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本編
18 孤児院の訪問
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今日はランディ様がお休みなので、いつもよりゆっくり眠ることになった。珍しく私の方が早く起きたので、彼の寝顔を堪能することにした。
寝ていても男らしくて凛々しいお顔。格好いいな。左目にある傷にそっと触れてみる。これはランディ様が騎士として戦って、国を守った証だ。私はその傷口にちゅっとキスをした。
「大好きです」
そう言った途端に恥ずかしくなって、私はぴょんとベッドからおりた。とりあえず顔を洗って心を落ち着かせよう。
「なんだあれ……!可愛すぎる……!!」
ランディ様は寝たふりをしていただけで、しばらくベッドの中で悶えていたらしい。そんなことを全く知らない呑気な私は顔を洗って戻ってきたところ……彼の大きな手が伸びてきてベッドの中に引き戻された。
「もう少し一緒に寝よう」
そんなことを言う割に、寝かせる気はないようで……二人でシーツに包まったまま蕩けるような熱いキスを繰り返した。ちゅっちゅ、というリップ音が部屋に響いて恥ずかしい。だけど気持ち良くてやめられそうもない。
「ヴィヴィがいるだけで最高の朝だ」
それからなんとかベッドから離れた。彼は「まだ二人で寝ていたい」と拗ねていたけれど、ここで流されては予定が狂ってしまうので心を鬼にした。
二人で仲良くブランチを食べて、孤児院へ向かうことにした。今日は街で小さい子向けの絵本と、少し大きい子向けの児童書を買ってから行く予定だ。
街に降り立つと、みんなの視線がこちらに集まる。ランディ様と一緒なのでこれは当然の反応だろう。書店へ寄るために、彼にエスコートを受けながら街を歩いて行く。
「奥様、今日はランドルフ様とご一緒なのですね」
「またこちらも寄ってくださいね」
「これ持っていってください。新作なんでお二人で食べてください」
すっかり顔馴染みになったみんなに、沢山話しかけられる。
「ふふ、今日は旦那様が休みなのでお出かけです」
「今度伺いますね」
「わあ、ありがとうございます。嬉しいです」
いつの間にか、私の両手には街の方のご好意で色んなものが乗せられていた。
「……ヴィヴィはすごいな」
「え?何がですか」
私は街を歩いているだけで、何もすごいことはない。むしろベルナール領の領民達が皆親切なのだ。
「人気者だな」
「ふふ、それはあなたの奥様という肩書きがあるからです。だからランディ様がすごいんですよ!」
「俺は皆からこんなに話しかけられない。だから君がすごいんだ」
屈強な騎士で、将来は自分たちの領主になるランディ様に気楽には話しかけられないだろう。私はなんというか、サイズ的にも年齢的にもみんな気安いのだと思う。
公爵家に嫁いだ身としては、気高さが足りないのではと不安になるが……仕方がない。私にはカリスマ性はないので、領民達からも親しみやすい奥様としてやっていくことを決めた。
書店に寄ると、店長さんが事前に頼んでいたんだ本を用意してくださっていた。
「この前は、どの本が良いか相談に乗っていただきありがとうございます」
「こちらこそ、いつもありがとうございます。ランドルフ様、本当に素敵な奥様でいらっしゃいますね。この街の皆はもうすっかり奥様のファンですよ」
そんな風にランディ様の前で褒めてもらえるのは嬉しいけれど、恥ずかしい。
「……ああ、俺には勿体ないほどの妻だ。これからも妻の相談に乗ってやってくれ。よろしく頼む」
ひゃあー!ランディ様まで、そんな有難いことを言ってくださるなんて。私は恥ずかしくて染まった頬を両手で隠した。
沢山の本をランディ様がひょいと簡単に持ってくださった。私なら五回くらいに分けないと持てないような量を彼は楽々と片手で持ってしまう。
「重たいのに申し訳ありません」
「これくらい重いうちに入らない」
空いている方の手を繋ぎ、二人で孤児院を目指した。気持ちが通じてから、ランディ様は外でも私に触れてくださるようになった。なんか幸せすぎて、困ってしまう。ついニマニマと頬が緩むのは許して欲しい。
「こんにちは」
私の声に気が付いて、孤児院の子ども達が一斉に駆け寄ってきた。
「ヴィヴィアンヌ様だ!」
「わーい、今日も遊んでくれるの?」
沢山の子どもたちが、私を見た後……後ろにいるランディ様に気が付いて柱の裏に隠れた。
「あー……」
ありゃりゃ。やっぱり大柄な男性って怖いのかしら?私は苦笑いをしながら、チラリとランディ様を見た。無表情なままだが、多分傷付いていらっしゃる。
「み、みんな慣れていないだけですわ!」
「いつもこうだから……気にしていない」
哀しそうな声で、ポツリと呟いたランディ様に胸が苦しくなる。子どもがお好きなのに!しかも彼はこんなに優しいのに!
