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【七十】自陣攻略は守りかるたでござる!

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 八月四日、宝田劇団の団員四十名が学園寮の茶色の棟に到着して、朝川、夜神、赤城、大河原の四人が出迎えた。

「夜神さん、あとは、明里と私が対応しますので、
ーー ご用事を済ませてください」

「豊下さん、いつも丸投げしてすみませんね」

「いいえ、生徒会の仕事ですから、大丈夫ですよ」

「それなら、いいんですが・・・・・・。
ーー じゃあ、失礼しますね」

 夜神たち四人は、安甲晴美が顧問のかるた部の部室に向かう。



「夜神さん、新しい取りふだ、楽しみですね」
赤城麗華だった。

「そうね。新しいかるた・・・・・・。
ーー 早く手にしたいわ」

 前日、夜神たちと部員は、唐木田部長に競技かるたの取り札をお願いしていた。

「しかし東の学園寮と西の部室では、まるで校舎の正反対の位置よね」
大河原が珍しくぼやく。

「大河原さん、歩くのもトレーニングよ」
夜神が言う。

「夜神さん、地下通路なら、近いかも知れないわね」
赤城だ。

 朝川は、滅多に会話には加わらない。
劇団の責任者と言う立場が邪魔しているようだ。

「朝川さん、もうすぐですね」
「夜神さん、今日も暑くなりそうよ」

「今日も、猛暑かしら・・・・・・」
夜神が呟く。



 部室の入り口にジーンズ姿の宝田劇団四人が到着した。
 かるた部の名称の横に、真新しい【神聖女学園かるた会】の名称が並んでいる。
かるた部顧問兼かるた会代表の安甲晴美あきのはるみは、対応が早い教師だった。

 夜神たちが到着して唐木田部長が、新しいかるたの取り札を部員に配り始める。

「夜神さん、前日に発注した取り札、運良く在庫があって、
ーー 今朝、届いていましたので、
ーー 今から、お渡ししますね」

「唐木田さん、ありがとうございます。
ーー お手数をお掛けしますわ」

「気になさらないでください。
ーー これからは、同じ会の仲間ですから」

 赤城、大河原、朝川も唐木田に御礼の挨拶をした。
そして、宝田の四人は、いつもの場所に座る。
特に指定席がある訳でも無いのだが、人間って奴は、本能から習慣化する傾向が強い。

安甲晴美顧問が部室に入って来て空気が変わる。
「入り口の名称にあるように、かるた会は部室を間借りしている。
ーー かるた会の会員となった者は、ここで胸を張って精進して貰いたい」

「安甲先生、私たちは、もうゲストじゃあないのですね」
赤城が安甲に言った。

「そうよ、赤城さん、神聖女学園かるた会の会員よ」

安甲が言うと大河原も呟く。
「なんか、カッコいい響きね」

「大河原さんも、そう思う」
赤城だった。

 夜神と朝川が、二人を見ながら微笑んでいる。



「じゃあ、みんな、今日も、お稽古を始めましょう」
 安甲が読手の位置で、みんなに声を掛けた。

「今日も守りかるたの練習よ。
ーー 自陣札の置き方に注意して置くのよ。
ーー そして、自陣札の配置を研究するのよ。
ーー じゃあ札を良くき混ぜてから、二十五枚の札を取ってください」

安甲の指示が続く。
「有段者も無段者も基礎練習は基本よ。
ーー 徳田さんは、A級になったばかりだから知らないけど。
ーー 上級者の守りは難攻不落の固さよ」

『先生、ありがとうございます』

「そこでは、攻めのかるたが通じにくいのよ。
ーー だから、自陣札二十五枚を取る。
ーー 守りのかるたを徹底させるのよ。
ーー たとえば、大山札の位置を固定するのよ。
ーー 固定位置が増えれば、十五分の暗記時間に余裕がでるわ」

 朝川夏夜が、いつものようにメモを取っている。
「そういうことね」

 朝川の呟きを隣の夜神が刺激されて呟く。
「自陣札二十五枚を全部取る心構いですか」

「そうね、それが出来れれば、中級以上よ。
ーー あとお手付きに注意するのよ。
ーー 次に払い方ね。派手さは必要ないわ。
ーー 確実にタッチすることね」

 安甲の丁寧な指導が続く。

「囲い手破りは、攻めだから、今回はスルーね。
ーー じゃあ、春日さん、今日の読手をしてください。
ーー 読手をすることで、百人一首を覚えられる利点もあるのよ」

「先生、ありがとうございます」
春日が安甲に感謝している。

「読手は、毎回、交代しますからね。
ーー じゃあ、今日の対戦相手を決めるわ」

 安甲は、ホログラム携帯を見ながら対戦カードを発表した。

「敬称は省略するわね。では、
ーー 唐木田、難波
ーー 森川、葦田
ーー 峰、夏生
ーー 三笠、白菊
ーー 小倉、篠原
ーー 松、山川
ーー 徳田、朝川
ーー 姫乃、赤城
ーー 和泉、大河原
ーー そして、私、安甲と夜神さんね」

「安甲先生、よろしくお願いします」
夜神は上機嫌に安甲に挨拶した。

「私も攻め無いから、夜神さんは自分のかるたをしてください」

 暗記時間が終わり、読手の春日が序歌をみあげる。



 田沼光博士と若宮咲苗助手は研究室で地震データを調べている。

「先生、西和の地震波に変化が起きていますが・・・・・・」
「もうそろそろ、アレが起こるのかな」

「先生、また、アレですか」
「大きい声で言えませんからね」

「じゃあ、先生、今日は、この辺にして、久しぶりにカフェに行きませんか」
「センターで買い物もあるし、いいわね」

「先生、何か買うのですか」
「ちょっと欲しい物があってね」

「何ですか、気になるじゃあないですか」
「レトロな機械ですよ」

「レトロ?」
「キッチンタイマーよ」

「ホログラム携帯にも同じ機能がありますが
ーー ダメなんですか」
「レトロには、レトロの良いところがあるのね」

「じゃあ、先生、行きましょう」
「神聖神社を経由して行きましょう」

 田沼と若宮が研究室を後にした後、地震計の波形が小さく波打つ。



 神使のセリエが、徳田康代にテレパシーで交信している。

[康代よ、西和は想定より早くなりそうな気配じゃあ。
ーー ことがすべて済むまで、メディアの制御に注意を払うのじゃ。
ーー メディアが暴走すれば、エネルギー抑制効果が台無しになるじゃろ。
ーー 康代と仲間たちは、メディアの暴走に注意するのじゃあ」

[はい、セリエさま、ありがとうございます]

 神使セリエと徳田康代の定期交信が終わった。
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