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第二章 《最凶の天空迷宮編》
第六十六話 明かされる真相2
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『二年前のことだ。俺は、五つ歳の離れた妹のクレアと共に、第三迷宮《トリアース》の攻略に挑んでいた。だが、最下層の攻略中、モンスターの大群に出くわした。一匹一匹はさして強くもないが、視界を埋め尽くすほどの量に翻弄された。やがてMPが0になり、スキル反動臨界症の症状も色濃く出てきたが、数は減らない。じわじわと削られた果てに、ほんの少しの油断を突かれてクレアは惨殺された。兄である俺の目の前で、だ』
悔恨と憎悪、憤怒。
負の気持ちが複雑に混じり合った、狂気にも似た強烈な感情が押し寄せる。
報復者は、その握った拳を振るわせながら話を続けた。
『クレアを目の前で失った俺は、そのとき怒りで頭が真っ白になった。そのときだった。運命の悪戯か、あるいはクレアを失ったことの代償か。俺の手にいつの間にか、あるユニークスキルが授けられていることに気付いた。そのユニークスキルの名こそ、《報復》。自身が設定した復讐対象に、完全なる崩壊を与える力だ』
「《報復》……だって?」
僕は、あまりに禁忌過ぎる力を内包しているそのユニークスキルの存在に、驚いた。
だが、ユニークスキルの入手自体が難しく、それ故に強力なものが多いというのが一派的な認識だ。
僕の持つ《交換》も、ダンジョンのボスクラスが持つ強スキルをバンバン交換できる、ぶっ壊れチートスキルだ。
指定した対象を崩壊させるユニークスキルがあっても、何ら不思議はない。
『ユニークスキル《報復》を手にした俺は、その場で迷わず復讐対象を、目の前に蔓延るモンスター全てに設定し、殲滅したんだ。そこまでは良かったが――俺の怒りは、収まらなかった』
「だから、クレアの命を奪い去ったこの世界――ダンジョンそのものを復讐に設定したと?」
『そういうことだ』
なるほど。
この男の狙いは、ダンジョン全ての崩壊。単刀直入に言って、冗談じゃない。
ダンジョン内に、どれほどの人間がいると思っているのか。
ダンジョンを崩壊させると言うことは、つまり攻略者を見殺しにするということに他ならない。
怒りが湧いてきながらも……この男が、どうして報復者と名乗ったのかはわかった。
けれど、解せないことがある。
「わからないな。お前の復讐に、どうしてここにいるクレアが必要だったんだ?」
『このユニークスキルには、ある大前提がある。一つは、報復として破壊できる対象には上限があるということ』
それはそうだろう。
普通に考えて、ダンジョン世界を崩壊させるような一大事を、命令一つで実行されたらたまったものじゃない。
そもそも、世界の概念をたかが人間如きが変えられるようなスキルがあるはずもない。
人は、神じゃないのだ。
『だが、俺はダンジョンという巨大な存在への報復を諦めなかった。ユニークスキルの詳細を調べていく内に、一種のバグのようなチートコマンドを見つけた。それは、“報復を決めた理由――根源たる存在に《報復》を付与することで、報復対象の上限を取り払うことができる”というもの』
「なっ!?」
僕は、耳を疑った。
そんなことがあっていいのか?
