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第一章
はだける 4
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「なんてひどい奴だ! 俺にあんなことしておいて……今更、突き放すのか!」
カッとなって、まだ濡れた髪のまま浴衣姿で信二郎の家から飛び出して来てしまった。何も考えずに走ってきたが、辺りを見回すと見慣れぬ景色が広がっていた。
「しまった……ここは何処だ? 」
こんな風に飛び出してくるべきではなかったのだ。着物も羽織りもすべて置いて来てしまったし、何よりも信二郎ともう一度冷静に話しがしたい。
とにかく一度戻らないと。そう思うのに……似たような路地が続き出口が見つからない。街灯の少ない路地裏を俺はうろうろと歩き回りながら不安が増してくる。
信二郎の家は何処だ? 同じような町家ばかりが並んでいて……分からないよ。
「ヒューヒュー」
突然の冷やかすような蔑むような陰湿な口笛の音にはっとした。暗闇に目を凝らすと、ガラの悪い二人の男がニヤニヤしながら近づいてくるのが分かった。
「こんなところに随分可愛い兄さんがいたもんだ! こりゃ驚いた! 」
「……」
危険だ。この男たちは危険だ! 早く、逃げろ!
心の声が危険信号を知らせてくる。
「……俺に近づくなっ」
俺はじりじりと路地の奥へと追い詰められてしまう。
しまった!この先は袋小路だ。
「へぇ~ちょっとお兄さん、こっち向けよ」
「やめろ! 俺に触るな!」
ドンっ
路地の塀に躰を力づくで押さえつけられ、抵抗しようとした手の自由を奪われ、そして顎を掴まれ上を無理矢理向かされてしまった。いとも簡単に。
「っつ」
「へぇ男のくせにえらく綺麗な顔だな。それに春先にそんな薄い浴衣姿でこんな物騒な処をうろうろしてさぁ、もしかして俺達を誘っているのか」
顔を近づけてくる男の生暖かく臭い息がかかり、吐き気が込み上げる。
「離せっ! 触れるな! 」
必死に身を捩るが手首を拘束する力が強まるばかりで、身動きが取れないことに冷汗が出て来てしまう。
「上玉だな~ この肌の滑らかなこと。おいっお前も触ってみるよ」
「やっ……やめろ! 」
乱暴に浴衣の裾を割られ、太ももが外気に晒されゾクリと鳥肌が立つ。男の無骨な手が俺の太腿を撫で揚げて、更に尻をガシッと掴まれ強引に揉まれてしまった。
「っつ」
気色悪さで鳥肌が全身に立った。
「こりゃ凄いぞ! 吸い付くような肌だな。こういう穢れてない感じの男ってそそられるな。なぁ兄さん、いいだろう。そのつもりでこんな夜遅くにこんな所うろうろしていたんだろ? もしかして男娼か」
「なっなんてことを! 道に迷っただけだ。もう離れろっ! 俺は違う!」
「くぅ~抵抗すればするほどいいじゃねえか、おいっお前は口をふさげ! こんな上玉滅多にお目にかかれないぜ。これは味見させてもらわないとな! くっくっくっ」
もう一人の男に口をすっぽりとふさがれ、声が出せなくなってしまう。
「うっ……うっ…」
二人がかりで屈強な男に抑え込まれて抵抗できない自分が悔しい。まさか男の俺がこんな状況に陥ると思わなかったので、どうしたらいいのかパニックになっていく。
そんな俺の怯えを愉しむかのように、男は俺の浴衣の袷を強引に開き、胸元に鼻を近づけくんくんと臭いを嗅いでくる。
「あぁいい香りだ。髪も濡れてるし風呂上りみたいだな~ 最高に色っぽいぜ!」
さらにベロリと首筋から乳首にかけてざらざらと感触の悪い舌を這わされると、喉が締め付けられ、本気で吐き気が込み上げてきた。何度も何度もそれを繰り返され、見知らぬ男の唾液で濡れて行く自分の躰がおぞましく思えて来た。
「ぐっ…」
「もう我慢できねぇな。犯っちまおうぜ」
「ここでか」
「あぁ」
「そうだな。それもいいな。お前が先か」
そんなやりとりを聞いて、背筋が凍る。
やめろ! 男に躰を許したのは信二郎だからだ。信二郎だから委ねた。お前たちみたい奴を相手になんて在り得ない!
悔しくて気持ち悪くて……涙がじわっと溢れてくる。
信二郎……お願いだ。助けてくれ!
もう頭の中では信二郎のことばかりを考えていた。
男の手によって浴衣が肩から一気に剥かれ裾からも手を挿し込まれた瞬間、渾身の力を込めて必死に躰をガタガタと揺すり抵抗し、何とか声を上げることができた。
「信二郎!! 助けてくれ!」
「くそっ! このっ静かにしろっ」
男の拳が勢いよく俺に向かって振り下ろされるのを、スローモーションのように、俺はただ見つめていた。
殴られる!
