わけあって美少女達の恋を手伝うことになった隠キャボッチの僕、知らぬ間にヒロイン全員オトしてた件

果 一

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第二章 孤高のヤンキー先輩はチョロすぎる

第36話 手芸部、顧問が決まる

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 翌日。
 朝のSHRの時間にて。

「えー。今日は五限に歯科検診が入るから、お前等静かに移動するんだぞー。くれぐれも、周りのクラスに迷惑かけんなよー。こないだ、A組の篠田先生に「B組うるせーぞ」って怒られたかんなー。私の学内評価をさげんじゃないぞガキどもー」

 教卓に手を突いて、死んだ魚のような目をしている小柄の担任教師が話している。
 このいかにも人生舐め腐ってそうな女性教師の名は、奈良坂くるみ。
 服のシワも枝毛も気にせず、ろくに整えられていない見だしなみのだらしない人だが、生まれつきなのか肌はきめ細かく髪の艶はまだ十代と言われておかしくないくらい。

 が、そんな本校の七不思議に数えられる教師の話も、あまり頭に入ってこない。
 昨日、あんなことがあったのだから、仕方ない。

「つーわけで、ホームルームはここまでだ。お前らー、休み時間に入るからって、次の授業の準備忘れんなー。金曜一限は体育だろー」
「くるみちゃん、今日月曜日!」
「あと金曜一限は、化学で先生の担当っすよくるみちゃん!」

 生徒の何人かがすかさずツッコんでいる。
 
「お? そーだったか、いやすまんな。毎日馬車馬のように働かされてるせいか、心と体が無意識に金曜日を求めていたらしい」
「微妙に反応しにくいから闇を出すのやめてください、くるみちゃん!」
「まあとにかくだ! 今日は残念なことに月曜日らしいから、お前等の最初の授業は……、……わからん。忘れたが、まあ各自準備しておくように!」
「「「「くるみちゃん……」」」」

 ジト目を向ける生徒達に気付かず、くるみ先生は出席簿をまとめつつ、

「あ、そうだそうだ。危うく忘れるところだった。おい、境《さかい》」
「っ! は、はい!」

 急に名前を呼ばれて、僕は思わず肩を振るわせる。

「お前、あとで職員室にこい。話がある」
「は、はぁ」

 なんだ? ものぐさなくるみ先生が俺を名指しで職員室に呼ぶなんて珍しい。
 基本的に、日直が出した日誌すら目を通さずに済ませる――というか、生徒に「今日日直なんで日誌ください」と毎日催促されるくらいの人だ。
 どんな話をされることやら――

 そんな風に思いつつ、朝のSHRの時間は終わりを告げ――僕は、くるみ先生の後を追って職員室に向かった。

――。

「あの、先生」

 職員室の自分のデスクに向かっている先生を確認して、僕は先生へ声をかける。

「ん? あー、今日お前が日直か。頼む」

 いえ違います。あと、先生が差し出してるそれ、日誌じゃなくて今日実施する小テストの問題用紙です。
 まあ、いつものことなのでスルーする。

「日直は飯島海人くんですよ。それより、僕に話があるってなんですか?」
「……え?」
「え?」

 あかん。この人もう忘れてる。
 もうやだ。なんで僕の周りには頭おかしい人が多いんだろう。助けて、マトモ枠の飯島くん。
 しばらく虚空を見つめていたくるみ先生は「おー」と手を叩く。

「そうだったな。お前、手芸愛好会の部長だろ? 形式上は」
「まあ、そうですね。形式上は」

 実質、僕しか部員はいないからな。
 まあ、先週梨子が入部して、僕が部長みたいな感じに落ち着いたが。
 それがどうかしたのだろうか?

「それでな。今までは、お前1人のソロ部活というか……ぶっちゃけ、好きにしろって感じだったんだがなー。先週、朝比奈のヤツが兼部申請出しただろ? 加えて、今朝早くに二年の南嶋が入部申請を出してきたんだよ」
「え、南嶋先輩がですか?」

 正直驚いた。
 そんな話、まったく聞かされてなかったし。
 ていうか、あの人今まで部活入ってなかったのか。

「そうだ。それでなー、流石にお前含めて部員が3人となると、愛好会じゃなくてちゃんと部活として認める必要が出てきたわけだ」
「まじですか!」

 思わず声が大きくなってしまう。
 一人きりの楽しみが減ってしまう悲しさはあるが、それよりも期待や楽しみが勝っている自分に驚く。

 僕、こんなに誰かと接することが好きだっただろうか。
 なんだかんだ、梨子や南嶋先輩、海人と接するうちに変わっていっているのかもしれない。

「それでだなー。当然、部活には顧問が必要になる。というわけで……私がお前等手芸部の顧問だ。さっきじゃんけんで決まった」
「……え?」

 不意に、くるみ先生がそんな爆弾を放った。

「なんだ? 不服かー?」
「いや、不服じゃないですけど……」
「ちなみに私は不服だ。サービス残業が増える」
「いっそ清々しいですね」

 いつも通り歯に衣着せぬ物言いの担任教師に、頭を抱えるしかない。

「ていうか、じゃんけんて」
「仕方ないだろー。公正かつ正統に敗北した結果、私が貧乏くじを引いただけだ。よって、私は顧問をしなければいけない。仕事だからなー、何かあれば私を頼れ。可能な範囲で、できうる限り、たぶんきっとおそらく、最小限のフォローはしてやる……かもしれない」

 ここまで頼りにならない「私を頼れ」も珍しいな。

「まあ、たまに部室に顔は出すから、そのときはお茶でも出してくれ」
「はい、わかりまし――え?」
「なんだ? 普段お世話になってる美人先生に、お茶を淹れるのは礼儀というものだろうー? 手芸部の部室は給湯室の隣だし」
「いやまあ、構いませんけど……本音は?」
「部活の監査という名目で仕事をサボれる」

 そんなことだろうと思いましたよ。
 僕は、こころの中で大きくため息をついた。

 ――この日、手芸愛好会は、多大なる犠牲を払って手芸部へと昇格した。

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