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第一章 陰キャな僕とクラス1の美少女にもフラグは立つらしい
第12話 クズ(推定)と対面します
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午後六時。
梨子と共に向かった先は、駅前の商業ビル二階に入っている、オシャレなしゃぶしゃぶ屋だった。
しかも、チェーン店じゃなくわりと高いヤツ。
三枝さんの粋な計らいかと思うと、なんだか申し訳なくなってくるな。
これから飯島と梨子が気まずい空気になるかもしれないのだから。
――。
「いらっしゃいませ。お二人ですか?」
「いえ。連れの者が来てると思うのですが」
店内に入ると出迎えた店員に、僕は少し「連れの者」を強調して告げる。
僕の人生で、「連れの者」なんて使う機会がやってくるとは思わなかった。
店員に連れられてそこへ行くと、既に男子2人、女子2人計4人の先客が温まり始めた鍋を囲っていた。
2人の女子は知っている。朝比奈カーストの取り巻きこと、三枝蜜柑と畦上綾乃だ。
そして、男子は――1人はなんだか少し暗そうな雰囲気の陽キャイケメン、飯島海人。そして、もう1人は――知らん。誰だあの人。
昨日海人とバカ話をしていた矢田くんではない。顔の輪郭が違う。
たぶん他のクラスだな、うん他のクラスだ。
「そういや淳さー、明日提出の英語の課題やったー?」
「は? 俺がやってるわきゃねーだろ。英語六限なんだから、内職でもして明日進めるよ」
「そう言うと思ったー」
淳――と呼ばれたやつ(こちらもイケメン)が、畦上と話している。
明日の六限が英語か、ウチのクラスもだな。そうか、アイツも同じクラスだったのか。
いかん、高校生活がスタートして二ヶ月は経つのに、まだ覚えていない。
と、不意に三枝がこちらに気付き、手を振ってきた。
「おー、りこちーこっちー! って……え?」
りこっちーこっちーって語呂良いな、などと勝手なことを思っている僕を見て、三枝は振っていた手をぴたっと止める。
それから、「えと……後ろの人誰?」みたいな訝しげな目を向けてくる。
人をストーカーみたいに見るんじゃない。
「えと、本日飛び入りでお世話になります。境楓と言います。よろしくお願いします」
僕は気をつけの姿勢で、慇懃に礼をした。
「あーうん、境くん……ね? こちらこそよろしく」
おい、ちょっと困惑気味に言うんじゃないよ。
――。
「それじゃあまあ、全員揃ったことで。あ、りこちーは海人の隣ね」
満面の笑みで、開始早々そんな爆弾を放ってくる三枝蜜柑。自分の名前が気に入っているのか、髪色をオレンジメッシュにしたり靴下の柄を蜜柑にしているこの少女は、善意100%で悪の道に誘う。
「え、えと……私は、その」
「あー照れなくてもいいのに。ほら、早く座って!」
急かすように言う三枝。
飯島の方は、完全にスルーを決め込んでいる。
梨子としては、とても飯島の隣になんて座れないだろうが、親友の善意で見事に板挟みになり、可哀想なくらいおろおろしていた。
「どうしよう」と困り果てた目で、僕の方を見てくる梨子。
僕は小さくため息をついて、
「梨子さんが座らないなら、僕が座るよ」
そう言って、空気を読めない男こと僕は、飯島海人の隣に腰掛けた。
申し訳なさそうに顔をしかめつつもほっとしている梨子とは対照的に、仕掛け人の三枝と畦上が小さく悲鳴を上げる。
「このクソ陰キャ空気読めよ!」「しっしっ! 邪魔すんな!」
そう目で訴えかけてくる対面の二人。同じく対面側に座る淳も、なんか呆れたような目で僕を見ている。
残念だったな。好感度が既に存在しない僕の好感度が下がっても、なんにも痛くないのだ。
と、僕の隣に腰掛けた梨子が、小声で「(ごめんね)」と囁いてくる。
僕は同じく小声で、
「(気にしなくていいよ)」
「(でも……)」
「(今は食事会を楽しんでさ、あとでちゃんと彼と向きあえば、それでいいんじゃない?)」
そう告げると、梨子はほんのりと頬を染め、「ありがとう」と呟いた。
――。
そんなこんなで、時間が過ぎる。
食事会の間、僕は露骨に敵視されていたと思う。
それとなく遠回しに、対面の連中が僕を排斥して飯島と梨子をくっつけようとしているのがわかった。
しかし、ここまできて引き下がるわけにもいかない。僕は、鈍感系主人公も真っ青なほど、相手の嫌味に気付かない振りをして、何食わぬ顔で梨子の隣に居続けた。
けれど、そんな僕も流石に生理現象には抗えない。
「ちょっと席を外すね」
僕は平坦な声色でそう告げる。
すると、三枝達は露骨に嬉しそうに「行ってらっしゃい。なんならそのまま帰ってもいいよ」などと言ってくるが、それも作り笑顔でスルーした。
――トイレは、店を出て廊下に据えられている。
トイレに行って急いで用を足した僕は、なるべく早く戻ることにした。
僕がいないということは、飯島と梨子を隔てる邪魔者がいないということだ。三枝蜜柑達は、何をするかわかったもんじゃない。
早足でトイレを出た僕は、そのまま店内に戻ろうとして――しかし足を止めた。
僕を待っていたのか、そこに人がいた。
「なあ、境」
その人物は、僕に気付くと声をかけてくる。
憎たらしいほどイケメンで、同時に憎たらしいくらい清々しく、梨子を罵倒した男。
「少し、話がしたいんだ。時間貰えないか?」
飯島海人。
