~マザー·ガーディアン~

ヒムネ

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      父の後悔

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「――という事なんだ徹」

「······酷いよ父さん」
 話を聞いて壁に寄りかかり、それはそうだと気持ちの中で納得している自分に気付く。
「······そんな父さんが何でオレの卒業式に」
 自分で発した言葉と同時に、話の中の父親と今の父親が同じ人とはとても思えなくなってきた。
「別れたあと」
 父さんは再び話し始める。
「別れたあと、自由になり喜び海外に勉強の場所を移し、研究を再開した。家族の事を考えず没頭したが、周りの人達はそうではなかった」

「どういう事?」

「周りの人達は、研究のみに力を入れるだけでなく家族も大切にしていた。そこに気を悪くした私はある時皆に言った」


「――もっと集中して下さい。家族が大切なのわ分かりますが、もっとしっかりしないと」

「どうしてそうカリカリしてるんだ? ミスター·ソウゾウ」

「皆さんが呑気にやっているからです」
「······君は何のために研究してるんだい?」

「それは、科学の発展のためです!」

「だったら家族も大切にしなくちゃ」

「科学と家族がどう関係あるんですか?」

「ハッハッハ」

「何が可笑しいんです」


「君ちょっと頭固いね」

「そうね、頭固すぎ」

「えっ」
 自分達は研究者、自分一人では大きな研究はできない。家族や仲間、社会のサポートあっての物だから家族を大切に、笑顔にしてあげるのも研究者として人として必要だと皆は想っていた。


「家族······大切、霞、徹」


「君のようにカリカリしていると、周りから離れていってしまうよ」

「オレは······オレは」

「どうした? ミスター·ソウゾウ!」


「――私は膝を着き、その場で泣き崩れた。自分のしでかした過ちに気づいて。だが、全ては遅かったんだ。ただ、霞に一生消えることのない傷、徹には父として何もしなかったこと、これが私の罪」

「それでオレに会いに?」

「ああ、そのあと私は親に恵まれない子や貧困の子等色々な子と出会ったよ······。自分がしてあげれなかった事をするかのように。それで勇気を出してお前に会うことにしたんだよ、徹」

「······母さんを追いかけよう」

「そうだな」
 母さんが行きそうな所はおそらく。
「やっぱりここか」

「徹君」

「――良く分かったな」
 保健室にいた。
「徹、まだそんなクズといるのか、とっとと」
「全部聞いたよ、父さんの口から」

「······そうか」
 それを聞いて座っていた母さんは立ち、
「屋上に行くぞ」

「ああ」
 父さんも黙って付いていく。

「生月先生、未来をお願いします」

「ええ、大丈夫?」

「大丈夫――にしてみせます」
 そう生月先生に言い、エレベーターで二十九階に行き階段で屋上へと上がっていった······。

 屋上からは蝶都の町並みが360度見渡せて気持ちいい、未来にも観せてあげたい。
 きっとはしゃぐだろうなあ――そう思いつつも気持ちを切り替える······。

「でっ、全て聞いて何故お前はソイツといるんだ、徹」
 母さんは腕を組、鋭い目線でオレに問う。
「······父さんの話を聞いて――最低だ、それと、ショックだった」

「徹······」

「父さんと出会った時は、オレを見捨てなかったんだ――そう喜んだよ。でも、前の父さんは、オレや母さんが邪魔だったんだよね?」

「――私はお前に全て話したつもりだ······ああ、そうだ。研究だけが私の全てだった」

「フンッ、クズがっ」

「でも――でも父さんがオレに会ってくれたってことは、前の父さんじゃないって、オレは思った」
「ハッ、前の父さんじゃない、どこがっ!」
 オレは心を落ち着かせながら冷静に言葉を口に出す。
「前の父さんなら、今でも研究してこんな所には絶対来ないよ」

「······何があったか知らないが、変わったから母さんに許せって言いたいのかっ?」

「違うよ、三人で協力しようって言ってるんだ」

「ソイツと協力だとっ、冗談じゃないっ!」

「霞っ、私を許さなくていい、ただ未来君を救う手助けだけはさせてくれないか?」

「黙れっ、あんたは口を開くなっ!」

「頼む!」
 父さんは土下座した。
「せめて、せめて私に子供孝行をさせてくれ」
「父さん――いいだろ、母さん」

「くっ······何故だ、何故コイツの力を必要とする徹。母さんとお前だけで十分だろっ!」

「父さん、立って」
 肩を持ち、立たす。
「すまん」

「母さんから子供の頃に教わった」

「――何だ?」

「オレが小学生の時――」
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