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第1章 城郭都市マイヤー
11話 フォレストワーム
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アビゲイルさんが呪文を全節すべて詠唱し終わると、トカゲが3匹出現した。
1匹5メートルくらいあるでかいやつだ。
「あれ、召喚魔法かな?」
俺がそんな事を呟いていると、観覧席から「アビゲイルのおっさん、大人げねぇ!」「シンイチくんいつも頑張ってるのに、バカゲイル死ね!」「シンイチ~、アビゲイルぶっ飛ばしてもいいぞ~」などと聞こえてくる。
ここはアウェーだと思っていたが、そうでも無さそうでホッとする。
そんな事を考えていると、俺に近付いてきた3匹のトカゲが、口から何かを吐き出した。
「むおっ、酸か!?」
圧を感じ転移で避けると、今いた場所が、焼けて煙を上げている。
あんなの食らったら、やけどどころの話では無い。俺は必死で短距離転移を繰り返し、小刻みにトカゲへ近付いていく。
その間にも、トカゲは酸の液体を吐き出してくるが、俺は短距離転移ですべて回避しつつ、おもいっきり爪先で、そいつの脇腹を蹴った。
すると、5メートルもあるトカゲが『く』の形に折れ曲がり、吹っ飛んでいった。そしてそれは、地面すれすれを水平に飛び、観覧席の壁に激突したのだ。
それを見て、観覧席からは大歓声が上がった。
「何だそのスキルは!?」
「教えませんよ」
転移スキルの応用だし、スキル名とか無いよ?
観覧席の方を見ると、蹴り飛ばしたトカゲは、何も無かったように消えていた。
召喚したトカゲだから、血も何も出ないのだろう。
残りのトカゲは2匹だ。
アビゲイルさんとの会話で、俺の動きが数秒止まった。トカゲたちは、それを見逃さずに動き、俺の後ろに回り込んできている。
それを見たアビゲイルさんは、正面から俺に、パンチとキックの、流れるような攻撃を仕掛けてきた。
2メートルもある犬のおっさんが繰り出すそれは、当たった場所の骨が粉砕されてしまいそうな気がする。
俺はそんなのに擦るのも嫌なので、少しずつ後ろに転移をし始めたのだが、誘い込まれたようだ。
俺の背中に圧を感じる。
「うおおおっ!!」
これはアビゲイルさんの声だ。俺はすでに転移して、トカゲの背後に居るのだ。
そして俺がいた場所を目がけて、トカゲが吐き出した酸は空を切り、アビゲイルさんに当たりそうになったのだ。
「おらぁ!!」
今度は俺の声だ。もう一度転移して、トカゲの頭を踏み潰した。
しかし、間を置かずに圧を感じた。
俺はすぐに転移して避けると、そこをアビゲイルさんの蹴りが、空気を切るような音を出しながら通り過ぎていった。
「こんなの食らったら、死ぬわ!!」
「マイヤーの冒険者は優秀だから、すぐ治療魔法で治してくれるぞ」
いや、即死しそうな蹴りなんですけど。
そう思っている間にも、トカゲが酸を飛ばしてくる。
この酸を避ける動作が減れば、もっと楽に動けるはずだ。
先にトカゲを始末しよう。
俺はそう思い、最後のトカゲの近くへ転移し、また頭を踏み潰した。
残るは、アビゲイルさんだけ。
しかし、俺が転移して近づいても、すぐに微妙な距離を取られてしまう。
スポーツの高校野球をやっている俺と、魔物がいる世界で切った張ったをやる冒険者とでは、そもそも比べようが無いのだ。
何度も転移してアビゲイルさんに近付くが、距離を取られてしまい攻撃が出来ない。
俺もアビゲイルさんも無手なので、お互いの拳や蹴りが届く範囲でしか攻撃が当たらないのだ。