「ランディ様、かがんでくださいませ。たぶん大きいのが怖いのです」
私はぐいぐいとランディ様の腕を下に引っ張って、強引にしゃがませた。
「みんな!この方は私の大事な旦那様、ランドルフ様よ。実はみんなの本や服を買ってくれたのは、このランドルフ様なの。今日も沢山本を持ってきたわ」
ニコニコと笑ってそう伝えると、みんなぴょこぴょこと柱から顔を出した。
「ヴィヴィアンヌ様の……旦那様?」
小さなエミリーが近付いてきて、私とランディ様を交互に見た。
「ええ。しかも彼は、私やこの国を護ってくださる強い騎士なの!」
「騎士……このご本と一緒!?」
手に持っている絵本は、騎士とお姫様が結ばれる昔からの物語だ。
「そうよ!すごいでしょう?」
「すごーい!お姫様を護るためにこんなに大きいのね!」
エミリーが傍に来てくれたことで、みんなの警戒心が解けた。私とランディ様は一瞬でみんなに囲まれた。ランディ様の肩や腕には……子ども達が何人もまとわりついている。
ランディ様は最初は少し困惑していたが、すぐに嬉しそうな表情に変わった。男の子達には剣を教え、あっという間に「格好いい」と憧れられていた。
私は女の子達を中心に歌を歌ったり、本を読んだりしていた。
「ヴィヴィアンヌ様!僕、ランドルフ様みたいな強い騎士になる」
「まあ、素敵な夢だわ」
この子はボブ。少しやんちゃだが、下の子達の面倒見が良い男の子だ。私は彼の頭を撫でてあげる。
「だからね、ヴィヴィアンヌ様!大きくなったら僕のお嫁さんになって!」
まさかこんな可愛い子に求婚されてしまった。そういえば弟のアルも昔は『姉様と結婚する』なんて嬉しいことを言ってくれていたなぁ、なんて懐かしいことを思い出した。
さてどう答えようか?と考えているとツカツカと凄い勢いでランディ様が隣にやってきた。
「ボブ、それは無理だ。諦めろ」
「ええ!?どうして?」
「ヴィヴィは俺の愛する妻だ。だから俺だけのものだ。ボブはこれから違う大事な女性に出逢うだろう。その人と結婚しろ」
ランディ様が真顔で淡々とそう言った。私は真っ赤になりながら俯いた。
――ランディ様ったら子ども相手にそんなこと。
彼はボブに見せつけるように、私の肩を抱き寄せた。ちょっと恥ずかしい。
「ランドルフ様が一番で、僕は二番目でいいから!それでもだめ?」
なかなか斬新な提案だが残念ながら我が国では、一妻多夫制度は認められていない。
「だめだ!」
ランディ様は子どもでも譲る気は一切ないらしい。かなり大人げないが、ここまでくるといっそ清々しい。ボブはちぇっ、と唇を尖らせて拗ねていた。
「ボブ、気持ちは嬉しいわ。ありがとうね。でも……私はランディ様が好きだからごめんね」
そう言ってボブの頭を撫でていると、隣でランディ様が口を手でおさえながら真っ赤になっていた。
夕方までしっかりとみんなと遊んで、シスター達にもたっぷりとお礼を言われ家に帰ることになった。
子ども達が別れ際に「また来てね」とか「帰っちゃやだ」と泣いてくれたのが嬉しかった。
「楽しかったですね。ランディ様今日はついてきてくださって、ありがとうございました」
「いや、俺の方こそ礼を言う。あんなに街の人に話しかけられたり、子ども達と遊んだのは初めてだった。全部ヴィヴィがいてくれたからだ」
「私は何もしていませんよ」
本当に何もしていない。ランディ様は身体が大きくてぱっと見怖いだけで、とても心優しくて格好良いのだからみんなが知れば近寄ってくるに決まっている。
「何もしていない……か。ヴィヴィは自分のことを全然わかっていないな」
「え?」
「自分の凄さをわかっていない。君は自然とみんなに愛される力を持っている。改めて俺の奥さんは素敵な女性だとわかったよ」
ランディ様に褒められて、私は真っ赤になって俯いた。
寝ていても男らしくて凛々しいお顔。格好いいな。左目にある傷にそっと触れてみる。これはランディ様が騎士として戦って、国を守った証だ。私はその傷口にちゅっとキスをした。
「大好きです」
そう言った途端に恥ずかしくなって、私はぴょんとベッドからおりた。とりあえず顔を洗って心を落ち着かせよう。
