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第二部 反撃の狼煙 〈ロストナイン帝国〉内部へ!

第四章3 足を引っ張らないでもらえます?

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「おにい?」
「……えっ!?」

 何やら、聞き馴染みはあるが、ここにいるはずのない人物の声が聞こえて、私は首がちぎれるんじゃないかという勢いで後ろを振り返る。

 案の定。
 そこには、本来ここにいるわけがない人物の姿があった。

 ゆるりと伸びた金髪が夜風に靡なびき、茶目っ気溢れるアイスブルーの大きな瞳がこちらを見上げている。
 その人物の正体とは……

「ふぃ、フィリア!?」

 私は驚いて、いつの間にかそこにいたフィリアから距離を取った。

「どうしてこんなところに!?」
「おにいの後を付けてきたんだよ」

 なんの悪びれもなく、そう言ってのけるフィリア。

「私以外はみんな雑木林で待機ってこと、知ってるでしょ?」
「もっちのろん! でも、あんな薄暗いとこ怖いから、抜け出してきた」
「はぁ~」

 私は、おもいっきりため息をついた。

「なに、そんな深いため息をついて。フィリアが来ると困るの?」
「いや? 待機命令を無視してまで愛する兄(女体化)に会いに来てくれるなんて、感心してつい吐息が漏れただけだよ」
「ふっふ~ん、いい妹を持ったでしょ? でも、感心してるならもっと嬉しそうな顔して欲しいな!」

 感心してるわけないだろ、このアホたれが。
 存在そのものがKYであるフィリアを引き連れて作戦を遂行するのは、非常に困難であること請け合いだ。

 フィリアの参戦によって、元々困難なミッションの成功確率が更に低くなった。

(やれやれ。剣術がそこそこできる以外は、ただの癒やし系マスコットなんだよね)

 常時元気いっぱいのド天然生意気妹が、隠密作戦なんて絶対無理だ。
 この街に入る時点で、門番に気付かれずに〈ディストピアス〉の門をくぐれたとは、到底思えない――

(ん? 待てよ……?)

 そうだ。よくよく考えれば、魔術を使えないフィリアが、門番に気付かれずにこの街に侵入できたというのには疑問が残る。

「ねえ、フィリア」
「うん? 何?」
「どうやって監視の目を潜って、この街に入ったの? 門には門番がいたはずだけど」
「そういえばいたね。ぶっ飛ばしたけど」
「……はい?」

 私は、自分の耳を疑った。
 今、「ぶっ飛ばした」って言わなかった?

 いやいやいや、そんなことあるわけがない。
 今回の作戦の利は、奇襲にあるということはフィリアもわかっているはずだ。セルフィス王女を救出して雑木林に控える本隊に連絡するまで、私は絶対に敵に見つかってはいけないのである。

 もしフィリアが言うことが事実であれば、これは由々しき事態だ。
 ぶっ飛ばされた門番が発見されれば、侵入者がいることが直ちに〈ウリーサ〉に報告され、厳戒態勢に入るはず。

 そうなれば、作戦の成功確率は無に等しくなる。
 ――というか、0パーセントを振り切って、マイナスパーセントな気がする。

「ぶっ飛ばしたって、本当にぶっ飛ばしたの? 冗談とか誇張表現じゃなくて?」

 頼む後者であってくれ!
 そう願いながら、フィリアの返答を待つ。

 さあ、答えは……?

「言葉通りの意味だよ? 門番の人が通してくれなくて、力尽くで通ろうとしたらいきなり斬りかかってきたから、返り討ちにした」

 ――嗚呼、終わった。
 私は頭を抱えてその場にうずくまる。
 いろいろとこれからのことが思いやられて、フィリアを怒る気すら湧かない。

「そんなことより、喉渇いたからジュース買ってくるね」

 私の心中など露知らず、脳天気なフィリアは近くの商店に向かってスキップしていく。
 とりあえず、フィリアにはテキトーに買い物させつつ、私一人で王女救出作戦を頑張った方がいいのではなかろうか?
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