しばらくそんな追いかけっこ状態が続いていたが、先にアビゲイルさんが仕掛けてきた。
「おらぁ!」
転移先を読まれてしまい、背後からアビゲイルさんの蹴りが、俺の後頭部を目がけて飛んできた。
しかし、それには圧を感じない。
なので、おれは避けなかったのだが、次の瞬間、足首に圧を感じた。
もちろん俺は転移してそれを避けたのだが、今のは上段の蹴りに見せ掛けて、足払いに来るフェイントだったのだろう。
場数はあちらが上だ。そう思って、俺は距離を取る。
「ショートカット使いは、面倒なんだよな。シンイチ、数を増やすからな」
アビゲイルさんがそう言うや否や、トカゲが20匹くらい発生した。
呪文の詠唱が無く、魔法名も言わなかったので、これは脳内で魔法を構築して発動させる無詠唱だ。
観覧席からアビゲイルさんを罵倒する声が大きくなる。
それはとても有りがたいのだが、だからと言って、俺が有利になる訳では無い。
召喚されたトカゲたちは、一瞬で俺を取り囲み、酸を吐いてきているのだ。
「マジでヤバいな。このままだと怪我するかも」
オークの魔法で、右手首を切り落とされた時の、あの光景が俺の頭をよぎる。
すると、観覧席からの声が、突然聞こえなくなった。
いや、これは野球の試合中、ゾーンに入ったときの感覚だ。
そんな事を考えていると、俺はいつの間にかアビゲイルさんの背後に転移して、思いっきり腎臓を殴っていた。
「それくらいの打撃じゃ、俺は倒せねえぜ?」
すぐさま俺に向け、裏拳が飛んできたので、転移して避けると、アビゲイルさんの顔が苦痛に歪んだ。
「……ぐっ!! ま、まあ、今日はこれくらいで勘弁してやる。合格だシンイチ」
「合格? この見世物は、何かのテストだったんですか?」
「…………」
あ、倒れた。背中の腎臓を殴ったのに、痛くないのかと思っていたが、効いていたようだ。
観覧席からエマさんや、他の冒険者達が駆け付け、白目を剥《む》いて倒れているアビゲイルさんに、何かの魔法を使っている。
リリさんも、俺のいる場所に駆けてきた。
「うにゃ~、シンイチはAランクの冒険者を倒したにゃ。ショートカットと硬化を使えるとは、思ってなかったにゃ~」
「……アビゲイルさんは大丈夫ですか?」
「平気にゃ。マイヤーは回復魔法も治療魔法も使う人が多いから。ほら、もう起きたにゃ」
「ほんとですね」
リリさんに「ショートカットと硬化を使えるとは」と、言われてしまったが、両方とも違う。
観覧席からも、そんな声が聞こえていたし、嘘をつくのは気分がよくない。
本来の硬化スキルは、身体の一部を瞬時に固くするので、転移とはまったく関係ないのだ。
全部話してしまいたい気持もあるけど、しかし、今は命の恩人であるナナイロの言葉を優先しよう。
「おう、中々のもんだなシンイチ。まあ、俺は本気出してないけどな」
起き上がってきたアビゲイルさんが、そんな事言うと、観覧席からブーイングが起こった。
この人は何となくだけど、あえて嫌われ役をやっているような気がする。
その後ギルドの居酒屋へ戻り、俺の歓迎会となった。
「飲めシンイチ!」
「酒は飲めません」
「もう大人だろ? 子供みてえな顔してるけど」
「そういう問題じゃないです」
「いいから飲め!」
「うるさいなあ!」
「おっ! かわいい顔してどうした? お? お?」
この犬のおっさんマジで鬱陶しい。
「シンイチが嫌がってるにゃ!」
「バカゲイルやめなさいよ!」
ネコ耳のリリさんと、ハーフエルフのエマさんも同席中である。この3人は、冒険者ギルドの専属冒険者という、半分くらい冒険者ギルドの職員のような人たちだったのだ。
「3人とも、Aランクの冒険者なんですね」
バカゲイルさんは放っておこう。
