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第五十四話 東富士見町のガラスのパズル

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 昼間夕子、酒田昇、白石陽子と前世の未来が東富士見町マンションに到着した頃、東の空は紫色に染まり、西の空に日没の残光が見えていた。

 東富士見町マンションのエレベーター前には、神聖学園の生徒の夢乃兄妹がエレベーターを待っている。

「ヒメ、真夏ちゃん、どうしたの?」
「先生こそ、なんでここに」

「このマンションに住んでいる。
ーー ヒメたちのことは、白石から聞いた」

「昼間先生に、ヒメと真夏ちゃんの引っ越しをさっきね、話していたの」
白石が夢乃真夏に言った。

真夏は表情を変えず白石に言った。
「先輩、別に構わないけど、
ーー 関係者が一箇所に集まるなんてミステリー小説みたいで薄気味悪いわ」



「そうね、真夏ちゃんの言う通りね」
グレージーンズの星乃紫が言った。

「先生、遅いじゃないですか」
昼間が言うと、遅れて着いたブルージーンズの朝霧美夏が昼間に言った。

「私たち、ちょっと時間があったから、
ーー 三日月姉妹と一緒にご近所を散策していたのよ」

「紫と一緒で楽しいひと時でござりました」
三日月姫の妹だった。

「夕子、今日は、わらわを置いて未来と何処ぞに出かけていたのじゃ」
「三日月姫、竹取の物語の続編の打ち合わせに行きました」

「夕子、左様なら、わらわも協力を惜しまぬじゃがどうじゃ」
未来が夕子を制して言った。

「三日月姫さま、従者である未来の役目でござります」
「左様か、未来、わらわの言葉を気にせずともよかろ」

 三日月姫は、そういうとエレベーター前にいる帝の側室のお子たちの生まれ変わりを一瞥して呟く。

「帝のお子たちにそっくりじゃ、人間というのは、生まれ変わっても同じ顔になるのじゃな」

 三日月姫の生まれ変わりの星乃紫が三日月姫に言った。

「姫さま、無意識の思考が創造した結果なので、
ーー 性根の根本は何も変わっていないのです」
「そうなのか、紫」

「はい、私は、そう考えています」

 三日月姫は、星乃紫の言葉に明るい笑顔で答えた。

「じゃあ、みんな、とりあえず一旦自宅に戻ったら、先生の部屋に集まって」

「昼間先生、夢乃兄妹も白石陽子も先生の部屋は知りませんよ」
「そうだな、じゃあ酒田さん、三人を連れて来てください」

「昼間先生、じゃあそうします」



 エレベーター前のやり取りが長かったのか、零と巫女の花園舞がマンションに到着した。
零は黄色のワンピースで、舞はイエローに近いアイボリーのワンピース姿だった。

「昼間先生、さっきはお役に立たずにすみません」
花園舞が昼間に言った。

「舞さん、気にしてないから」
昼間が言うと舞が続けた。

「実は、神主が不在で、零ちゃんと話していたら、
ーー 零ちゃんのマンションと私のマンションが同じ場所と分かって
ーー 一緒に帰ったらみなさんが集まっていました」

 昼間夕子は、またも嫌な悪寒おかんを覚え考えた。

 前世と現世うつしよの間に生まれた“時空”の落とし穴。
帝の側室のお子たち三人の生まれ変わりと、帝の生まれ変わりの酒田。
足らないのは帝の側室かと夕子が考えた時だった。

[夕子、未来、舞は側室の生まれ変わり]