「なんだあれ……!可愛すぎる……!!」
ランディ様は寝たふりをしていただけで、しばらくベッドの中で悶えていたらしい。そんなことを全く知らない呑気な私は顔を洗って戻ってきたところ……彼の大きな手が伸びてきてベッドの中に引き戻された。
「もう少し一緒に寝よう」
そんなことを言う割に、寝かせる気はないようで……二人でシーツに包まったまま蕩けるような熱いキスを繰り返した。ちゅっちゅ、というリップ音が部屋に響いて恥ずかしい。だけど気持ち良くてやめられそうもない。
「ヴィヴィがいるだけで最高の朝だ」
それからなんとかベッドから離れた。彼は「まだ二人で寝ていたい」と拗ねていたけれど、ここで流されては予定が狂ってしまうので心を鬼にした。
二人で仲良くブランチを食べて、孤児院へ向かうことにした。今日は街で小さい子向けの絵本と、少し大きい子向けの児童書を買ってから行く予定だ。
街に降り立つと、みんなの視線がこちらに集まる。ランディ様と一緒なのでこれは当然の反応だろう。書店へ寄るために、彼にエスコートを受けながら街を歩いて行く。
「奥様、今日はランドルフ様とご一緒なのですね」
「またこちらも寄ってくださいね」
「これ持っていってください。新作なんでお二人で食べてください」
すっかり顔馴染みになったみんなに、沢山話しかけられる。
「ふふ、今日は旦那様が休みなのでお出かけです」
「今度伺いますね」
「わあ、ありがとうございます。嬉しいです」
いつの間にか、私の両手には街の方のご好意で色んなものが乗せられていた。
「……ヴィヴィはすごいな」
「え?何がですか」
私は街を歩いているだけで、何もすごいことはない。むしろベルナール領の領民達が皆親切なのだ。
「人気者だな」
「ふふ、それはあなたの奥様という肩書きがあるからです。だからランディ様がすごいんですよ!」
「俺は皆からこんなに話しかけられない。だから君がすごいんだ」
屈強な騎士で、将来は自分たちの領主になるランディ様に気楽には話しかけられないだろう。私はなんというか、サイズ的にも年齢的にもみんな気安いのだと思う。
公爵家に嫁いだ身としては、気高さが足りないのではと不安になるが……仕方がない。私にはカリスマ性はないので、領民達からも親しみやすい奥様としてやっていくことを決めた。
書店に寄ると、店長さんが事前に頼んでいたんだ本を用意してくださっていた。
「この前は、どの本が良いか相談に乗っていただきありがとうございます」
「こちらこそ、いつもありがとうございます。ランドルフ様、本当に素敵な奥様でいらっしゃいますね。この街の皆はもうすっかり奥様のファンですよ」
そんな風にランディ様の前で褒めてもらえるのは嬉しいけれど、恥ずかしい。
「……ああ、俺には勿体ないほどの妻だ。これからも妻の相談に乗ってやってくれ。よろしく頼む」
ひゃあー!ランディ様まで、そんな有難いことを言ってくださるなんて。私は恥ずかしくて染まった頬を両手で隠した。
沢山の本をランディ様がひょいと簡単に持ってくださった。私なら五回くらいに分けないと持てないような量を彼は楽々と片手で持ってしまう。
「重たいのに申し訳ありません」
「これくらい重いうちに入らない」
空いている方の手を繋ぎ、二人で孤児院を目指した。気持ちが通じてから、ランディ様は外でも私に触れてくださるようになった。なんか幸せすぎて、困ってしまう。ついニマニマと頬が緩むのは許して欲しい。
「こんにちは」
私の声に気が付いて、孤児院の子ども達が一斉に駆け寄ってきた。
「ヴィヴィアンヌ様だ!」
「わーい、今日も遊んでくれるの?」
沢山の子どもたちが、私を見た後……後ろにいるランディ様に気が付いて柱の裏に隠れた。
「あー……」
ありゃりゃ。やっぱり大柄な男性って怖いのかしら?私は苦笑いをしながら、チラリとランディ様を見た。無表情なままだが、多分傷付いていらっしゃる。
「み、みんな慣れていないだけですわ!」
「いつもこうだから……気にしていない」
哀しそうな声で、ポツリと呟いたランディ様に胸が苦しくなる。子どもがお好きなのに!しかも彼はこんなに優しいのに!
