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第二章 孤高のヤンキー先輩はチョロすぎる
第35話 修羅場っている
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《境楓視点》
――昼食を食べ終え、さてどうしようかと悩んでいたが、不意にそのときがやって来た。
ゾクリ。
背中を刺すような寒気がして、僕は思わず振り返った。
「よぉ、楓。遅くなって悪かったな」
そこに立っていたのは、笑顔の南嶋先輩だった。
いや、よく見ると目が笑っていない。仁王立ちで、服の下から押し上げる豊かな双丘の下で腕を組み、額には怒りマークが浮かんでいる。
なんか、黒紫色の見えちゃいけないオーラが漂ってる気がするのだが……なぜだろうか?
「あ、あの、南嶋……先輩? 粕壁先輩とのお楽しみは、もういいんでしょうか?」
あまりの迫力に、脂汗を隠しきれない僕は、頬を引きつらせながらなんとかそう尋ねる。
南嶋先輩は、あくまで氷河期の笑顔のまま、
「ああ。たった今終わった。それより……」
ちらりと、南嶋先輩は僕の前を見る。
そこには、なぜか俯いて黙っている梨子の姿があった。
「なるほど。嘘とは言え姉を一方的に放り出して、自分はデートか、そうかそうか。一応、今日はウチとデートのはずなんだがな? 少し目を離したら他の女とデートか。良い御身分だな、うん?」
ゴゴゴゴ……。
何やら、そんな音が聞こえてきそうな迫力に、さっきから冷や汗が止まらない。
今日のあれってデートだったの? とか、梨子とはたまたま会っただけでデートでは断じてない! とか。いろいろと言いたいことはあるが、そんなこと聞き返したら、たぶん首をねじ切られる。
「え、えと……あのぉ」
こうなったら、もう梨子に弁明してもらうしかない。
僕は、この騒動を抑えられそうな人を振り返って――その瞬間、絶句した。
「……前から、思ってたの」
ゆらゆらと。
まるで亡霊か何かのように、音も無く梨子が立ち上がる。
纏う空気は恐ろしく冷たく、遊園地に就職したらメイクなしでお化け屋敷の脅かし役ができそうなくらいだ。
「あなた、二年の先輩ですよね? 私の楓くんと、どういう関係なんです?」
いつの間にか僕が所有物にされているが、ちょっとそれに突っ込める気配ではない。
ていうか、目からハイライトが消えてる!?
「なるほど。見たことがあると思ったら、前々から手芸部に出入りしている女狐だな? 今日はウチとコイツでデートしに来てるんだ。あまり横から掻っ攫わないで貰えないか? デ ー トの邪魔だ」
「そうですか。でも、それをちゃんと本人に伝えました? デートはデートと言わない限り、デートじゃないんですよ?」
「ほぅ、言ってくれるな? 自分だって勝手に舞い上がっていた口だろうが」
「ふふ、それこそどの口が言うんですか?」
え、あの。
待って何コレ。
なんでこの二人、こんな仲悪いの?
これはあれか?
ちょっとウザいラブコメ主人公みたいな感じで、「僕のために争わないで!」とか言った方がいいのか?
「おほん。えっと君達、僕の――」
「お前は黙ってろ!」
「楓くんは黙ってて!」
「あ、はい。すいません」
0.5秒で撃沈した。理不尽だ。
――その後、二人の言い争いは小一時間ほども続いて、その場は解散となった。
どっと気疲れした俺は、家に帰るなり自室のベッドに倒れ込んだ。
なぜ、彼女たちはあそこまで怒っていたのか。
正直、まるでわからん。
これが、両方と付き合っていた、とかならわかるのだ。だって、浮気も同然だから修羅場なわけだし。
しかし、大前提として僕はどちらとも付き合っていない。ていうか、僕みたいな人間があんなハイレベルな美少女と付き合うなんて、許されるわけがないだろう。
世の中、陰キャには優しくできていないのだ。
「はぁ~……手相占いでもしてもらおうかな」
うん、そうしよう。きっと女難の相が出てるに違いない。
そんな風にため息をついていると、ガチャリと音を立てて部屋の扉が開いた。
「かえく~ん。帰ったんなら夕飯の準備手伝えって」
人がセンチに浸っているときに、無遠慮にもぶち壊してきたのは我が姉、紅葉《くれは》だ。
頭がボサボサだから今の今まで昼寝でもしていたのだろう。
「ちょっと休んだら行くよ」
「そうしな。どうせ人付き合いなんてできないかえくんじゃ、気疲れしただろうし」
「一言余計だよ」
心配しているのか貶しているのか、どっちだ。
しかし、本当に疲れたな。再びため息をつくと、姉は怪訝そうな顔で聞いてきた。
「どした? 友達に苛められた?」
「いや。ただ……今日、女子2人が修羅場ってて大変だった。女心って難しいんだね」
「かえくん……」
黄昏れる僕を見る姉の顔は、夕日の逆光で見えない。
が、きっとボッチから新たな領域に踏み出し、一歩成長した僕に、感慨深い気持ちでいるに違いな――
「その設定、まだ生きてたんだ。かえくんが女子とお出かけなんてするわけないんだから、私の前では自分に正直に生きていいんだぞ? お姉ちゃんは全部受け止めるから」
チクショウやっぱこの姉嫌いだ。
――昼食を食べ終え、さてどうしようかと悩んでいたが、不意にそのときがやって来た。
ゾクリ。
背中を刺すような寒気がして、僕は思わず振り返った。
「よぉ、楓。遅くなって悪かったな」
そこに立っていたのは、笑顔の南嶋先輩だった。
いや、よく見ると目が笑っていない。仁王立ちで、服の下から押し上げる豊かな双丘の下で腕を組み、額には怒りマークが浮かんでいる。
なんか、黒紫色の見えちゃいけないオーラが漂ってる気がするのだが……なぜだろうか?
