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霞と創造
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2045年、創造さんは心理学の研究所で、あとに参加してきた霞さんと出会う。
「道長 創造です。よろしくお願いします」
「青星 霞です、こちらこそよろしくお願いします」
最初は互いに自分の夢のために協力しあっていた。
「青星さん、これお願いします」
「はい」
霞さんは真面目で一ヶ月くらいには、即戦力となるの。
休憩時間も、
「青星さん休憩してもいいんですよ」
「いえ、大丈夫です」
――その仕事終わり、
「お疲れ様でした」
「青星さん」
「はい」
「青星さんは熱心ですね」
「そんな事はありませんよ」
「いえいえ、僕が会った人達の中で一番熱心に仕事してますよ」
「そ、そんなー、道長さん程ではないです」
「ハハッ、僕なんてまだまだだよ――それで、どうしてそんなに熱心なのかなって思って」
「······私には」
霞さんは自分の想いを語る。
「私には夢がありまして、去年海外に行ったのですがそこに『心の中』に入るという研究がありまして」
「『心の中』ですか?」
「はい」
「お言葉ですがその心の研究は昔からあるものですが」
「少し違います」
「え?」
「本当に『心の中』に入るんです」
「しかし······」
「今の時代、人間はバーチャルな世界やAIと暮らしたり、車にも飛行能力が付き、火星の移住だってしています」
「······そうですね」
「そんな中で、AIが私達人の代わりに活躍している時、ふと思ったんです。私達人間が優っているのは『心』だと、それなら本当に『心の中』というものに興味を持ち研究する事にしたんです」
「······凄い」
「えっ」
「凄いよ君は、いや青星さんはっ!」
「ですが、まだまだですよ······」
「今の時代だからこそ出来る気がするよっ」
「え、そうですか――」
この事が二人を繋ぐきっかけとなりお互い相手に惹かれ始めた。
順調に事は進み、交際して翌年には結婚して、
「霞」
「創造さん」
二人の幸せはピークに達していたの······。
結婚して1年後には、
「あなた、あたし遂に妊娠したみたい」
「······ああ」
「どうしたの?」
「いや、良かったよ」
この時から創造さんの反応がおかしいと気付く霞さん。
妊娠中でも愛する夫をサポートしていた。
「はいこれ、資料」
「ああ、ありがとう」
「はぁ~、あたし少し疲れたから休んどくわ」
「ああ」
“心の中”の研究で形が見えてきそうになるにつれ、霞さんやお腹の子の事に無関心な創造さんに、
「ねえっ、お腹少し大きくなったみたい、あなたに」
「そうか、よかった」
そう言うばかりで一人ぶつぶつと、ひたすら研究の事だけを考えているの。
そして出産の時も創造さんは分娩室に現れず、霞さんは一人不安な気持ちの中、赤ちゃんを出産する。
「ハァ――ハァ、ハァ」
「お母さん、元気な男の子よ~」
「ハァ、ハァ、私の、赤ちゃん」
この時にこの子を幸せにしてみせると心に誓う霞さんだった······。
二人で赤ちゃんの名前を『徹』と名付け、喜んだ。
「あなたほら、徹が笑ってる」
「そうだな――霞、悪いけど、これから研究所に戻るよ」
「えっ――でも、もう少し居てくれてもいいじゃない」
「僕と君の夢だろ、じゃあすまないけど」
「あなたっ!」
赤ちゃんが産まれても研究、研究と彼が変わることはなかった······。
創造さんは一向に子育てを手伝う気配もなく、危惧した霞さんは研究所を辞めて子育てに専念する事にしたの。
それでも休みの日、
「ねえ、今日は徹と一緒に外に出掛けたりしない?」
「······ごめん、オレ研究所に行くよ」
「そんな、せっかくの休みじゃない······」
「悪い」
彼は研究所に行ってしまった。
「何よ――人の気も知らないで·····」
私だって研究は続けたい。でも、この子の方が、徹の方が大切――そして苦渋の決断で研究所を辞めたというのに創造さんは、まるで分かっていない気がしてならなかった······。