「Aランクの冒険者くらい、マイヤーにはゴロゴロ居るにゃ」
「でもね、ギルド専属になる冒険者は、わたしたちくらいしか居なかったのよ~」
「というと?」
「パーティを束ねてるクランがあるから、そっちの方が人気にゃ」
「地域の冒険者達が集まって、依頼をこなす集団の事よ」
クランというゲームっぽい単語が出てきたので、言語魔法の不具合かと思ったが、俺の認識と合っていたようだ。
城郭都市マイヤーには、Sランクのクラン、アイアンヘイズが常駐しており、構成人数が4000人を超えるのだ。
大人数で横断城壁の南にいる魔物を狩って、その素材を冒険者ギルドに卸すことで成り立っているそうだ。
「じゃあ、この居酒屋にも居るんですか?」
「あの十字架の刺繍は、クラン、アイアンヘイズの冒険者にゃ」
「幹部連中はあまり来ないけどね~」
彼らの背中には、十字架の交差している部分が輪っかになった、独特なエンブレムが描かれている。これがアイアンヘイズの一員だという証なのだろう。
地球で言うケルト十字だ。
「おい、なにか聞こえないか?」
「うにゃ? 本当だ」
「どうしたんですか?」
アビゲイルさんと、リリさんの耳がピクピクと動いている。そして彼らだけでは無い。他に居る獣人の冒険者達も、聞き耳を立てている。
それを見た他の冒険者達は騒ぐのをやめ、居酒屋がシンと静まり返ってしまった。
「……何か来てるな」
アビゲイルさんの声と同時に、鐘の音が聞こえてきた。
激しく打ち鳴らされるそれは、緊急事態を知らせているように聞こえる。
「なにかにゃ? エマ、横断城壁に行ってみるにゃ!」
「そうね、行きましょう」
「シンイチ、ここが1番安全だ、お前は冒険者ギルドに居ろ!」
リリさん、エマさん、アビゲイルさんはそう言って冒険者ギルドから飛び出して行った。他の冒険者も続く。
お会計しないのかな?
誰も居なくなってしまったので、ギルドのカウンターで聞いてみよう。
「何があったんですか?」
何度か見たことがある、小さいおっさんに声をかける。
「……ちょっと待て」
そのおっさんは目の焦点が合っておらず、どこか別の場所を見ているようだ。
そして、何かを見つけたようだ。
「ギルド職員は全員話を聞け! 原因はわからんが、とんでもない数のフォレストワームが、マイヤーに向かっている! これから緊急依頼を出す、冒険者全員呼び戻せ!!」
緊迫した空気の中「フォレストワームって、どこかで聞いた事あるな」と、俺は呟いていた。
1匹5メートルくらいあるでかいやつだ。
「あれ、召喚魔法かな?」
俺がそんな事を呟いていると、観覧席から「アビゲイルのおっさん、大人げねぇ!」「シンイチくんいつも頑張ってるのに、バカゲイル死ね!」「シンイチ~、アビゲイルぶっ飛ばしてもいいぞ~」などと聞こえてくる。
ここはアウェーだと思っていたが、そうでも無さそうでホッとする。
そんな事を考えていると、俺に近付いてきた3匹のトカゲが、口から何かを吐き出した。
「むおっ、酸か!?」
圧を感じ転移で避けると、今いた場所が、焼けて煙を上げている。
あんなの食らったら、やけどどころの話では無い。俺は必死で短距離転移を繰り返し、小刻みにトカゲへ近付いていく。
その間にも、トカゲは酸の液体を吐き出してくるが、俺は短距離転移ですべて回避しつつ、おもいっきり爪先で、そいつの脇腹を蹴った。
すると、5メートルもあるトカゲが『く』の形に折れ曲がり、吹っ飛んでいった。そしてそれは、地面すれすれを水平に飛び、観覧席の壁に激突したのだ。
それを見て、観覧席からは大歓声が上がった。
「何だそのスキルは!?」
「教えませんよ」
転移スキルの応用だし、スキル名とか無いよ?