その男は、いつになく真剣な表情で、僕の前に立ち塞がっていた。
梨子と共に向かった先は、駅前の商業ビル二階に入っている、オシャレなしゃぶしゃぶ屋だった。
しかも、チェーン店じゃなくわりと高いヤツ。
三枝さんの粋な計らいかと思うと、なんだか申し訳なくなってくるな。
これから飯島と梨子が気まずい空気になるかもしれないのだから。
――。
「いらっしゃいませ。お二人ですか?」
「いえ。連れの者が来てると思うのですが」
店内に入ると出迎えた店員に、僕は少し「連れの者」を強調して告げる。
僕の人生で、「連れの者」なんて使う機会がやってくるとは思わなかった。
店員に連れられてそこへ行くと、既に男子2人、女子2人計4人の先客が温まり始めた鍋を囲っていた。
2人の女子は知っている。朝比奈カーストの取り巻きこと、三枝蜜柑と畦上綾乃だ。
そして、男子は――1人はなんだか少し暗そうな雰囲気の陽キャイケメン、飯島海人。そして、もう1人は――知らん。誰だあの人。
昨日海人とバカ話をしていた矢田くんではない。顔の輪郭が違う。
たぶん他のクラスだな、うん他のクラスだ。
「そういや淳さー、明日提出の英語の課題やったー?」
「は? 俺がやってるわきゃねーだろ。英語六限なんだから、内職でもして明日進めるよ」
「そう言うと思ったー」
淳――と呼ばれたやつ(こちらもイケメン)が、畦上と話している。
明日の六限が英語か、ウチのクラスもだな。そうか、アイツも同じクラスだったのか。
いかん、高校生活がスタートして二ヶ月は経つのに、まだ覚えていない。
と、不意に三枝がこちらに気付き、手を振ってきた。
「おー、りこちーこっちー! って……え?」
りこっちーこっちーって語呂良いな、などと勝手なことを思っている僕を見て、三枝は振っていた手をぴたっと止める。
それから、「えと……後ろの人誰?」みたいな訝しげな目を向けてくる。
人をストーカーみたいに見るんじゃない。
「えと、本日飛び入りでお世話になります。境楓と言います。よろしくお願いします」
僕は気をつけの姿勢で、慇懃に礼をした。
「あーうん、境くん……ね? こちらこそよろしく」
おい、ちょっと困惑気味に言うんじゃないよ。
――。
「それじゃあまあ、全員揃ったことで。あ、りこちーは海人の隣ね」
満面の笑みで、開始早々そんな爆弾を放ってくる三枝蜜柑。自分の名前が気に入っているのか、髪色をオレンジメッシュにしたり靴下の柄を蜜柑にしているこの少女は、善意100%で悪の道に誘う。
「え、えと……私は、その」
「あー照れなくてもいいのに。ほら、早く座って!」
急かすように言う三枝。
飯島の方は、完全にスルーを決め込んでいる。
梨子としては、とても飯島の隣になんて座れないだろうが、親友の善意で見事に板挟みになり、可哀想なくらいおろおろしていた。
「どうしよう」と困り果てた目で、僕の方を見てくる梨子。
僕は小さくため息をついて、
「梨子さんが座らないなら、僕が座るよ」
そう言って、空気を読めない男こと僕は、飯島海人の隣に腰掛けた。
申し訳なさそうに顔をしかめつつもほっとしている梨子とは対照的に、仕掛け人の三枝と畦上が小さく悲鳴を上げる。
「このクソ陰キャ空気読めよ!」「しっしっ! 邪魔すんな!」
そう目で訴えかけてくる対面の二人。同じく対面側に座る淳も、なんか呆れたような目で僕を見ている。
残念だったな。好感度が既に存在しない僕の好感度が下がっても、なんにも痛くないのだ。
と、僕の隣に腰掛けた梨子が、小声で「(ごめんね)」と囁いてくる。
僕は同じく小声で、
「(気にしなくていいよ)」
「(でも……)」
「(今は食事会を楽しんでさ、あとでちゃんと彼と向きあえば、それでいいんじゃない?)」
そう告げると、梨子はほんのりと頬を染め、「ありがとう」と呟いた。
――。
そんなこんなで、時間が過ぎる。
食事会の間、僕は露骨に敵視されていたと思う。
それとなく遠回しに、対面の連中が僕を排斥して飯島と梨子をくっつけようとしているのがわかった。
しかし、ここまできて引き下がるわけにもいかない。僕は、鈍感系主人公も真っ青なほど、相手の嫌味に気付かない振りをして、何食わぬ顔で梨子の隣に居続けた。
けれど、そんな僕も流石に生理現象には抗えない。
「ちょっと席を外すね」
僕は平坦な声色でそう告げる。
すると、三枝達は露骨に嬉しそうに「行ってらっしゃい。なんならそのまま帰ってもいいよ」などと言ってくるが、それも作り笑顔でスルーした。
――トイレは、店を出て廊下に据えられている。
トイレに行って急いで用を足した僕は、なるべく早く戻ることにした。
僕がいないということは、飯島と梨子を隔てる邪魔者がいないということだ。三枝蜜柑達は、何をするかわかったもんじゃない。
早足でトイレを出た僕は、そのまま店内に戻ろうとして――しかし足を止めた。
僕を待っていたのか、そこに人がいた。
「なあ、境」
その人物は、僕に気付くと声をかけてくる。
憎たらしいほどイケメンで、同時に憎たらしいくらい清々しく、梨子を罵倒した男。
「少し、話がしたいんだ。時間貰えないか?」
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その男は、いつになく真剣な表情で、僕の前に立ち塞がっていた。
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