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67 オーランドサイド
しおりを挟む★オーランドサイド
ミリーの告白に執務室に沈黙が落ちる。オリヴィエは痛ましげにミリーを見つめ
「貴女のお母様が?」
「……はい。奥様。私の母は寝る前に必ずその一文をを唱えていました。『分け隔てない』」
そう話すとオーランドの持っている緑とピンクのネックレスの宝石が揺らぐ。「待て!」オーランドは慌ててミリーの言葉を止める。この媒体がミリーとネックレスが同じ部屋に居れば作動するのか、身につけている人間が言えば媒体となるのか、石が同じ空間にあれば誰が言ってそうなるのか、はたまたミリーが身につけて初めて作用するのか分からない。
オーランドは緑とピンクのネックレスに何が起きてもいいように強い結界を張る準備をし、手に持ち、微かに震える息を整え
「『分け隔てない幸福が』……」
口を開くが緑もピンクも宝石が揺らぐようには感じられない。一応、念の為そこで口を閉ざす。
「……『永遠に続きますように』?」
と、次にアレンが続く。二人で最後まで一応言っては見たがペンダントは反応しない。ミリーはその一文であっていると頷く。
「オーランドの反応を見る限り、確証は無いがミリーにだけ反応するようだな。ミリーは絶対に口にしないように」
「!!!」
アルバートが話すとミリーはまた涙を一筋流す。ミリーにだけ反応するという事は、ミリーの習慣を知ってゆえに近づいたと証明されたようなものだからだ。彼女の純粋な行為が、最悪の形で利用されていたという現実に、心臓を抉られるようだった。
「私は……本当に、お嬢様に幸せになって欲しくて。辛い日々から一日も早く抜け出して欲しくて……」
ミリーが顔を抑え震える声で口を開く。きっとミリーの態度を見るにこの言葉は真実だろう。ミリーがアリーヤを裏切ろうなどとは、一度たりとも思っていなかった。オーランドはその言葉が聞けて内心安堵する。
(アリーヤは裏切られてなかった……)
勿論自分もつい最近まで疑わなかった。よってミリーは自分の魔力の網にも引っかからなかった。
(俺も、ミリーを信頼していた。だからこそ、冗談も言ったし、気遣いの言葉もかけた。それが全て、こんな結果に繋がるとは……。)
「それに。マーチンとだって……私達は愛し合っています」
ミリーの言葉に、オーランドの脳裏に「誕生日は一本の薔薇から始まった」と幸せそうに話すミリーの顔がよぎる。花言葉は「ひとめぼれ」「あなたしかいない」
もしかしたらマーチンも、ミリーに真実の感情を抱いたのかもしれない。ただのどうでも良い女なら高級ディナーに高級ホテルにショッピングで服のプレゼントなど用意しない。きっと伯爵からのネックレスだけでなく、自分からプレゼントを渡したかったのだろう。
(マーチンのような男でも、いや、マーチンのような男だからこそ、ミリーの純粋さ優しさに触れ愛したのかもしれない。)
何より言った通りミリーは賢い女性だ。騙されているか否かくらいきっとすぐに勘づく。カフェで幸せそうに誕生日の話をしてくれた彼女の顔が、オーランドの脳裏に焼き付く。その光景は、彼自身の無力さを痛烈に突きつける。
「だが、それがどうした?」
「だが、それがどうした?」
オーランドは、顔には一片の情も浮かべず、まるで舞台で役を演じるかのように、冷たく突き放す。内心で、込み上げるミリーへの僅かな同情と後悔、そして伯爵家への燃えるような怒りを無理やり押し込める。
仮にマーチンが宝石の危険性までは知らずとも、伯爵に加担したのは事実だ。なぜなら、ピンクのペンダントはマーチンが自分が買ったように演技をしたからだ。そうでなければマーチンも騙されていたと考えられたのに。
「それだって……きっと家族や友人を人質にとられたからで!」
「ごめんね、ミリー。彼は孤児のゴロツキだ。一緒に犯罪をする人間はいたけど仲間や友人ではない。言い方は変だけど同僚のようなもので、人質を取られた情報もない」
アレンが申し訳なさそうに話す。アルバートも苦しそうだ。
「例え、どんな理由であろうと『ルミニス王国王太子の婚約者』で『ルミニス王国筆頭公爵家のリュクソン公爵令嬢』に『平民のマーチン』は手を出したのだ。これがどう言う意味なのか公爵家に仕えるお前なら意味がわかるだろう?そしてそれはお前もだ。知らなかったで済む問題では無い。彼女は、あの悪夢の中で自ら命を絶とうとしていたのだからな」
その言葉に、オーランド以外のこの部屋にいる4人が息を呑んだ。「死に追いやった」「一刻を争う」とは言ったが、「自死しようとしていた」事はまだ報告していなかったなとオーランドは思い出す。
その事実に、アリーヤを救えなかった悔恨と、伯爵家への激しい怒りが彼の内側でまた暴れだす。彼は「公爵夫妻」の前で、決して情を見せまいと、冷徹な仮面を貼りつけた。彼の言葉は、まるで氷の刃のように、居合わせた全員の心臓を貫いた。
「理解したか?平民が公爵令嬢を自死に追い詰めた。お前達は死罪しかない」
オーランドは、見据えるミリーの目に、全ての悪意を自分に向けさせるかのように、冷徹な目を向けた。
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