私の日常を返してください

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私は該当しない

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職業斡旋所に通うのは週に二、三回。良い条件のものはすぐに取られてしまうから争奪戦だ。だが、リラの狙う紹介状無しの貴族家の侍女の仕事は見当たらない。どれも当然紹介状を必要とするものばかりだ。

リラはふと周りがいつもより騒がしいことに気がついた。

「何の騒ぎですか?」

受付のお姉さんが苦笑している。

「ああ、貴族家の不当解雇が今問題になっていて、集団で訴訟を起こすのよ。最近法改正されてね。平民が貴族を訴えても罪にならなくなったの。」

リラはそんな法律があったことも知らなければ、前には罰せられることもあったことすら知らなかった。無知は恥だと、そういえばエリック様も仰っていた。


「あ、リラさんも該当するなら、一緒に申請できるかもしれないわよ。これに当てはまるなら書いてみるのも良いと思うわよ。」

一枚の紙を渡されると、リラはよく読んで記入する。公爵家の名前を書いて紙を渡すと受付のお姉さんは、顔色を変えた。

「リラさん、ごめんなさい。この家は無理かもしれないわ。」

とても残念そうに、申し訳なさそうに謝っているが、リラには彼女の腹の中が見える気がした。

彼女は今リラを蔑んだのである。ゴミを見るような瞳というのであろうか。リラを解雇した人間もそんな瞳をリラに向けてきた。


きっとこの後、彼女の口からリラのことが広まるに違いない。

斡旋所を変えるのは二度目だ。家から遠いところにわざわざ来ているのに。リラが公爵家について口にすると、皆リラを犯罪者のように見てくるのだ。

リラは諦めて家に帰ることにする。足取りは重い。今はまだ貯金を少しずつ切り崩してやっていけているが、仕事がないと、どうにもならない。

リラは平民であるが、字が読める。見習いの時に作法は一通り叩き込まれたのだ。だけど、法律などは言い回しが難しい為少しも理解できなかった。

不当解雇が問題になっている件は新聞に載っていた。新聞は庶民でも読めるには読める。難しい専門用語はないし、飛ばして読んでも意味がわかるし、簡単な言葉で書かれている。

不当解雇は、ある公爵家が中心になって、問題提起したことで明るみになった。その公爵家の名を見て、リラは謎が解けた。

ハダン公爵家。リラが不当解雇されたのはまさに、その公爵家だったからだ。

新聞に載った写真には、新公爵である嫡男のユージーン様。前公爵様は、もうすでに隠居されていた。ユージーン様の隣には、綺麗な可愛らしい女性がいる。どこか見たことのあるような顔だとは思うものの、リラは彼女を思い出すことはできなかった。




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