がいいでしょう?」

 「いや……二人は、護衛どころか足手まといだと思いますよ」

 足手まといって……。
 ロドリゴさんがそう言うも、マドラーユさんはにっこりほほ笑むだけだった。
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