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第一章
紅をさす 9
しおりを挟む反物に絵付けするように、夕凪の白い躰に思いっきり筆を下ろしたい。実は部屋で筆を見つけてから、私は若旦那に『筆責め』をしてみたくて堪らなかった。
老舗の若旦那としてお坊ちゃま育ちの夕凪は、品行方正な学生生活を送ったに違いない。私みたいにふざけた遊びは知らないだろうな。
今までそんな若旦那の前では、私は警戒されないように真面目な絵師を通していたのに、まさかあの反物のお陰で、若旦那とこのような深い契りを結べるとは不思議なものだ。
さて若旦那の躰に描くモチーフは何がいいかと考えると、頭に古来からの有名な和歌が浮かんだ。
「人しれず思ふ心は深見草 花咲きてこそ色に出でけれ(千載684) 」
(人知れずあの人を思う心はあまりに深いので、深見草(牡丹の別名)の花が色濃く咲くように、その思いがおもてに出てしまったよ)
そうだ、百花の王と言われる気高い「牡丹」を描こう。気高い若旦那に相応しいモチーフだ。
「描くぞ」
シュッ……
夕凪の白い胸元に真っ黒な墨を垂らす。穢れなき躰を汚しているような背徳感を感じ、高揚する気持ちが止まらない。
夕凪は羞恥に耐えるように唇をキュッと噛みしめ、顔を横に背けた。その頬は高揚し赤く染まっている。そして筆が乳首の周りを筆が通るたびに躰をビクビクと震わせていた。なんて可愛いらしい姿なんだ。
「あっ……あ……や…だ…」
夕凪の平らな白い 胸元の乳首を軸に、大輪の牡丹を描いてやる。
「あっ……信二郎っなっ……なんてことを」
「夕凪……牡丹の花言葉知っているか」
「しっ知るか!」
「恥じらい、高貴、壮麗だよ」
今の夕凪にぴったりだ、どれも。手が届かないと思っていた高嶺の花だった若旦那の夕凪が、今私の手の中にいる。
「ふぅ描き終わったぞ。さぁ見てみろ」
「はぅ……んっ」
呆然としたまま荒い息を立てながら横たわる夕凪の背中に手を回し、上半身を起こしてやる。恐る恐る夕凪が自分の胸元を確認する。
「なっ!」
胸元に今が花の盛りと咲き誇る気高き大輪の牡丹が咲いていた。
「綺麗だろう
「こっ……こんなものを俺の躰に描くなんて……」
「いいだろう? 気に入ったか」
「……こんな場所にっ……でも流石の腕前だ……絵師の信二郎」
そう言いながら夕凪の躰は、更に深く赤く染まり出す。
夕凪が赤く染まれば染まる程、牡丹は濃く色付き、花開いていく。まるで花の香りまで広がっていくように夕凪の躰に咲いた牡丹。
綺麗すぎて艶めいていて、夕凪からもう目が離せない。
「夕凪……素晴らしい光景だな」
「そっそんな風にじっと見るな! 信二郎もうこれ以上……近寄るな! 」
「何を言っている。これからだよ? 」
「えっ! 俺はもう……」
ズリズリと後ずさりしてベッドから逃げようとする夕凪の細い両肩をがしっと掴みんで、逃げられないようにする。そして夕凪の剥き出しの胸元に顔を近づけ、その花の中心にある桜色に染まり硬くなっている乳首をじゅっと音を立てて吸ってやった。
「くっ……」
途端に夕凪から艶めかしい声があがった。
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