そんな関係が1年、2年と経ち徹は歩けるようになったりお絵描きもしたりと成長していたの。
でも創造さんは、
「ただいま」
「お帰りなさい――どうしたの?」
彼の苛つきに気付いた霞さん。
「――また、失敗した」
「そう、でも研究には失敗はつきものじゃない」
「······ふう~、君は良いよな」
この何気無い一言が原因だった。
「何が言いたいの?」
「ん、怒った?」
「たかが失敗くらいで」
「おい、何だと? 今なんて言った」
「失敗くらいで情けないって言ったの」
お互いがヒートアップしてしまう。
「子育てしかしてないくせに」
「あんたなんか、研究、研究で徹にちっとも寄り添ってあげてないじゃない――私にだって」
「そんな余裕、オレにはないんだよ。研究の大変さはお前だって分かるだろっ、忙しいんだよ、大変なんだよ僕はっ!」
「徹が生まれる前から何もしてくれなかったあんたに何も言われたくないっ、あたしだって研究の辛さは知ってる。でも、あんたは妊娠中の辛さ、出産の辛さ、子育ての辛さだって知らないじゃないっ!」
「何っ!」
「うわぁ~っ」
その時徹が泣き出した。
この事から霞さんは徹を連れて、創造さんと別居。
お互いが相手に近付こうとせず、霞さんは仕事をしながら徹を、一方で創造さんの方も何に気を使うこともなくなり研究に打ち込む。
そんな別々の生活を5年間続けて······。
徹の小学校が始まる年。でも、父親の事はほとんど知らない。会うことも一年に一回や二回、そんな徹が小学校に行くようになる前に、霞さんは離婚届けを創造さんに渡す。
動揺もせず、すんなり書き半を押し、
「オレは研究しか出来ない人間なんだ。だから正直助かるよ」
「――そう、じゃあ、さようなら······」
二人は迷うことなく、振り向くこともなく別れていった。
そしてこの時、霞さんは別れるというのに徹の事を気にする素振りもない彼に、幻滅したの······。
それから小学生の徹を育てるために、ひたすら働き、徹が6年生になる頃にマザー·クリエイトを創設、とはいっても霞さん含め4人しかおらず、その中には生月先生の姿も。
そして現在に至る······。
「道長 創造です。よろしくお願いします」
「青星 霞です、こちらこそよろしくお願いします」
最初は互いに自分の夢のために協力しあっていた。
「青星さん、これお願いします」
「はい」
霞さんは真面目で一ヶ月くらいには、即戦力となるの。
休憩時間も、
「青星さん休憩してもいいんですよ」
「いえ、大丈夫です」
――その仕事終わり、
「お疲れ様でした」
「青星さん」
「はい」
「青星さんは熱心ですね」
「そんな事はありませんよ」
「いえいえ、僕が会った人達の中で一番熱心に仕事してますよ」
「そ、そんなー、道長さん程ではないです」
「ハハッ、僕なんてまだまだだよ――それで、どうしてそんなに熱心なのかなって思って」
「······私には」
霞さんは自分の想いを語る。
「私には夢がありまして、去年海外に行ったのですがそこに『心の中』に入るという研究がありまして」
「『心の中』ですか?」
「はい」
「お言葉ですがその心の研究は昔からあるものですが」
「少し違います」
「え?」
「本当に『心の中』に入るんです」
「しかし······」
「今の時代、人間はバーチャルな世界やAIと暮らしたり、車にも飛行能力が付き、火星の移住だってしています」
「······そうですね」
「そんな中で、AIが私達人の代わりに活躍している時、ふと思ったんです。私達人間が優っているのは『心』だと、それなら本当に『心の中』というものに興味を持ち研究する事にしたんです」
「······凄い」
「えっ」
「凄いよ君は、いや青星さんはっ!」
「ですが、まだまだですよ······」
「今の時代だからこそ出来る気がするよっ」
「え、そうですか――」
この事が二人を繋ぐきっかけとなりお互い相手に惹かれ始めた。
順調に事は進み、交際して翌年には結婚して、
「霞」
「創造さん」
二人の幸せはピークに達していたの······。
結婚して1年後には、