目を瞑り歯を食いしばった。
カッとなって、まだ濡れた髪のまま浴衣姿で信二郎の家から飛び出して来てしまった。何も考えずに走ってきたが、辺りを見回すと見慣れぬ景色が広がっていた。
「しまった……ここは何処だ? 」
こんな風に飛び出してくるべきではなかったのだ。着物も羽織りもすべて置いて来てしまったし、何よりも信二郎ともう一度冷静に話しがしたい。
とにかく一度戻らないと。そう思うのに……似たような路地が続き出口が見つからない。街灯の少ない路地裏を俺はうろうろと歩き回りながら不安が増してくる。
信二郎の家は何処だ? 同じような町家ばかりが並んでいて……分からないよ。
「ヒューヒュー」
突然の冷やかすような蔑むような陰湿な口笛の音にはっとした。暗闇に目を凝らすと、ガラの悪い二人の男がニヤニヤしながら近づいてくるのが分かった。
「こんなところに随分可愛い兄さんがいたもんだ! こりゃ驚いた! 」
「……」
危険だ。この男たちは危険だ! 早く、逃げろ!
心の声が危険信号を知らせてくる。
「……俺に近づくなっ」
俺はじりじりと路地の奥へと追い詰められてしまう。
しまった!この先は袋小路だ。
「へぇ~ちょっとお兄さん、こっち向けよ」
「やめろ! 俺に触るな!」
ドンっ
路地の塀に躰を力づくで押さえつけられ、抵抗しようとした手の自由を奪われ、そして顎を掴まれ上を無理矢理向かされてしまった。いとも簡単に。
「っつ」
「へぇ男のくせにえらく綺麗な顔だな。それに春先にそんな薄い浴衣姿でこんな物騒な処をうろうろしてさぁ、もしかして俺達を誘っているのか」
顔を近づけてくる男の生暖かく臭い息がかかり、吐き気が込み上げる。
「離せっ! 触れるな! 」
必死に身を捩るが手首を拘束する力が強まるばかりで、身動きが取れないことに冷汗が出て来てしまう。
「上玉だな~ この肌の滑らかなこと。おいっお前も触ってみるよ」
「やっ……やめろ! 」
乱暴に浴衣の裾を割られ、太ももが外気に晒されゾクリと鳥肌が立つ。男の無骨な手が俺の太腿を撫で揚げて、更に尻をガシッと掴まれ強引に揉まれてしまった。
「っつ」
気色悪さで鳥肌が全身に立った。
「こりゃ凄いぞ! 吸い付くような肌だな。こういう穢れてない感じの男ってそそられるな。なぁ兄さん、いいだろう。そのつもりでこんな夜遅くにこんな所うろうろしていたんだろ? もしかして男娼か」
「なっなんてことを! 道に迷っただけだ。もう離れろっ! 俺は違う!」
「くぅ~抵抗すればするほどいいじゃねえか、おいっお前は口をふさげ! こんな上玉滅多にお目にかかれないぜ。これは味見させてもらわないとな! くっくっくっ」
もう一人の男に口をすっぽりとふさがれ、声が出せなくなってしまう。
「うっ……うっ…」
二人がかりで屈強な男に抑え込まれて抵抗できない自分が悔しい。まさか男の俺がこんな状況に陥ると思わなかったので、どうしたらいいのかパニックになっていく。
そんな俺の怯えを愉しむかのように、男は俺の浴衣の袷を強引に開き、胸元に鼻を近づけくんくんと臭いを嗅いでくる。
「あぁいい香りだ。髪も濡れてるし風呂上りみたいだな~ 最高に色っぽいぜ!」
さらにベロリと首筋から乳首にかけてざらざらと感触の悪い舌を這わされると、喉が締め付けられ、本気で吐き気が込み上げてきた。何度も何度もそれを繰り返され、見知らぬ男の唾液で濡れて行く自分の躰がおぞましく思えて来た。
「ぐっ…」
「もう我慢できねぇな。犯っちまおうぜ」
「ここでか」
「あぁ」
「そうだな。それもいいな。お前が先か」
そんなやりとりを聞いて、背筋が凍る。
やめろ! 男に躰を許したのは信二郎だからだ。信二郎だから委ねた。お前たちみたい奴を相手になんて在り得ない!
悔しくて気持ち悪くて……涙がじわっと溢れてくる。
信二郎……お願いだ。助けてくれ!
もう頭の中では信二郎のことばかりを考えていた。
男の手によって浴衣が肩から一気に剥かれ裾からも手を挿し込まれた瞬間、渾身の力を込めて必死に躰をガタガタと揺すり抵抗し、何とか声を上げることができた。
「信二郎!! 助けてくれ!」
「くそっ! このっ静かにしろっ」
男の拳が勢いよく俺に向かって振り下ろされるのを、スローモーションのように、俺はただ見つめていた。
殴られる!
目を瞑り歯を食いしばった。
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