観覧席の方を見ると、蹴り飛ばしたトカゲは、何も無かったように消えていた。
召喚したトカゲだから、血も何も出ないのだろう。
残りのトカゲは2匹だ。
アビゲイルさんとの会話で、俺の動きが数秒止まった。トカゲたちは、それを見逃さずに動き、俺の後ろに回り込んできている。
それを見たアビゲイルさんは、正面から俺に、パンチとキックの、流れるような攻撃を仕掛けてきた。
2メートルもある犬のおっさんが繰り出すそれは、当たった場所の骨が粉砕されてしまいそうな気がする。
俺はそんなのに擦るのも嫌なので、少しずつ後ろに転移をし始めたのだが、誘い込まれたようだ。
俺の背中に圧を感じる。
「うおおおっ!!」
これはアビゲイルさんの声だ。俺はすでに転移して、トカゲの背後に居るのだ。
そして俺がいた場所を目がけて、トカゲが吐き出した酸は空を切り、アビゲイルさんに当たりそうになったのだ。
「おらぁ!!」
今度は俺の声だ。もう一度転移して、トカゲの頭を踏み潰した。
しかし、間を置かずに圧を感じた。
俺はすぐに転移して避けると、そこをアビゲイルさんの蹴りが、空気を切るような音を出しながら通り過ぎていった。
「こんなの食らったら、死ぬわ!!」
「マイヤーの冒険者は優秀だから、すぐ治療魔法で治してくれるぞ」
いや、即死しそうな蹴りなんですけど。
そう思っている間にも、トカゲが酸を飛ばしてくる。
この酸を避ける動作が減れば、もっと楽に動けるはずだ。
先にトカゲを始末しよう。
俺はそう思い、最後のトカゲの近くへ転移し、また頭を踏み潰した。
残るは、アビゲイルさんだけ。
しかし、俺が転移して近づいても、すぐに微妙な距離を取られてしまう。
スポーツの高校野球をやっている俺と、魔物がいる世界で切った張ったをやる冒険者とでは、そもそも比べようが無いのだ。
何度も転移してアビゲイルさんに近付くが、距離を取られてしまい攻撃が出来ない。
俺もアビゲイルさんも無手なので、お互いの拳や蹴りが届く範囲でしか攻撃が当たらないのだ。
しばらくそんな追いかけっこ状態が続いていたが、先にアビゲイルさんが仕掛けてきた。
「おらぁ!」
転移先を読まれてしまい、背後からアビゲイルさんの蹴りが、俺の後頭部を目がけて飛んできた。
しかし、それには圧を感じない。
なので、おれは避けなかったのだが、次の瞬間、足首に圧を感じた。
もちろん俺は転移してそれを避けたのだが、今のは上段の蹴りに見せ掛けて、足払いに来るフェイントだったのだろう。
場数はあちらが上だ。そう思って、俺は距離を取る。
「ショートカット使いは、面倒なんだよな。シンイチ、数を増やすからな」
アビゲイルさんがそう言うや否や、トカゲが20匹くらい発生した。
呪文の詠唱が無く、魔法名も言わなかったので、これは脳内で魔法を構築して発動させる無詠唱だ。
観覧席からアビゲイルさんを罵倒する声が大きくなる。
それはとても有りがたいのだが、だからと言って、俺が有利になる訳では無い。
召喚されたトカゲたちは、一瞬で俺を取り囲み、酸を吐いてきているのだ。
「マジでヤバいな。このままだと怪我するかも」
オークの魔法で、右手首を切り落とされた時の、あの光景が俺の頭をよぎる。
すると、観覧席からの声が、突然聞こえなくなった。
いや、これは野球の試合中、ゾーンに入ったときの感覚だ。
そんな事を考えていると、俺はいつの間にかアビゲイルさんの背後に転移して、思いっきり腎臓を殴っていた。
「それくらいの打撃じゃ、俺は倒せねえぜ?」
すぐさま俺に向け、裏拳が飛んできたので、転移して避けると、アビゲイルさんの顔が苦痛に歪んだ。
「……ぐっ!! ま、まあ、今日はこれくらいで勘弁してやる。合格だシンイチ」
「合格? この見世物は、何かのテストだったんですか?」
「…………」
あ、倒れた。背中の腎臓を殴ったのに、痛くないのかと思っていたが、効いていたようだ。
観覧席からエマさんや、他の冒険者達が駆け付け、白目を剥《む》いて倒れているアビゲイルさんに、何かの魔法を使っている。
リリさんも、俺のいる場所に駆けてきた。
「うにゃ~、シンイチはAランクの冒険者を倒したにゃ。ショートカットと硬化を使えるとは、思ってなかったにゃ~」
