上 下
4 / 58

諦め令嬢の誕生 3

しおりを挟む
 「ランゼーヌ、聞いたぞ。先に・・外国語を覚えたいそうだな」

 朝食の席に着いたとたん、モンドがランゼーヌにそう言って声を掛けた。

 「え……?」

 ランゼーヌは、意味がわからずキョトンとする。

 「―――――――」
 『食事での会話は、ダタランダ語で。生の発音を聞けて嬉しいそうですわ。って、そんなわけあるか!』

 訳していたワンちゃんが、声を荒げた。
 ランゼーヌは、まだ唖然として二人を見ている。

 「あの……」

 リラが、アーブリーの策略だと気づき、何かを言おうと口を開くと彼女に睨まれた。なので仕方なく口をつぐんだ。

 「――――――――」
 『だから僕だけでいいって』

 (それって、家庭教師の事?)

 「―――――――」
 『そうだな。ランゼーヌがいいと言うなら……』
 「お待ちください。旦那様」

 会話に割って入ったのは、執事長のバラーグだ。

 「家庭教師は、外国語を習うならお嬢様にも――」
 「しかし、本人がそう言っているのだろう?」
 「あなたが口出しする事ではありません!」
 「――――――――」
 『お嬢様の事は、アーブリー様の手を煩わせる事ではありません』

 アーブリーは、バラーグがダタランダ語を話せる事に驚いた。

 「もうよい。バラーグ。食事がすんだら書斎へ来てほしい」
 「承知しました」

 ランゼーヌは、何だか食欲がなくなった。
 自分だけ蚊帳の外だと感じ、泣きそうになる。
 殆ど残し、食べ終わっていないが自分の部屋へと戻る事にした。
 去って行くランゼーヌを横目に、アーブリーはクスリと笑う。



 「家庭教師の件だが、まずはアルドだけでよい」

 バラーグが部屋に訪れると、そうモンドが切り出す。

 「しかし、旦那様」
 「もしランゼーヌもと言うのなら、メイドを何人かやめてもらわなくてはいけなくなる」
 「それはどういう意味でございましょうか」

 モンドのセリフに、普段顔に出さないバラーグが、眉間に皺をよせた。

 「わかっているとは思うが、今年は赤字になりそうなのだ。アーブリーが使用人を何人か連れてきているし、本来なら解雇したいのだ」
 「なんですと……」

 お金が赤字になったのは、経費として、館の改修を行ったからだ。
 しかもそれは、商売に関係ないアーブリー達が住むための改修だった。

 「黒字になったらすぐにランゼーヌにも家庭教師をつける」
 「わかりました。その様に致します。ですが、お金がないのですからアーブリー様に掛ける経費はないと申しておいて下さいませ」
 「……あぁ」

 バラーグは、アーブリーが宝石などを買わないように、先手を打ったのだ。

 「それと、奥様が使っていた本などを勉強の為に、ランゼーヌ様にお持ちしてもよろしいでしょうか?」
 「あぁ、かまわぬ」
 「ありがとうございます。では、失礼したします」

 お辞儀をして、バラーグが出て行った。
 はあ。とモンドは大きなため息をつく。
 家庭教師の件は、本当はもう少し後の予定だったのだが、アーブリーに言われると断れなかったのだ。
 バラーグに言ったように、使用人を解雇しようかと悩んでいた。そこにランゼーヌを後回しにとなり、その話に乗ったのだ。
 モンドは、アーブリーに惚れていた。その彼女と結婚できたので、彼女の願いを叶えてやりたいと思ったのだが、宝石を買ってあげられなくなったのだ。

 「うーむ。アーブリーが怒らないとよいが……」

 今、モンドの頭の中は、アーブリーの事でいっぱいになっていた。



 「リラと言ったかしら? あなたはただの侍女。私達の話に口を突っ込まないで下さる?」

 またもやランゼーヌの部屋を訪れたアーブリーがモノ申していた。

 「申し訳ありません」

 素直にリラは、アーブリーに頭を下げる。
 反抗をして、ランゼーヌにも被害が及ばないようにだ。

 「それと、この男爵家を将来継ぐのはアルドよ。この子は、モンドの子で嫡男なのですから」
 「いいえ。アーブリー様。将来継ぐのはランゼーヌ様でございます」
 『なんだと~。うん?』

 あらぬ方向から声が聞こえ全員が振り向くと、執事長のバラーグがワゴンを押しティーを持ってきた所だった。

 「あらあなた、そんな事もしているの?」
 「ついででしたので」

 ワゴンの下の台には、箱が乗せてある。モンドから許可を取った本が入れてあった。

 「さきほどの件ですが、だんな様は婿でございます。ですので、ネビューラ家を継ぐのはランゼーヌ様になります」
 「ふん。たかだか男爵家の執事が偉そうに」

 つんとして、アーブリーはアルドを連れ去って行く。

 「大丈夫でございましたか?」
 「はい。ありがとうございます。不甲斐なくてすみません」
 「リラは悪くないわ。でも、婿って? お父さまが婿だと私が継ぐものなの?」
 「そうですね。お話しましょう。まずは部屋にはいりましょうか」
 「はい」

 部屋に入ると、バラーグが持ってきたティーをリラが注ぐ。
 ランゼーヌがそれを一口、こくんと飲んだ。
 緊張していたのか、思ったより喉が渇いていたようで、ホッと息をついた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

令嬢娼婦と仮面貴族

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:198pt お気に入り:3,060

ずっと君の傍にいたい 〜幼馴染み俳優の甘い檻〜

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:156pt お気に入り:24

婚約破棄と言われても・・・

BL / 完結 24h.ポイント:639pt お気に入り:1,403

ドスケベ刑務所♡雄っぱいライフ

BL / 連載中 24h.ポイント:248pt お気に入り:538

Second Life

BL / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:27

Infinity pure

BL / 連載中 24h.ポイント:256pt お気に入り:2

眼鏡の奥を覗かせて

BL / 連載中 24h.ポイント:113pt お気に入り:1

処理中です...