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6話「ゲテモノ」
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一人暮らしをしているのだから、流石にゲテモノが出てくることはないだろうと楽観視していた俺の前に差し出された物体に、俺は言葉を失わざるを得なかった。
「……なぁ、これ料理なの?」
「はいっ」
「血の池地獄みたいな色してるんだけど……キムチ鍋? コチュジャン? トムヤムクン? 的な何か?」
「唐辛子と様々なスパイスをたっぷり入れたスープに、具材を混ぜたものです。
母さんによれば、ふるさとの料理を自分好みにアレンジしたものだそうで、我が家の定番料理なんですよ」
白い皿に乗せられた赤い液体からもくもくと湧き立つ湯気は俺の視覚と鼻の粘膜をくまなく刺激する。
部屋に入った時から匂いで嫌な予感はしていたが、料理を目の前にすると、予感は確信に変わった。
脳が危険信号を発する。これは食べてはいけないものだ、と。
「冬に食べると体があったまって美味しいんですよ。それに野菜も入ってて栄養たっぷりです」
「今は夏なんだけど」
「夏バテしないように、この時期には特にスパイスをたくさん入れるようにしています。
汗をかくのって、熱中症対策にも良いらしいです」
「ああ、そう」
「ちなみに熱中症の際は塩分を摂るのが良いと言われていますが、同時に糖分を摂ることで水の吸収を促進するそうですよ」
「詳しいなお前」
「モデルですから」
斑目は、得意げに胸を張る。
熱中症予防のキャンペーン大使でもしてるのかと思うくらい流暢な斑目の蘊蓄を聞き流し、俺はどうしたものかと居住まいを正す。
恐ろしい物質を目の前に、思わず背筋を伸ばした。
斑目はいただきます、と丁寧にお辞儀をして、自分の食事_____同じく真っ赤な液体が入っている_____に手をつけ出した。
口をもぐもぐと動かし、悶えている。
「んー、からい。でも美味しい!」
汗が顔から滝のように流れているが、本当に大丈夫なんだろうか。
ドン引きを通り越し、もはや怖い。
「緑さんも冷めないうちに食べてくださいね」
にこ、と斑目は屈託のない笑みを浮かべる。
分かった。こいつは俺を試しているのだ。
つまりはあれだ。「ここを通りたくば俺を倒してからにしろ」ならぬ、「俺とセックスしたければこれを食ってからにしろ」というやつだ。
これを食って親密度を上げなければ斑目とヤルことはできないのだ。
馬鹿か、そんなわけないだろ。落ち着け俺。脳をカプサイシンに侵されるな。
しかしながら悲しいことに、俺には「貰ったものを拒絶する」という概念は存在しなかった。
そもそも何でここまでして斑目とセックスする必要があるのか。
頭の中の理性的な俺が冷ややかに問いかけてくるが、ここで引き下がるのは何となく悔しいから、ただそれだけの理由だ。
「食べないんですか? 美味しいですよ」
期待の眼差しを向けられる。これがもし漫画の類だったら、「わくわく」と効果音が書かれてそうだ。
埒が明かないので、仕方なくスプーンで一口掬い、唇に触れないように口内に流し込んだ。
その後どうなったかはご想像にお任せする。とにかく、こいつの手料理は二度と食べたくない。
「……なぁ、これ料理なの?」
「はいっ」
「血の池地獄みたいな色してるんだけど……キムチ鍋? コチュジャン? トムヤムクン? 的な何か?」
「唐辛子と様々なスパイスをたっぷり入れたスープに、具材を混ぜたものです。
母さんによれば、ふるさとの料理を自分好みにアレンジしたものだそうで、我が家の定番料理なんですよ」
白い皿に乗せられた赤い液体からもくもくと湧き立つ湯気は俺の視覚と鼻の粘膜をくまなく刺激する。
部屋に入った時から匂いで嫌な予感はしていたが、料理を目の前にすると、予感は確信に変わった。
脳が危険信号を発する。これは食べてはいけないものだ、と。
「冬に食べると体があったまって美味しいんですよ。それに野菜も入ってて栄養たっぷりです」
「今は夏なんだけど」
「夏バテしないように、この時期には特にスパイスをたくさん入れるようにしています。
汗をかくのって、熱中症対策にも良いらしいです」
「ああ、そう」
「ちなみに熱中症の際は塩分を摂るのが良いと言われていますが、同時に糖分を摂ることで水の吸収を促進するそうですよ」
「詳しいなお前」
「モデルですから」
斑目は、得意げに胸を張る。
熱中症予防のキャンペーン大使でもしてるのかと思うくらい流暢な斑目の蘊蓄を聞き流し、俺はどうしたものかと居住まいを正す。
恐ろしい物質を目の前に、思わず背筋を伸ばした。
斑目はいただきます、と丁寧にお辞儀をして、自分の食事_____同じく真っ赤な液体が入っている_____に手をつけ出した。
口をもぐもぐと動かし、悶えている。
「んー、からい。でも美味しい!」
汗が顔から滝のように流れているが、本当に大丈夫なんだろうか。
ドン引きを通り越し、もはや怖い。
「緑さんも冷めないうちに食べてくださいね」
にこ、と斑目は屈託のない笑みを浮かべる。
分かった。こいつは俺を試しているのだ。
つまりはあれだ。「ここを通りたくば俺を倒してからにしろ」ならぬ、「俺とセックスしたければこれを食ってからにしろ」というやつだ。
これを食って親密度を上げなければ斑目とヤルことはできないのだ。
馬鹿か、そんなわけないだろ。落ち着け俺。脳をカプサイシンに侵されるな。
しかしながら悲しいことに、俺には「貰ったものを拒絶する」という概念は存在しなかった。
そもそも何でここまでして斑目とセックスする必要があるのか。
頭の中の理性的な俺が冷ややかに問いかけてくるが、ここで引き下がるのは何となく悔しいから、ただそれだけの理由だ。
「食べないんですか? 美味しいですよ」
期待の眼差しを向けられる。これがもし漫画の類だったら、「わくわく」と効果音が書かれてそうだ。
埒が明かないので、仕方なくスプーンで一口掬い、唇に触れないように口内に流し込んだ。
その後どうなったかはご想像にお任せする。とにかく、こいつの手料理は二度と食べたくない。
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