私のことを嫌いなはずの冷徹騎士に、何故か甘く愛されています ※ただし、目は合わせてくれない

夕月

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番外編

可愛すぎる妻を持つ夫の苦悩について 2

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 エルヴィンの仕事が終わるまでユスティナとお茶をするというシフィルの話を聞いて、ローシェもマリウスの公務の間は彼女たちに合流することになった。
 マリウスとしても、可愛い婚約者を城内で一人にするよりは、信頼できる姉たちと共に過ごしてもらえた方が安心だし、何より久しぶりに会えたシフィルとまだ話し足りなさそうにしているローシェの希望を叶えてやりたいと思ったのだ。

 楽しそうに何やら会話をしながら前を歩くシフィルとローシェを見つめながら、マリウスは隣のエルヴィンを見上げた。彼の表情は冷たく見えるほどだけど、シフィルを見つめる視線だけは柔らかい。
「義姉上の刺繍入りのタオルをもらったこと、まだ怒ってる?」
 軽い口調で問いかけると、こちらを見たエルヴィンが慌てたように首を振った。
「怒るなんてことは……」
「そう? 随分と不機嫌そうだったけど」
「それは……。もともと、こういう顔ですから」
 眉間の皺を濃くしつつも、エルヴィンは小さく咳払いをするとマリウスを見た。
「シフィルが殿下のためにと、毎日一生懸命に刺繍をしていたのを見ていましたし、多少の嫉妬はしましたが、止めるつもりはなかったですよ。……あまり」
「あはは、最後に本心が滲み出てるよ」
 くすくすと笑うと、エルヴィンは拗ねたような表情で横を向く。この義兄はいつも生真面目で、まるで怒っているかのような厳しい表情ばかり浮かべているのに、シフィルのことが絡むと途端に表情がころころと変わるのだ。本当に揶揄いがいのある男だ。
 
「殿下だって、ローシェが刺繍をしたものを他の男に渡すと言い出したら、面白くない気持ちになるでしょう」
 反撃するようにそんなことを言うエルヴィンに、マリウスは軽く肩をすくめてみせる。
「ローシェは、ああ見えて案外刺繍が苦手だからねぇ。そのたとえはあり得ないかも」
 話の本質はそこではないけれど、さすがにそれをマリウスに指摘することは躊躇われたらしく、エルヴィンは不満そうな表情を浮かべながらも黙る。
 マリウスは、くすりと笑って前を歩く愛しい婚約者を見つめた。
「それに、ローシェが針で指を突いたりしないか心配で、僕なら部屋に攫ってでも止めるかもしれないなぁ。ほら、僕ももう成人したわけだし、色々と解禁になるだろうしね」
「それは、」
 言葉を失うエルヴィンに笑ってみせながら、マリウスはエルヴィンの肩をぽんと叩く。
「だから、僕はエルヴィンを尊敬してるんだよ。愛しい妻の手作りの品が他の男の手に渡ることを許容する、きみの広い心に」
「殿下も、なかなか拗らせてますね……」
 呆れたような口調でそう言いながらも、エルヴィンだってシフィルのプレゼントがローシェとのお揃いの品だったから何とか許容できたのだとつぶやく。きっと、シフィルもそれを理解した上で二人にと用意してくれたのだろう。
 
「だってあんなに可愛い子、油断したらすぐに誰かに取られてしまいそうだろう。婚約していたって全然安心できない」
 マリウスの言葉に、エルヴィンも小さくうなずく。
「それはまぁ……、同意しますけど」
「それってローシェが可愛いことについて? それともお互い可愛すぎる妻を持つ夫の苦悩について?」
「もちろん後者ですね」
「だよね」
 二人は顔を見合わせて小さく笑うと、お互いの最愛を見つめた。視線に気づいたのか、こちらを振り返って笑う姉妹は、あまり似ていないけれどそれぞれ別の種類の美しさを持っている。

「嫉妬のあまり、閉じ込めてしまわないように気をつけないと」
「そうですね」
 深くうなずいたエルヴィンに、マリウスは揶揄うような笑みを浮かべた。
「すごい実感がこもってるね。結婚したら、公にも堂々と自分のものだってアピールできるし安心できるかなって思ってたけど、そうでもないんだ?」
「結婚していたって、安心なんて全くできないものですよ、マリウス殿下」
 ため息混じりにつぶやくエルヴィンを見て、確かにとマリウスもうなずいた。

「エルヴィン」
「マリウス様」
 振り返って名前を呼ぶ二人の声に笑みを浮かべながら、エルヴィンとマリウスはそれぞれの愛しい人のもとへと足を進める。

 
「仕事が終わったら迎えに行くから、それまではユスティナ様のところでいい子にしていて、シフィル。それから、帰ったらゆっくり過ごそう」
「……? 分かったわ」
 きょとんとした表情を浮かべつつうなずいたシフィルをそっと抱き寄せて、エルヴィンはさらりとしたまっすぐな銀の髪を撫でるように触れた。人前ではあまり過剰な触れ合いを苦手とするシフィルが、ぎりぎり許容できる範囲をエルヴィンはよく知っている。
 きっとエルヴィンの小さな嫉妬心のせいで、今夜シフィルは寝かせてもらえないかもしれないなと思いつつ、マリウスもすぐそばのローシェを抱き寄せた。遠目に見れば、微笑ましく見える程度の触れ合いを意識しつつも、そっとローシェの柔らかな髪に触れ、耳元に唇を寄せる。
 
「今日は、城に泊まっていくんだよね? 僕の部屋で一緒に眠ろうか」
「……っ」
 一瞬で顔を真っ赤にしつつも、こくりとうなずいたローシェの返事に満足して、マリウスはにっこりと笑った。

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