「あ、あの、南嶋……先輩? 粕壁先輩とのお楽しみは、もういいんでしょうか?」
あまりの迫力に、脂汗を隠しきれない僕は、頬を引きつらせながらなんとかそう尋ねる。
南嶋先輩は、あくまで氷河期の笑顔のまま、
「ああ。たった今終わった。それより……」
ちらりと、南嶋先輩は僕の前を見る。
そこには、なぜか俯いて黙っている梨子の姿があった。
「なるほど。嘘とは言え姉を一方的に放り出して、自分はデートか、そうかそうか。一応、今日はウチとデートのはずなんだがな? 少し目を離したら他の女とデートか。良い御身分だな、うん?」
ゴゴゴゴ……。
何やら、そんな音が聞こえてきそうな迫力に、さっきから冷や汗が止まらない。
今日のあれってデートだったの? とか、梨子とはたまたま会っただけでデートでは断じてない! とか。いろいろと言いたいことはあるが、そんなこと聞き返したら、たぶん首をねじ切られる。
「え、えと……あのぉ」
こうなったら、もう梨子に弁明してもらうしかない。
僕は、この騒動を抑えられそうな人を振り返って――その瞬間、絶句した。
「……前から、思ってたの」
ゆらゆらと。
まるで亡霊か何かのように、音も無く梨子が立ち上がる。
纏う空気は恐ろしく冷たく、遊園地に就職したらメイクなしでお化け屋敷の脅かし役ができそうなくらいだ。
「あなた、二年の先輩ですよね? 私の楓くんと、どういう関係なんです?」
いつの間にか僕が所有物にされているが、ちょっとそれに突っ込める気配ではない。
ていうか、目からハイライトが消えてる!?
「なるほど。見たことがあると思ったら、前々から手芸部に出入りしている女狐だな? 今日はウチとコイツでデートしに来てるんだ。あまり横から掻っ攫わないで貰えないか? デ ー トの邪魔だ」
「そうですか。でも、それをちゃんと本人に伝えました? デートはデートと言わない限り、デートじゃないんですよ?」
「ほぅ、言ってくれるな? 自分だって勝手に舞い上がっていた口だろうが」
「ふふ、それこそどの口が言うんですか?」
え、あの。
待って何コレ。
なんでこの二人、こんな仲悪いの?
これはあれか?
ちょっとウザいラブコメ主人公みたいな感じで、「僕のために争わないで!」とか言った方がいいのか?
「おほん。えっと君達、僕の――」
「お前は黙ってろ!」
「楓くんは黙ってて!」
「あ、はい。すいません」
0.5秒で撃沈した。理不尽だ。
――その後、二人の言い争いは小一時間ほども続いて、その場は解散となった。
どっと気疲れした俺は、家に帰るなり自室のベッドに倒れ込んだ。
なぜ、彼女たちはあそこまで怒っていたのか。
正直、まるでわからん。
これが、両方と付き合っていた、とかならわかるのだ。だって、浮気も同然だから修羅場なわけだし。
しかし、大前提として僕はどちらとも付き合っていない。ていうか、僕みたいな人間があんなハイレベルな美少女と付き合うなんて、許されるわけがないだろう。
世の中、陰キャには優しくできていないのだ。
「はぁ~……手相占いでもしてもらおうかな」
うん、そうしよう。きっと女難の相が出てるに違いない。
そんな風にため息をついていると、ガチャリと音を立てて部屋の扉が開いた。
「かえく~ん。帰ったんなら夕飯の準備手伝えって」
人がセンチに浸っているときに、無遠慮にもぶち壊してきたのは我が姉、紅葉《くれは》だ。
頭がボサボサだから今の今まで昼寝でもしていたのだろう。
「ちょっと休んだら行くよ」
「そうしな。どうせ人付き合いなんてできないかえくんじゃ、気疲れしただろうし」
「一言余計だよ」
心配しているのか貶しているのか、どっちだ。
しかし、本当に疲れたな。再びため息をつくと、姉は怪訝そうな顔で聞いてきた。
「どした? 友達に苛められた?」
「いや。ただ……今日、女子2人が修羅場ってて大変だった。女心って難しいんだね」
「かえくん……」
黄昏れる僕を見る姉の顔は、夕日の逆光で見えない。
が、きっとボッチから新たな領域に踏み出し、一歩成長した僕に、感慨深い気持ちでいるに違いな――
「その設定、まだ生きてたんだ。かえくんが女子とお出かけなんてするわけないんだから、私の前では自分に正直に生きていいんだぞ? お姉ちゃんは全部受け止めるから」
チクショウやっぱこの姉嫌いだ。
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