私のことを嫌いなはずの冷徹騎士に、何故か甘く愛されています ※ただし、目は合わせてくれない

夕月

文字の大きさ
29 / 43
番外編

可愛すぎる妻を持つ夫の苦悩について 1

しおりを挟む
 マリウスは、婚約者のローシェとふたりで城の廊下を歩いていた。
 定期的に開催されるお茶会は、ローシェと過ごす貴重なふたりきりの時間だ。
 今日は、彼女が手作りしたというチョコレートを、甘い口づけと一緒に食べさせてもらったので、マリウスはとても機嫌がいい。
 ふたりきりの時には、瞳を潤ませて苺のように頬を赤らめていたローシェだけど、部屋の外に出た今はもう、そんな甘い触れ合いをしていたとは思えないほどに清楚で可憐な表情を浮かべている。
 お互い、天真爛漫な第三王子とその愛らしい婚約者の仮面をつけて、それでも冷静に周囲を観察しながら歩いていると、不意に前方から不穏な気配が漂ってきた。
 どこからか外の風が吹き込んでいるだろうかと思うほどに、冷え冷えとした空気。
 マリウスは、ローシェと顔を見合わせると、その気配の元を探るべく足を進めた。

 数歩もいかないうちに不穏な気配の発生源が判明して、マリウスはこっそりと小さくため息をついたあと、笑顔を浮かべた。
「ご機嫌よう、義姉上」
「こんにちは、マリウス様。お会いできて良かったです。ちょうど、お伺いするところだったんです」
 にこにこと笑顔で近づいてきたのは、ローシェの姉であるシフィルだ。そして穏やかな表情を浮かべる彼女の背後に、ものすごく不機嫌顔の男が一人。凍りつきそうなほどに冷たい空気の発生源は、ここだ。

「エルヴィン、もう少し優しい顔をしてよ。すれ違う皆が、怯えてる」
「お義兄様ってば、相変わらず眉間の皺がすごいことになってるわ」
 笑いを噛み殺すようにしながら、ローシェも肩を震わせる。ふたりの言葉に、エルヴィンは更に不機嫌そうに眉を顰めてしまった。
 そんなエルヴィンの様子に気づいているのかいないのか、シフィルは微笑みながら、手に持った包みをマリウスに差し出した。
「今日は、マリウス様のお誕生日でしょう。ささやかですが、私からもお祝いをしたくて」
「わぁ、嬉しいな。ありがとう、義姉上」
 受け取ろうとマリウスが近づくと、シフィルの背後にいるエルヴィンの表情がまた険しくなった。
「……エルヴィン、離して?」
 困ったような笑みを浮かべたシフィルが、うしろのエルヴィンを見上げる。よく見ると、まるでマリウスにはこれ以上近づかせないとでも言いたげに、エルヴィンがシフィルの腰をがっしりと抱き寄せていた。

「マリウス様に、これをお渡しするだけだって言ったじゃない。エルヴィンのお仕事が終わるまではユスティナ様のところにいるし、ひとりでうろうろしたりしないってば」
 宥めるようにシフィルがエルヴィンの腕を軽く叩くものの、その腕は揺るがないし、表情も険しいままだ。
 困ったように眉を下げたシフィルを見て、ローシェが小さくため息をつくとシフィルに近づき、その手からプレゼントの包みを取り上げた。

「そんなに警戒しなくても、僕にはローシェがいるし、大事な義姉上に失礼な真似をするわけないだろう」
 ローシェからシフィルのプレゼントを受け取りつつ、わざとらしくため息をついてみせると、エルヴィンは不満気な息を漏らしながらも何も言わない。
「義姉上、ありがとう。開けてみてもいいかな?」
「ええ、もちろんです。気に入っていただけるといいのですけど」
 にこにこと笑ってうなずくシフィルの了承を得て、マリウスは淡いピンクのリボンをそっと解いた。
 中に入っていたのは、城下で人気の店の紅茶。いくつかのフレーバーを詰め合わせにしてあって、どれもマリウスの好きなものばかりだ。
「わぁ、どれも美味しそう」
「あの、実は中にもうひとつ贈り物が」
 そわそわとした様子でシフィルが身を乗り出す。同時に眉間の皺を更に濃くしたエルヴィンを見て、彼の不満の原因はもうひとつのプレゼントであることを理解したマリウスは、ゆっくりと包みの中をのぞき込んだ。

「……これは」
 中からあらわれたのは、白いタオル。縁に小さく施された刺繍が目を惹く。
「以前、マリウス様が刺繍を褒めてくださったから。ぜひ、ローシェとお揃いで使っていただけたらと思って」
 照れたように、シフィルが笑う。よく見るとタオルは2枚あって、片方には青緑色、そしてもう片方には赤い糸で幸運のモチーフの刺繍が施されていた。どうやら2人の瞳の色をイメージしてくれていたようで、マリウスは思わず笑みを浮かべた。
「すごく素敵だ。義姉上は本当に、刺繍が上手だね」
 心からそう言うと、シフィルも嬉しそうに頬を染めて微笑んだ。と同時にシフィルの背後から吹き荒れる冷気。ものすごく不機嫌そうなエルヴィンを揶揄うように見上げて、マリウスはタオルを掲げてみせた。
「見て、エルヴィン。義姉上から素敵な刺繍入りのタオルをもらっちゃった」
「それは良かったですね。お誕生日おめでとうございます」
 全く心のこもっていない口調で、エルヴィンが低い声で言うから、マリウスは思わずふきだした。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。 そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。 相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。 トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。 あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。 ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。 そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが… 追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。 今更ですが、閲覧の際はご注意ください。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

【書籍化】番の身代わり婚約者を辞めることにしたら、冷酷な龍神王太子の様子がおかしくなりました

降魔 鬼灯
恋愛
 コミカライズ化決定しました。 ユリアンナは王太子ルードヴィッヒの婚約者。  幼い頃は仲良しの2人だったのに、最近では全く会話がない。  月一度の砂時計で時間を計られた義務の様なお茶会もルードヴィッヒはこちらを睨みつけるだけで、なんの会話もない。    お茶会が終わったあとに義務的に届く手紙や花束。義務的に届くドレスやアクセサリー。    しまいには「ずっと番と一緒にいたい」なんて言葉も聞いてしまって。 よし分かった、もう無理、婚約破棄しよう! 誤解から婚約破棄を申し出て自制していた番を怒らせ、執着溺愛のブーメランを食らうユリアンナの運命は? 全十話。一日2回更新 完結済  コミカライズ化に伴いタイトルを『憂鬱なお茶会〜殿下、お茶会を止めて番探しをされては?え?義務?彼女は自分が殿下の番であることを知らない。溺愛まであと半年〜』から『番の身代わり婚約者を辞めることにしたら、冷酷な龍神王太子の様子がおかしくなりました』に変更しています。

本物の夫は愛人に夢中なので、影武者とだけ愛し合います

こじまき
恋愛
幼い頃から許嫁だった王太子ヴァレリアンと結婚した公爵令嬢ディアーヌ。しかしヴァレリアンは身分の低い男爵令嬢に夢中で、初夜をすっぽかしてしまう。代わりに寝室にいたのは、彼そっくりの影武者…生まれたときに存在を消された双子の弟ルイだった。 ※「小説家になろう」にも投稿しています

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。