「ランディ様、かがんでくださいませ。たぶん大きいのが怖いのです」
私はぐいぐいとランディ様の腕を下に引っ張って、強引にしゃがませた。
「みんな!この方は私の大事な旦那様、ランドルフ様よ。実はみんなの本や服を買ってくれたのは、このランドルフ様なの。今日も沢山本を持ってきたわ」
ニコニコと笑ってそう伝えると、みんなぴょこぴょこと柱から顔を出した。
「ヴィヴィアンヌ様の……旦那様?」
小さなエミリーが近付いてきて、私とランディ様を交互に見た。
「ええ。しかも彼は、私やこの国を護ってくださる強い騎士なの!」
「騎士……このご本と一緒!?」
手に持っている絵本は、騎士とお姫様が結ばれる昔からの物語だ。
「そうよ!すごいでしょう?」
「すごーい!お姫様を護るためにこんなに大きいのね!」
エミリーが傍に来てくれたことで、みんなの警戒心が解けた。私とランディ様は一瞬でみんなに囲まれた。ランディ様の肩や腕には……子ども達が何人もまとわりついている。
ランディ様は最初は少し困惑していたが、すぐに嬉しそうな表情に変わった。男の子達には剣を教え、あっという間に「格好いい」と憧れられていた。
私は女の子達を中心に歌を歌ったり、本を読んだりしていた。
「ヴィヴィアンヌ様!僕、ランドルフ様みたいな強い騎士になる」
「まあ、素敵な夢だわ」
この子はボブ。少しやんちゃだが、下の子達の面倒見が良い男の子だ。私は彼の頭を撫でてあげる。
「だからね、ヴィヴィアンヌ様!大きくなったら僕のお嫁さんになって!」
まさかこんな可愛い子に求婚されてしまった。そういえば弟のアルも昔は『姉様と結婚する』なんて嬉しいことを言ってくれていたなぁ、なんて懐かしいことを思い出した。
さてどう答えようか?と考えているとツカツカと凄い勢いでランディ様が隣にやってきた。
「ボブ、それは無理だ。諦めろ」
「ええ!?どうして?」
「ヴィヴィは俺の愛する妻だ。だから俺だけのものだ。ボブはこれから違う大事な女性に出逢うだろう。その人と結婚しろ」
ランディ様が真顔で淡々とそう言った。私は真っ赤になりながら俯いた。
――ランディ様ったら子ども相手にそんなこと。
彼はボブに見せつけるように、私の肩を抱き寄せた。ちょっと恥ずかしい。
「ランドルフ様が一番で、僕は二番目でいいから!それでもだめ?」
なかなか斬新な提案だが残念ながら我が国では、一妻多夫制度は認められていない。
「だめだ!」
ランディ様は子どもでも譲る気は一切ないらしい。かなり大人げないが、ここまでくるといっそ清々しい。ボブはちぇっ、と唇を尖らせて拗ねていた。
「ボブ、気持ちは嬉しいわ。ありがとうね。でも……私はランディ様が好きだからごめんね」
そう言ってボブの頭を撫でていると、隣でランディ様が口を手でおさえながら真っ赤になっていた。
夕方までしっかりとみんなと遊んで、シスター達にもたっぷりとお礼を言われ家に帰ることになった。
子ども達が別れ際に「また来てね」とか「帰っちゃやだ」と泣いてくれたのが嬉しかった。
「楽しかったですね。ランディ様今日はついてきてくださって、ありがとうございました」
「いや、俺の方こそ礼を言う。あんなに街の人に話しかけられたり、子ども達と遊んだのは初めてだった。全部ヴィヴィがいてくれたからだ」
「私は何もしていませんよ」
本当に何もしていない。ランディ様は身体が大きくてぱっと見怖いだけで、とても心優しくて格好良いのだからみんなが知れば近寄ってくるに決まっている。
「何もしていない……か。ヴィヴィは自分のことを全然わかっていないな」
「え?」
「自分の凄さをわかっていない。君は自然とみんなに愛される力を持っている。改めて俺の奥さんは素敵な女性だとわかったよ」
ランディ様に褒められて、私は真っ赤になって俯いた。
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