「……アビゲイルさんは大丈夫ですか?」
「平気にゃ。マイヤーは回復魔法も治療魔法も使う人が多いから。ほら、もう起きたにゃ」
「ほんとですね」
リリさんに「ショートカットと硬化を使えるとは」と、言われてしまったが、両方とも違う。
観覧席からも、そんな声が聞こえていたし、嘘をつくのは気分がよくない。
本来の硬化スキルは、身体の一部を瞬時に固くするので、転移とはまったく関係ないのだ。
全部話してしまいたい気持もあるけど、しかし、今は命の恩人であるナナイロの言葉を優先しよう。
「おう、中々のもんだなシンイチ。まあ、俺は本気出してないけどな」
起き上がってきたアビゲイルさんが、そんな事言うと、観覧席からブーイングが起こった。
この人は何となくだけど、あえて嫌われ役をやっているような気がする。
その後ギルドの居酒屋へ戻り、俺の歓迎会となった。
「飲めシンイチ!」
「酒は飲めません」
「もう大人だろ? 子供みてえな顔してるけど」
「そういう問題じゃないです」
「いいから飲め!」
「うるさいなあ!」
「おっ! かわいい顔してどうした? お? お?」
この犬のおっさんマジで鬱陶しい。
「シンイチが嫌がってるにゃ!」
「バカゲイルやめなさいよ!」
ネコ耳のリリさんと、ハーフエルフのエマさんも同席中である。この3人は、冒険者ギルドの専属冒険者という、半分くらい冒険者ギルドの職員のような人たちだったのだ。
「3人とも、Aランクの冒険者なんですね」
バカゲイルさんは放っておこう。
「Aランクの冒険者くらい、マイヤーにはゴロゴロ居るにゃ」
「でもね、ギルド専属になる冒険者は、わたしたちくらいしか居なかったのよ~」
「というと?」
「パーティを束ねてるクランがあるから、そっちの方が人気にゃ」
「地域の冒険者達が集まって、依頼をこなす集団の事よ」
クランというゲームっぽい単語が出てきたので、言語魔法の不具合かと思ったが、俺の認識と合っていたようだ。
城郭都市マイヤーには、Sランクのクラン、アイアンヘイズが常駐しており、構成人数が4000人を超えるのだ。
大人数で横断城壁の南にいる魔物を狩って、その素材を冒険者ギルドに卸すことで成り立っているそうだ。
「じゃあ、この居酒屋にも居るんですか?」
「あの十字架の刺繍は、クラン、アイアンヘイズの冒険者にゃ」
「幹部連中はあまり来ないけどね~」
彼らの背中には、十字架の交差している部分が輪っかになった、独特なエンブレムが描かれている。これがアイアンヘイズの一員だという証なのだろう。
地球で言うケルト十字だ。
「おい、なにか聞こえないか?」
「うにゃ? 本当だ」
「どうしたんですか?」
アビゲイルさんと、リリさんの耳がピクピクと動いている。そして彼らだけでは無い。他に居る獣人の冒険者達も、聞き耳を立てている。
それを見た他の冒険者達は騒ぐのをやめ、居酒屋がシンと静まり返ってしまった。
「……何か来てるな」
アビゲイルさんの声と同時に、鐘の音が聞こえてきた。
激しく打ち鳴らされるそれは、緊急事態を知らせているように聞こえる。
「なにかにゃ? エマ、横断城壁に行ってみるにゃ!」
「そうね、行きましょう」
「シンイチ、ここが1番安全だ、お前は冒険者ギルドに居ろ!」
リリさん、エマさん、アビゲイルさんはそう言って冒険者ギルドから飛び出して行った。他の冒険者も続く。
お会計しないのかな?
誰も居なくなってしまったので、ギルドのカウンターで聞いてみよう。
「何があったんですか?」
何度か見たことがある、小さいおっさんに声をかける。
「……ちょっと待て」
そのおっさんは目の焦点が合っておらず、どこか別の場所を見ているようだ。
そして、何かを見つけたようだ。
「ギルド職員は全員話を聞け! 原因はわからんが、とんでもない数のフォレストワームが、マイヤーに向かっている! これから緊急依頼を出す、冒険者全員呼び戻せ!!」
緊迫した空気の中「フォレストワームって、どこかで聞いた事あるな」と、俺は呟いていた。
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