驚愕で硬直する僕の前で、報復者は話を続ける。
『クレアの身体は、生前の美しい状態で保たれるように《保存》のスキルで保存していたから、試すのに問題はなかった』
「死んだ妹を美しい状態で保存て……とんだシスコンだなあんた」
『何か言ったか?』
「いいえ、別に」
目を閉じ、そっぽを向く。
よほど妹を大切に思っていたんだろう。なら、それこそ保存なんてせずに静かな場所で眠らせてあげるべきだと思ったが……愛の形は人それぞれだもんな。
『とにかく、俺は俺の憎悪の中核を成すクレアの遺体に、《報復》を付与した。《報復》の主導権は俺の手に残ったまま、彼女は上限突破した復讐の代行者としての立場を得たんだ』
「なるほど。クレアの遺体にお前の復讐心とユニークスキルを宿した存在。それが、今のクレアというわけか……いや、じゃあなんで人間みたいに喋ったり動いたりするわけ? あんた死霊術士か何か?」
『いいや。彼女が意思を持って動いているのには、俺の持つもう一つのユニークスキルが関係している』
「え!? ユニークスキル二つ!?」
チートじゃん。
もうお前がこの作品の主人公やりなよ。
死んだ妹を愛し続け、悲劇と復讐の中に身を投じる最強孤独系主人公。絶対ウケるって、うん。
などというメタ発言はやめておこう。
「その、もう一つは?」
『《与魂》。本物の魂に限りなく近い疑似霊魂を造り出し、意志や命を持たない無機物や、魂の抜け去った亡骸なきがらに与えることのできるユニークスキルだ。造り出した魂をクレアの遺体に入れ、蘇生した。条件付きだが命を造り出せるとも言えるユニークスキルの力ゆえだ』
「えぇ~……」
人間は神じゃない。
とか思っていた矢先、神になれそうな人間一号が現れた。
「つまり、今のクレアはユニークスキル二つの力を宿した、一度死んだお前の妹……ってことか?」
『そうだ』
「じゃあさ、あいつも生き返らせたりできるの?」
僕は、死にたてほやほやのウッズを指さす。
今の話が本当なら、死んだばかりのウッズに会えるかもしれない。そんでもって、満を持して死んだと思っていたウッズの驚く顔を拝んで、煽りまくることもできるかも。
そう思ったが、報復者は首を横に振った。
「いや、不可能だ。なぜなら魂は造り出すだけで、黄泉の世界に消えた魂を呼び戻すわけじゃない。必然、性格や能力、言動、雰囲気は全く違う物になる。身体は一緒でも、本質的に全くの別人だ」
「なるほど」
――『俺はクレアの兄であって、その女の兄ではない。いや、正確には身体はクレアのはずだがな』――
さっき、意味深なことを言っていたことの意味がようやくわかった。
『――改めて礼を言おう、エラン。お前のお陰で、俺の計画は完成した』
「……は?」
急に、突拍子もなくそんなことを言ってきた報復者は、口元を歪める。
さっきあえてスルーした、僕への恩赦。
訝しむ僕の疑問に答えるように、彼は話を続けた。
――話に夢中になっていたせいか、クレアの身体の異変が、ピークを迎えようとしていることに、全く気が付かなかったが。
悔恨と憎悪、憤怒。
負の気持ちが複雑に混じり合った、狂気にも似た強烈な感情が押し寄せる。
報復者は、その握った拳を振るわせながら話を続けた。
『クレアを目の前で失った俺は、そのとき怒りで頭が真っ白になった。そのときだった。運命の悪戯か、あるいはクレアを失ったことの代償か。俺の手にいつの間にか、あるユニークスキルが授けられていることに気付いた。そのユニークスキルの名こそ、《報復》。自身が設定した復讐対象に、完全なる崩壊を与える力だ』
「《報復》……だって?」
僕は、あまりに禁忌過ぎる力を内包しているそのユニークスキルの存在に、驚いた。
だが、ユニークスキルの入手自体が難しく、それ故に強力なものが多いというのが一派的な認識だ。
僕の持つ《交換》も、ダンジョンのボスクラスが持つ強スキルをバンバン交換できる、ぶっ壊れチートスキルだ。
指定した対象を崩壊させるユニークスキルがあっても、何ら不思議はない。
『ユニークスキル《報復》を手にした俺は、その場で迷わず復讐対象を、目の前に蔓延るモンスター全てに設定し、殲滅したんだ。そこまでは良かったが――俺の怒りは、収まらなかった』
「だから、クレアの命を奪い去ったこの世界――ダンジョンそのものを復讐に設定したと?」
『そういうことだ』
なるほど。
この男の狙いは、ダンジョン全ての崩壊。単刀直入に言って、冗談じゃない。
ダンジョン内に、どれほどの人間がいると思っているのか。
ダンジョンを崩壊させると言うことは、つまり攻略者を見殺しにするということに他ならない。
怒りが湧いてきながらも……この男が、どうして報復者と名乗ったのかはわかった。
けれど、解せないことがある。
「わからないな。お前の復讐に、どうしてここにいるクレアが必要だったんだ?」
『このユニークスキルには、ある大前提がある。一つは、報復として破壊できる対象には上限があるということ』
それはそうだろう。
普通に考えて、ダンジョン世界を崩壊させるような一大事を、命令一つで実行されたらたまったものじゃない。
そもそも、世界の概念をたかが人間如きが変えられるようなスキルがあるはずもない。
人は、神じゃないのだ。
『だが、俺はダンジョンという巨大な存在への報復を諦めなかった。ユニークスキルの詳細を調べていく内に、一種のバグのようなチートコマンドを見つけた。それは、“報復を決めた理由――根源たる存在に《報復》を付与することで、報復対象の上限を取り払うことができる”というもの』
「なっ!?」
僕は、耳を疑った。
そんなことがあっていいのか?
