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第三章 嵐の前の
は?
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用意された控え室にいる間に気持ちを落ち着けていると、公爵と本日の主役が挨拶に訪れた。本日の主役は、公爵家の末娘、オリビア嬢。彼女の姉アイラ嬢は、ジェスに付き纏っていたが、シシー達の婚姻と然程変わらない時期に縁談が整い、輿入れしたという。
オリビア嬢は、入って来るなり、綺麗なカーテシーを披露した後、公爵の後ろに回り、リカルドと公爵の挨拶が終わるのを待っていた。
シシーは、そんなにジロジロとは見れないが、姉とあまり似ていない彼女を観察していた。
夜会には今年から参加しているらしいが、婚約者はいないという。
彼女はキラキラした瞳で、リカルドに目を向けている。初めて王太子を見たからか、よほど好きなタイプなのか、目がハートになっているように、シシーには思えた。
公爵は、何故そんなに汗をかいているのかわからないが、ハンカチで汗を拭きつつ、リカルドに話しかける。
「大変不躾なお願いとは思いますが、本日、娘のダンスに一曲だけお付き合い頂けないでしょうか。」
「は?」
「娘をエスコートする役の男が偶然事故に遭いまして踊ることができないのです。また姉のアイラの夫が、助っ人として来る手配をしていたのですが、急に娘が産気付きましてな。いやはや、王太子ご夫妻にこんなことをお願いするのは、気がひけるのですが。娘がどうしても、リカルド様と踊りたい、と分不相応にも申しておりまして。」
公爵は、シシーの方をチラリと見て、また汗を拭き、リカルドに視線を移す。
その間、オリビア嬢はリカルド様の隣に移動して目が合わせられるのを待っていた。シシーは、彼女のその姿に姉アイラ嬢の姿を重ねて見ていた。
けれど、リカルドはシシーの目を見て、ニコリと笑う。シシーの腰を抱き寄せて、フフッと笑った。
「公爵、そのような大役に私を選んでくれたことは感謝するが、私は彼女以外をエスコートしない、と決めているので、お断りさせていただくよ。代わりと言っては何だが、マクヴィス卿に、ご息女のエスコートをお願いしよう。
オリビア嬢、それでも大丈夫かな?」
テオドールを呼んで、彼が入ってくると、見目の良い彼を見て、オリビア嬢は満更でもない様子で喜んでいる。
公爵だけが、憮然とした面持ちで、縋ってきそうだったが、本人が喜んでしまっているので、強く言えないようだった。
「時に、公爵。うら若いご令嬢と、私がダンスなど踊れば、側妃候補にするのではないか、といらぬ誤解を招くこともある。そう言った噂は中々消えるまでに時間がかかる上に、ご令嬢の今後にも影響があるやもしれない。
大変光栄なことだとは理解しているが、彼女の相手は、同じぐらいの年齢の者達に、任せるよ。私みたいな結婚しているおじさんなんかではなく。」
リカルドが少しだけ圧をかけた声で言い含めると、公爵はしどろもどろになって、青くなっていた。
夜会が始まると後はいつも通りだった。公爵が言うようにアイラ嬢が産気づいたと言うなら、結婚した時期などが色々合わないがそれを敢えて指摘することも無いだろう。
「こんなことを言うとダメだけど、アイラ嬢がいなくて、良かったわ。妹君は驚くほど似ていたけれど。」
「公爵にも色々あるからな。義父上のような方もいれば、ああいう失礼なのもいる。」
リカルドはシシーを抱きしめて、拗ねたように呪詛を吐いた。
「私のシシーに不躾な視線を送るなんて、失礼すぎる。」
その言い方に、シシーは堪えていた笑いをこぼしてしまった。
「テオに感謝しなくてはね。」
「そうだな。ボーナスを弾んでやらなくては。」
二人の仲睦まじい様子は、参加者の目に微笑ましく映っていた。
オリビア嬢は、入って来るなり、綺麗なカーテシーを披露した後、公爵の後ろに回り、リカルドと公爵の挨拶が終わるのを待っていた。
シシーは、そんなにジロジロとは見れないが、姉とあまり似ていない彼女を観察していた。
夜会には今年から参加しているらしいが、婚約者はいないという。
彼女はキラキラした瞳で、リカルドに目を向けている。初めて王太子を見たからか、よほど好きなタイプなのか、目がハートになっているように、シシーには思えた。
公爵は、何故そんなに汗をかいているのかわからないが、ハンカチで汗を拭きつつ、リカルドに話しかける。
「大変不躾なお願いとは思いますが、本日、娘のダンスに一曲だけお付き合い頂けないでしょうか。」
「は?」
「娘をエスコートする役の男が偶然事故に遭いまして踊ることができないのです。また姉のアイラの夫が、助っ人として来る手配をしていたのですが、急に娘が産気付きましてな。いやはや、王太子ご夫妻にこんなことをお願いするのは、気がひけるのですが。娘がどうしても、リカルド様と踊りたい、と分不相応にも申しておりまして。」
公爵は、シシーの方をチラリと見て、また汗を拭き、リカルドに視線を移す。
その間、オリビア嬢はリカルド様の隣に移動して目が合わせられるのを待っていた。シシーは、彼女のその姿に姉アイラ嬢の姿を重ねて見ていた。
けれど、リカルドはシシーの目を見て、ニコリと笑う。シシーの腰を抱き寄せて、フフッと笑った。
「公爵、そのような大役に私を選んでくれたことは感謝するが、私は彼女以外をエスコートしない、と決めているので、お断りさせていただくよ。代わりと言っては何だが、マクヴィス卿に、ご息女のエスコートをお願いしよう。
オリビア嬢、それでも大丈夫かな?」
テオドールを呼んで、彼が入ってくると、見目の良い彼を見て、オリビア嬢は満更でもない様子で喜んでいる。
公爵だけが、憮然とした面持ちで、縋ってきそうだったが、本人が喜んでしまっているので、強く言えないようだった。
「時に、公爵。うら若いご令嬢と、私がダンスなど踊れば、側妃候補にするのではないか、といらぬ誤解を招くこともある。そう言った噂は中々消えるまでに時間がかかる上に、ご令嬢の今後にも影響があるやもしれない。
大変光栄なことだとは理解しているが、彼女の相手は、同じぐらいの年齢の者達に、任せるよ。私みたいな結婚しているおじさんなんかではなく。」
リカルドが少しだけ圧をかけた声で言い含めると、公爵はしどろもどろになって、青くなっていた。
夜会が始まると後はいつも通りだった。公爵が言うようにアイラ嬢が産気づいたと言うなら、結婚した時期などが色々合わないがそれを敢えて指摘することも無いだろう。
「こんなことを言うとダメだけど、アイラ嬢がいなくて、良かったわ。妹君は驚くほど似ていたけれど。」
「公爵にも色々あるからな。義父上のような方もいれば、ああいう失礼なのもいる。」
リカルドはシシーを抱きしめて、拗ねたように呪詛を吐いた。
「私のシシーに不躾な視線を送るなんて、失礼すぎる。」
その言い方に、シシーは堪えていた笑いをこぼしてしまった。
「テオに感謝しなくてはね。」
「そうだな。ボーナスを弾んでやらなくては。」
二人の仲睦まじい様子は、参加者の目に微笑ましく映っていた。
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