「あなた、あたし遂に妊娠したみたい」
「······ああ」
「どうしたの?」
「いや、良かったよ」
この時から創造さんの反応がおかしいと気付く霞さん。
妊娠中でも愛する夫をサポートしていた。
「はいこれ、資料」
「ああ、ありがとう」
「はぁ~、あたし少し疲れたから休んどくわ」
「ああ」
“心の中”の研究で形が見えてきそうになるにつれ、霞さんやお腹の子の事に無関心な創造さんに、
「ねえっ、お腹少し大きくなったみたい、あなたに」
「そうか、よかった」
そう言うばかりで一人ぶつぶつと、ひたすら研究の事だけを考えているの。
そして出産の時も創造さんは分娩室に現れず、霞さんは一人不安な気持ちの中、赤ちゃんを出産する。
「ハァ――ハァ、ハァ」
「お母さん、元気な男の子よ~」
「ハァ、ハァ、私の、赤ちゃん」
この時にこの子を幸せにしてみせると心に誓う霞さんだった······。
二人で赤ちゃんの名前を『徹』と名付け、喜んだ。
「あなたほら、徹が笑ってる」
「そうだな――霞、悪いけど、これから研究所に戻るよ」
「えっ――でも、もう少し居てくれてもいいじゃない」
「僕と君の夢だろ、じゃあすまないけど」
「あなたっ!」
赤ちゃんが産まれても研究、研究と彼が変わることはなかった······。
創造さんは一向に子育てを手伝う気配もなく、危惧した霞さんは研究所を辞めて子育てに専念する事にしたの。
それでも休みの日、
「ねえ、今日は徹と一緒に外に出掛けたりしない?」
「······ごめん、オレ研究所に行くよ」
「そんな、せっかくの休みじゃない······」
「悪い」
彼は研究所に行ってしまった。
「何よ――人の気も知らないで·····」
私だって研究は続けたい。でも、この子の方が、徹の方が大切――そして苦渋の決断で研究所を辞めたというのに創造さんは、まるで分かっていない気がしてならなかった······。
そんな関係が1年、2年と経ち徹は歩けるようになったりお絵描きもしたりと成長していたの。
でも創造さんは、
「ただいま」
「お帰りなさい――どうしたの?」
彼の苛つきに気付いた霞さん。
「――また、失敗した」
「そう、でも研究には失敗はつきものじゃない」
「······ふう~、君は良いよな」
この何気無い一言が原因だった。
「何が言いたいの?」
「ん、怒った?」
「たかが失敗くらいで」
「おい、何だと? 今なんて言った」
「失敗くらいで情けないって言ったの」
お互いがヒートアップしてしまう。
「子育てしかしてないくせに」
「あんたなんか、研究、研究で徹にちっとも寄り添ってあげてないじゃない――私にだって」
「そんな余裕、オレにはないんだよ。研究の大変さはお前だって分かるだろっ、忙しいんだよ、大変なんだよ僕はっ!」
「徹が生まれる前から何もしてくれなかったあんたに何も言われたくないっ、あたしだって研究の辛さは知ってる。でも、あんたは妊娠中の辛さ、出産の辛さ、子育ての辛さだって知らないじゃないっ!」
「何っ!」
「うわぁ~っ」
その時徹が泣き出した。
この事から霞さんは徹を連れて、創造さんと別居。
お互いが相手に近付こうとせず、霞さんは仕事をしながら徹を、一方で創造さんの方も何に気を使うこともなくなり研究に打ち込む。
そんな別々の生活を5年間続けて······。
徹の小学校が始まる年。でも、父親の事はほとんど知らない。会うことも一年に一回や二回、そんな徹が小学校に行くようになる前に、霞さんは離婚届けを創造さんに渡す。
動揺もせず、すんなり書き半を押し、
「オレは研究しか出来ない人間なんだ。だから正直助かるよ」
「――そう、じゃあ、さようなら······」
二人は迷うことなく、振り向くこともなく別れていった。
そしてこの時、霞さんは別れるというのに徹の事を気にする素振りもない彼に、幻滅したの······。
それから小学生の徹を育てるために、ひたすら働き、徹が6年生になる頃にマザー·クリエイトを創設、とはいっても霞さん含め4人しかおらず、その中には生月先生の姿も。
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