 夕子と前世の未来は、精霊の声に導かれて花園舞を見た。

 夕子は、花園舞の前世を知らない。
生き証人である前世の未来は知っていた。

「帝の側室さまの舞さまでござりますか」
「・・・・・・」

 花園舞は前世の未来の言葉に耳を疑っていた。




 巫女の花園舞が零と一緒に昼間夕子の部屋に入る。

「昼間先生、この部屋の空気の密度が高くありませんか」
「舞さん、なんのことか分かりませんが、
ーー まさか例のイラストですか」

 夕子は、舞をイラストのある部屋に通した。
 花園舞がイラストを見て驚いて口をふさいだ。

 昼間夕子の部屋のイラストが輝いていたからだ。
夕子も驚き、もう一度安甲あきの神主に連絡を入れる。

「昼間ですが、神主さんですか」
「ああ、昼間先生、舞の伝言メモは拝見しています」

「ありがとうございます。
ーー 今、零と舞さんが私の部屋にいるんですが、
ーー イラストが光始めて驚いて、ご連絡をしています」

「昼間先生、今から行くから、
ーー その部屋に誰も入れないように」

「分かりました。神主さん、お待ちします」



 しばらくして、前世の三日月姉妹と未来に加え、星乃、朝霧が夕子の部屋を訪れた。
遅れて、酒田、夢乃兄妹、白石陽子が到着する。

 零の生まれ変わりの日向黒子も加わって十人になった。
夕子、零、花園舞を入れると十三人だ。
安甲神主は、まだ到着していない。

 昼間夕子は生徒たちを隣室の居間のソファで対応することに決めた。
昼間夕子の大型ダイニングテーブルでも、大人数は無理だったからだ。

 昼間夕子の部屋のインターホーンが鳴り、朝霧美夏が夕子の代わりに対応した。
「夕子、神主さんがお見えになったわよ」

「美夏、ありがとう。神主さんをお通しして」



 安甲あきの神主は、昼間夕子の部屋に入るなり花園舞と同じ違和感を覚えた。

神主は、その原因に心当たりがあった。

 マンションの入り口付近からエネルギー磁場が変わっていたからだ。
そして、部屋に入り集まった顔触れを見て神主はすべてを理解する。

 イラストは、十三人のエネルギーに共鳴したに過ぎない。
イラストの封印だけでは限界があった。

「昼間先生、これは、想像を超えた超常現象の始まりかも知れません」
「神主さん、結界と封印だけじゃあ駄目なんですか」

「神社だけでなく、この建物全体に
ーー 神社の境内と同じ磁場の変化が起きています」
「どうなるんですか?」

「昼間先生、今、言えることはありません。
ーー とても危険かも知れない。
ーー 二つの時代が、マンションに集まって綱引きをしているようだ」

「神主さん、“綱引き”なんとかなりませんか?」
「私の身内の魔法使いに相談してみよう」

「ええ、魔法使いですか?」
「私の双子の兄を呼びます。
ーー とりあえず、明日、
ーー ここにいる全員で、安甲神社に集まってください」
安甲あきの神主は、昼間夕子に告げた。

 安甲は花園舞の傍に寄り、明日の予定を小声で伝えた。
「分かりました」

 安甲は、その場で双子の兄の魔法使いに連絡を入れ安堵した。
「陰陽師の安甲神主より凄い人がいるんですね」
星乃紫が安甲に言った。

「世の中には目に見えない超常現象の方が多いのです。
ーー 私たちは、氷山の一角を見てすべてと勘違いしている。
ーー 科学は行ったこともない宇宙の果てに勝手に名前を付けて自論を展開している。
ーー 神々の世界はそれよりも遥かに広く深いのです」

「神主さんのお話、勉強になります」
朝霧美夏が言った。

「みんな、明日のことは明日にして晩酌にするわよ」
昼間夕子の声に夢乃真夏が声を出した。

「昼間先生、やっぱり呑兵衛のんべえ先生だ」
「真夏ちゃん、それ言うなら、星乃先生も朝霧先生もよ」

 星乃紫と朝霧美夏が昼間夕子を睨んでいた。


 前世の未来は三日月姉妹の従者として傍にいた。

「夕子、わらわの相手をお願いじゃ」

 夕子は、神主から離れて三日月姫の近くに腰掛けた。

「夕子、三日月姫のお願いじゃから、未来からもお願いでござります」

 三日月妹は、外出用の楓色の野球帽を脱ぎ未来に渡した。
三日月姫は、紫色の野球帽を脱ぎ夕子に渡している。

 三日月姫の艶やかな藤色のワンピース、妹の水色のワンピースを見て、夕子は着替えを用意した。
四人は、別の部屋に移動して未来が着替えを手伝う。

 昼間夕子の中で遠い前世の記憶の片鱗が甦る。
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