驚愕で硬直する僕の前で、報復者は話を続ける。
『クレアの身体は、生前の美しい状態で保たれるように《保存》のスキルで保存していたから、試すのに問題はなかった』
「死んだ妹を美しい状態で保存て……とんだシスコンだなあんた」
『何か言ったか?』
「いいえ、別に」
目を閉じ、そっぽを向く。
よほど妹を大切に思っていたんだろう。なら、それこそ保存なんてせずに静かな場所で眠らせてあげるべきだと思ったが……愛の形は人それぞれだもんな。
『とにかく、俺は俺の憎悪の中核を成すクレアの遺体に、《報復》を付与した。《報復》の主導権は俺の手に残ったまま、彼女は上限突破した復讐の代行者としての立場を得たんだ』
「なるほど。クレアの遺体にお前の復讐心とユニークスキルを宿した存在。それが、今のクレアというわけか……いや、じゃあなんで人間みたいに喋ったり動いたりするわけ? あんた死霊術士か何か?」
『いいや。彼女が意思を持って動いているのには、俺の持つもう一つのユニークスキルが関係している』
「え!? ユニークスキル二つ!?」
チートじゃん。
もうお前がこの作品の主人公やりなよ。
死んだ妹を愛し続け、悲劇と復讐の中に身を投じる最強孤独系主人公。絶対ウケるって、うん。
などというメタ発言はやめておこう。
「その、もう一つは?」
『《与魂》。本物の魂に限りなく近い疑似霊魂を造り出し、意志や命を持たない無機物や、魂の抜け去った亡骸なきがらに与えることのできるユニークスキルだ。造り出した魂をクレアの遺体に入れ、蘇生した。条件付きだが命を造り出せるとも言えるユニークスキルの力ゆえだ』
「えぇ~……」
人間は神じゃない。
とか思っていた矢先、神になれそうな人間一号が現れた。
「つまり、今のクレアはユニークスキル二つの力を宿した、一度死んだお前の妹……ってことか?」
『そうだ』
「じゃあさ、あいつも生き返らせたりできるの?」
僕は、死にたてほやほやのウッズを指さす。
今の話が本当なら、死んだばかりのウッズに会えるかもしれない。そんでもって、満を持して死んだと思っていたウッズの驚く顔を拝んで、煽りまくることもできるかも。
そう思ったが、報復者は首を横に振った。
「いや、不可能だ。なぜなら魂は造り出すだけで、黄泉の世界に消えた魂を呼び戻すわけじゃない。必然、性格や能力、言動、雰囲気は全く違う物になる。身体は一緒でも、本質的に全くの別人だ」
「なるほど」
――『俺はクレアの兄であって、その女の兄ではない。いや、正確には身体はクレアのはずだがな』――
さっき、意味深なことを言っていたことの意味がようやくわかった。
『――改めて礼を言おう、エラン。お前のお陰で、俺の計画は完成した』
「……は?」
急に、突拍子もなくそんなことを言ってきた報復者は、口元を歪める。
さっきあえてスルーした、僕への恩赦。
訝しむ僕の疑問に答えるように、彼は話を続けた。
――話に夢中になっていたせいか、クレアの身体の異変が、ピークを迎えようとしていることに、全く気が付かなかったが。
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