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【七十八】学園都市と西和の大地震

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 明里光夏あかりみかは宝田劇団の到着名簿を見ながら、責任者の朝川夏夜あさかわかよに報告を始めた。

「七月末までに生徒八十名と朝川さんたち四名、
ーー 八月三日までにスタッフ七十名
ーー 八月十日までに劇団員二百名です。
ーー 今日の到着の二十名を入れると全部で二百二十四名になります」

「じゃあ明里さん、劇団員の残りは・・・・・・。
ーー あと百八十名になるわね」

「明里さん、劇団員二十名が滑走路に到着しました。
ーー まもなくすれば、こちらの玄関にやって来ます」
豊下が管制塔からの連絡を明里に告げた。

「豊下さん、じゃあ、準備しましょう」

 朝川の横では、先に到着した劇団員が仲間の到着を待っている。
朝川、夜神、赤城、大河原は、顔合わせだけして、団員たちに任せ学園寮の地下通路に向かった。



「夜神さん、このエレベーター、やけに静かよね」
「朝川さん、リニア式水平移動エレベーターと書いてあるわよ」
夜神は、その表示を指先で示した。

「本当、リニアなのね」
「夜神さん、神聖のモノレールもリニアでしたでしょう」
赤城だった。

「そうそう、リニアだったわね」
「とにかく、学園都市は、広いわわよ」
大河原だった。

「着いたわよ」
「じゃあ、かるた会に行きましょう」
朝川は、上機嫌にみんなを先導した。

「朝川さん、機嫌が良さそうね」
赤城が夜神に声を掛けた。

「朝川さんと私が初段認定されたのよ」
「凄いじゃないですか」

「あんな短期間で初段なんて神がかり的ね」
大河原だった。

「さあ、みんな、始めるよ」
「本当、朝川さんの気合いが凄いわね・・・・・・」



 兼かるた会の部屋に入ると空気ががらりと変わる。

「じゃあ、みんな、今日も校内大会に向けて調整練習するよ」
安甲晴美あきのはるみ顧問の声が響いている。

「今日の読手は、白菊さんにお願いするわ」
「先生、私ですか?」

「慣れないと、前に進めないわよ」
「じゃあ、読手初心者ですが、よろしくお願いします」



 明里光夏あかりみか豊下秀美とよしたひでみは、生徒会室に戻り水泳大会の企画をスタートさせた。

「明里さん、校内かるた大会が処暑の日とその翌日になるから、
ーー その二日後くらいがいいわね」
「まだ、夏休みですが、気温を考えれば、それがベストと思うわ」

「じゃあ、生徒会に企画をお願いするわね」
そう言って、豊下は生徒会の役員に報告に行った。



「えっ、水泳大会ですか? 豊下さん」
「校内放送で、開催の日時を案内して貰えませんか」

 水泳大会出場者の選抜は、水泳授業のデータをAIエイアイに分析させて明里が決めた。

「これがエイアイが選出した出場者名簿です」
「納涼水平大会ですね。いいと思うわ」

「じゃあ、よろしくお願いします」



 翌日の八月十二日、東都の気象情報が台風の接近を告げている。

「康代さん、校内かるた大会と水泳大会に影響ないかしら?」
『多分、接近ないから大丈夫よ』

「そうですね。康代さんや安甲さんの未来予知の方が確実ですね。エヘヘ」
 豊下秀美の嘘笑いがわざとらしい。

『秀美、今日もお迎えに行くの・・・・・・。
ーー 生徒会の役員に任せてしまえば?』

「康代さんのお気遣いには感謝しますが、生徒会も忙しいので、
ーー こちらで出来ることは、こちらでしたいと思います。
ーー 康代さん、それより、お昼はどうされますか」

『今日は、一階でざる蕎麦そばを食べようかと思ってたのよ。
ーー 秀美もどう』

「はい、お迎えの時間までには時間があるので、
ーー お付き合いしたいと思いますが今日は何人ですか?」

『信美や利恵と光夏もいるから、静女と合わせて六名ね』

「じゃあ、早速・・・・・・」
秀美は言葉の残存が消えぬ間に、席取りに行った。

『本当、消えるのが早いのだから
ーー もしかして、せっかちかな・・・・・・』

「康代殿の言う通りでござる」

 隣の天宮静女が康代に相槌あいづちを入れた。



 神聖神社の木陰ではワンピース姿の田沼博士と若宮助手が、神社の隅にあるベンチに腰掛けていた。

「ここは木立のお陰で、
ーー 直射日光が遮られて、風通しも良いので過ごし易いわ」
田沼が若宮に言った。

「さすがに、こう暑いと校舎の中庭より、
ーー こっちの方が気持ちがいいです」

「若宮さんも、そう思いますか」

「じゃあ、今日の選択は、大正解と言うことで、
ーー 大正解と言えば、一粒万倍日だそうですよ」

「先生も、占いするようになったのですか」

「占いはしませんが、錯覚する言葉は嫌です。
ーー 徳田幕府がギャンブル利権にメスを入れて、
ーー その関係者の事情聴取から裏稼業の実態がバレたのも、
ーー この三か月の出来事でしたわね」

「しかし、あのトリックを初めて聴いた時は、血圧が上がる思いでした」

「若宮さんでも、血圧が上がる時、あるんですね」
と、田沼は言って若宮を見て笑った。

「ところで、先生、西和南和の異変、
ーー 昔なら連日の話題ですが、妙に静かと思いません」

「あの件、本当にヤバイから、私は遠慮しておきますよ、若宮さん。
ーー いくつ命があっても足らないレベルですから」

「そうですね先生、神使のお言葉を信じて、
ーー 身の丈に合うお仕事をしましょう」

 田沼光も若宮咲苗も、神使セリエとの遭遇がトラウマになっている。



 ランチを終えた豊下秀美と明里光夏は徳田康代たちと別れた。
学園寮の茶色の棟に向かった二人は、朝川たちと合流することになっていた。

「今日も二十名ね。豊下さん、明里さんよろしくね」
朝川だった。

「秀美、慣れって恐ろしいわね。
ーー 大変なことも大変と感じなくなる自分がいるの」

「光夏も、そんなこと思っていたの?実は、私も同じよ」

「じゃあ、豊下さん明里さん、あとはよろしくね」

「朝川さん、心配無用です」
豊下と明里が笑いながら答えた。

 朝川夏夜あさかわかよも二人に笑みを返し手を振った。



 西のオフィススタッフが騒いでいる。

「群発地震じゃなかったのか」
「いいえ、マグニチュード八の直下型地震が・・・・・・。
ーー ロックー山脈直下で発生しました」

「被害は、どうなっている」
「まだ、分かりませんが・・・・・・。
ーー 一部で山塊崩壊が起きていますが・・・・・・」

[ゴーゴゴー]

[ゴーゴゴー、ゴーゴゴー]
大きな地鳴りが響いた。
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