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【一三九】今日から私たち神聖の仲間でござるよ!

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「康代さん、食堂ですか」

『あら、秀美、元気だった』

「ええ、あのあと大きな変化もなく、朝を迎えることが出来ました」

『光夏は一緒じゃないの』

「遅れて来るそうです」

『今日のお昼はね、新人部員の歓迎会なのよ』

「ええ、かるた部に新人ですか」

『そうよ、何か変?』

「いいえ、ただ、神聖女学園かるた部って、
ーー 全国レベルっていう噂が聞こえていますので、つい」

『秀美の言う通りね。でも彼女なら大丈夫よ』

「康代さん、彼女って誰ですか」

『秀美の目の前にいるじゃない』

「ええ、生徒会の門田かどたさんですか」

『そうよ。
ーー 門田さんは中等部まで競技かるた部だったの。
ーー 陰陽師おんみょうじ安甲あきの先生が気付いてスカートしたわけ』

「でも、門田さんって、校内大会の時は司会してませんでした」

『そうなの・・・・・・。
ーー それで知らず知らずに先生との距離が近づいて、
ーー 直感の鋭い安甲先生が気付いてしまったわけ』



 明里光夏あかりみかが遠くから手を振りながら近づいてきた。
黒茶の光夏のポニーテールの髪が碧空へきくうの下で風に揺れている。

「康代さん、秀美、
ーー お天気が良くても風が強いので、早く中入りませんか」

『そうね。光夏の言う通りね』
 康代は肩をすぼめながら一階の食堂への道を進む。

「康代さん、一階の食堂には円卓テーブルがありませんよ。
ーー それに改修工事していたような・・・・・・」

『秀美、それなら終えているわ。
ーー だから、今日は一階でいいのよ』

「康代さん、わたしたちお邪魔じゃないですか」

『何言っているの、秀美も、光夏も、門田さんにお世話になっているじゃない。
ーー 昨日今日の知り合いじゃないわよ』

「徳田さん、あんまり持ち上げないでくださいね。
ーー 針のむしろになってしまいます」
 門田は徳田にそう言って微笑みを返した。



 康代たちは、一階の食堂入り口で献立メニューを見ていた。

『秀美、私は、お蕎麦そばにするわ』

「康代さんは、食後血糖に注意していますね」

『そうよ、食品の食後血糖次第で、午後の体調が良くも悪くもなるのよ』

康代の説明を隣で聞いていた門田菫恋かどたすみれも蕎麦を選んで、康代と一緒に食堂の中に入る。

『門田さん、今日の安甲先生との練習、どうでしたか』

「徳田さん、練習だなんて、
ーー 先生のレベルが違い過ぎて、まるで歯が立たなかったわ」

『安甲先生と戦える人って、現役かるたクイーンの川霧桜さんしかいないわね』

 徳田康代が言うと、門田が指を差して驚いている。



「徳田康代さんですね」

『もしかして、川霧クイーンですか』

「いいえ、違うわ。双子の妹なの」

『そっくりなので、川霧クイーンと思ってしまいました』

「徳田さん、姉と練習したいでしょう」

『でも、川霧さんの妹が、何で神聖女学園にいるんですか』

「徳田さんが学校改革で学歴社会を辞めて、
ーー 高校、大学、大学院の統廃合をしたでしょう。
ーー その結果、私は神聖女学園の高校五年に編入されたのよ」

『じゃあ、朝霧さんの妹が先輩になるんですか』

「そういう流れで見ると、姉の桜も先輩ね。
ーー 私は妹の椿です。よろしくね。
ーー 今日は、ここで姉と待ち合わせをしているのよ」

『椿さんは、かるたするんですか?』

「ええ、姉と一緒にお稽古していました。
ーー なので少したしなみがあります」


 川霧椿かわぎりつばきの声が聞こえたのか。
安甲晴美が大きな声で川霧に話し掛けた。

「あら、椿さんじゃないの」

「安甲さん、ご無沙汰しております」

「あなた、確かA級よね。
ーー 神聖女学園かるた会にいらっしゃい」



 安甲の大きな声が姉の川霧桜にも聞こえていた。
「安甲さん、こんにちは」

「おお、川霧クイーン」
 川霧桜が大きく手を振りながら安甲の元にやって来た。

 徳田康代、門田菫恋、豊下秀美、明里光夏は顔を見合わせて、川霧姉妹の顔を見比べていた。

「一緒に並ぶと、区別が難しいわ。
ーー 安甲先生は何で分かったの」

「ほくろよ。
ーー 妹さんの椿さんには、ほくろがあるわ」

『なるほど』
徳田が呟き、同席の者もうなずく。

「川霧桜クイーンと妹の椿さんは、今日から神聖女学園かるた会の会員になるわ。
ーー 神聖は、かるた会とかるた部から三チームが結成される予定よ」

『じゃあ、かるた会には・・・・・・。
ーー 元クイーンと現役クイーンの二名にA級の朝霧さんと椿さんですか。
ーー 先生、それって、チート過ぎませんか』

「かるた部だって、徳田さん、逢坂さんのA級二名いるじゃない」

『先生、絶対、変でしょう』

「そうね、だから、かるた会は・・・・・・。
ーー 川霧姉妹チームと安甲朝霧チームに分割するわ」

『そうなれば、かるた部は、私、徳田康代と逢坂めぐみさんに、
ーー 門田菫恋、姫乃水景、和泉姫呼の五人が中心になるわ』

「徳田さんのいう通りだけど、校内かるた大会の結果次第ね。
ーー 先生は、チームを分割するとは言いましたが・・・・・・。
ーー 固定化するつもりはないわ。
ーー 特にかるた会のほうはね」

『そうですね。神聖は大所帯ですから、三チームでは少ないかも知れません・・・・・・』

 徳田が溜息混じりに呟く。



 唐木田葵部長、森川楓副部長、宝田劇団の五人スターが賑やかな声を上げながら食堂に入ってきた。

「先生、遅れました・・・・・・」
 唐木田たちは、双子の川霧姉妹を見て驚いていた。

 安甲が立ち上がり男口調で言った。
「みんな、聞いてくれ、
ーー 今日から神聖女学園かるた会の会員になった川霧桜クイーンと妹の川霧椿さんです。
ーー よろしく」

「はい、妹の川霧椿、五年生です。
ーー 姉と違って顔にほくろがあります。
ーー なので、よろしくお願いします」

「姉の桜、五年生です。よろしくお願いします」


 いつの間に徳田康代の隣に現れた天宮静女あまみやしずめが言った。
「髪の色も、違うでござるよ。桜さんは漆黒の黒でござる」

 窓から差し込む日差しに川霧桜の髪に天使の輪が見えていた。

『天女の静女は、良く気が付くわね』

「静女は天女でござる」

 明るい水色のワンピース姿の桜の横に、淡い緑色のワンピース姿の椿がいた。
二人は、いつも違う色の服装を好んで選んでいた。

 神聖女学園かるた会会員とかるた部の部員が次々に食堂に到着した。
広い食堂が女子高生たちの快活な声に満たされる。

 安甲晴美あきのはるみの同僚の由良道江ゆらみちえ松山八重まつやまやえも到着する。

「安甲先生、その方、もしかしてクイーンですか」

「ええそうよ。今日から私たち神聖の仲間よ、よろしくね」

「今日から私たち神聖の仲間でござるよー」

 静女の鸚鵡返おうむがえしに女子高生たちの笑い声が響いていた。
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