~マザー·ガーディアン~

ヒムネ

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     彼氏の想い

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 ――それは二回目の気候獣が現れる前の事。
「徹、またマザー·ガーディアンに乗る事になった」
 昨日、未来からそう言われて許したけど、信じてる人にとっては不安との戦いだ。オレはしつこくも母さんに話しに行った。
「入るよ」
「また説得かい?」
「そうだけど止めることじゃない」
「なんだ?」

「母さんは、オレと未来の結婚を許す気はあるのか訊きに来たんだ」

「何かと思えば、そんな事か」
「そういう言い方は止めてくれよ。未来はそのために乗ってるんだ」
「そんなに聞きたいか」
「ああっ」

「許す気はない」

 母さんは躊躇なく答えた。でもオレは落ち着いて、
「なぜ?」
「結果を出してないだろ、テストパイロットなら誰でも出来る、問題は結果だ」
「ふ~······」
「以上だ」

「安心したよ」

「何がだ?」
「結果なら、オレと未来で出して見せる!」
「徹、お前何を言ってるんだ?」
「オレが未来を全力でサポートするのさ」
「お前に出来ることは限られてるだろ」
「ああっ、でもない訳じゃない」
 そして扉を開き、

「······オレは、ずっと一人で働く母さんの背中を見てきた」

 辛い姿も、泣いてる姿も見てきた。
 でも、仕事が嫌だからそうなったんじゃない、本当は、

「側にいてほしい」

「何を言ってる」
「未来は今、心に寄り添ってほしいと思ってるはずだよね、母さん」
 そう言い残しオレは出ていく。
「徹······」

 ――次の日、昨日は母さんにああは言ったものの自分自身、具体的にどうすれば良いのか考えていたんだ。
「どうするかな」
 このお昼時間に守るからLINEが来て、
「暑い日の外仕事は辛いぜ」
 そう送ってきながらも外で働ける守は凄い、とても自分には出来そうもないし。そこで何となく、
「ちょっと訊きたいんだけど」
「何だ珍しい」

「未来に何かしてあげたいんだけど、思い付かなくてさ」

「オレに訊くか?」
「たまには良いじゃん」
「デートとかじゃないのか?」
 デート、そういえば八月になってから行ってなかった。
「ありがとう、守」
「おう」
 という事でこの日は、どこでデートするかを探すことにする······。

 ――二十二日、和歌山県で未来の気候獣を止める事に成功。でも、
「徹······あたし、やっちゃった」
 焦って母さんに怒鳴られ泣いてしまう。疲弊していたから感情をコントロール出来ないでいた感じだったけど、何とか落ち着く――。
 
 そして、デートの二日間。一日目は、自分が決めていた通り水族館 蝶に行った。そこは上手くいったが、未来が薬を忘れて精神不安定になり、フェアリーウイングから帰った時スカイカーの中で、

「このっ、マザコンっ!」
 
 彼女の本音を聞いた気がする。オレってマザコンなのか······。
 
 二日目、薬をしっかり確認して午後にフェアリーウイングに行った。
 この二日間は楽しく、未来がどこか抜けてて面白かったなあ――。

 ――二十五日、この日は気候獣が一週間後の九月一日に現れる事が分かった。
「母さん、未来の事を」
 めげずにオレは母さんと話していたが、
「徹、しつこいぞ、母さんは許さないと行ったはずだ」

「――ああ、そうだったね、分かったよ母さん」

 そう言って社長室を出る。許してくれないだろうとは、これまで話して分かってはいたが、もう一度確かめてみて感じた。
 母さんは未来と出会ってから過去に囚われ始めていると。
 このままでは最悪、気候獣にやられてしまう。だから自分自身も事に決めたのだ······。

 社長室を出てエレベーターに乗っていると、今日面接に来ている人の噂を耳にした。エレベーターを降り、食堂に行こうとした時、

「道長君」

「えっ、どうしてここに――」

 ――金曜日、私は訓練を終了したあと、社長室に来るようにとスタッフに言われ向かっていた。
「失礼します」
「来たか」
 霞さんの前にショートカットの女性が話していたようで、

「新しい新人だ、紹介しよう」
「はい」
 どんな人だろうと思ったら、

「心拠 愛です。よろしくお願いします」

「ええっ!」
 仰天する。
「どう、して?」
 就職してiT企業に勤めていたあの愛が、何故ここにいるのか、
「以上だ」
「はい······」

 私は動揺して言葉が出なかったけど、社長室のドアを閉めて歩きながら問いただす。
「どうしてここにいるのっ!」
「受かったから」
「え~――前の会社は?」
「辞めた」
「両親は?」
「最初は怒られたけど、ちゃんと説明して分かって貰いました」
「も~、どうしてよ~、あたしにもちゃんと説明してよっ」

「前話たでしょ、人のための仕事がしたいって、そんな時に、あのロボットが気候獣を消したのをネットで見て、私感動したの。昔から人類は自然災害に悩まされて来たじゃない?」

「うん」

「もっと進化すればさぁ、津波や火山の噴火だって静める事が出来るかもしれないじゃない。だから、私はこの会社に来たの」

 愛の理由は分かったけど、何か自分が招いたような感じがして悪い気がしていた。
「じゃっ、またね未来」
「帰らないの?」
「もうちょっと見学したいの」
「わかった、じゃあね――」
 
 私は、いつも通り一階のオフィスで徹を待って、
「未来お待たせ、帰ろうか」
「――ねえ徹」
「何?」
「愛がマザー·クリエイトで仕事する事になったのっ!」
「あーっ、やっぱり受かったんだね」

「えっ、知ってたんならどうして私に言ってくれなかったのっ!」

「ちょ、ちょっと、オレが会った時は受かった訳じゃないし、未来に分からないことで悩んでほしくなかったんだよ」
「も~どうして······」
「別にいいんじゃないの?」
「えー?」

「だって、ちゃんと自分の意思で辞めてきたんだから」

「そうだけどさっ、もしかしたら私のせいで······」
「思い込みすぎ、仮にそうだとしても、マザー·ガーディアンは未来しか乗れないんだから何も心配する事ないと思うけど」
「まあ、そうだけどさっ」
 私は何か話が大きくなってる気がしていたから、愛が来てまた焦ったの······。

 まさか気候獣が来る前に愛が来るなんて、とにかく明日から土日。気持ちを切り替えなくっちゃ······。
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