勇者に恋した魔王の配下

ヒムネ

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3度目の敗北

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 3度目の出会だった……。

「愛は毒……今度こそ魔王ルモール様にもらった力で勇者アヴエロッ、あんたを倒すっ!」

 悪魔の翼で空を飛び、髪から突き出た2本の悪魔の角は力を増幅、そしてあたい自慢の巨大化した右手の魔爪。今こそあたい自身の全てを懸けて勇者に急降下、襲いかかった。

「ネモネアッ、はぁああぁぁぁっ!」

 憎しみを込めて攻撃を仕掛けるも、魔法で白い翼を羽ばたかせて飛びかかってきた勇者はやっぱり強かった。それと、美しかった。

 あたいの魔爪は冷静に剣で払う、闇の魔法も頼れる仲間たちと共にしっかりと対策と完璧だ。これが手を繋ぎ合う仲間ってやつなんだな。

 その後も勇者は武器である女神の剣で角と翼を切り落とした。その結果、あたいは魔王様にもらった力を全てを失ってしまった。
 圧倒的な強さ、もうあたいの命一つで倒せるような勇者じゃない。

 すべてが終わった。あたいを拾ってくれた魔王様にこれが最後のチャンスと言われてこのザマな以上はもう命はない……。

「雪……」

 仰向けに倒れていたから、城の窓から自然と外の雪が入ってきたみたい。身体に付着すると今の状況と相まって冷たい、独りのあたいには相応しいか……。


「アヴエロ、あんたの勝ちだ……殺せ」

「ネモネア……」

「あたいは魔王の配下として3度あんたに挑んで負けた……悔いはない」

 どのみち魔王様に裁かれる。勇者に殺されてもそれは同じ死だし、あの世に行くのが少し早いか遅いかだけ。

「……私は、君を殺しません」

「ふざ、けるな、いまさら同情なんかいらない、殺せ」

 なんとか上半身だけを起こして勇者をきつく睨みつけた。それでも勇者かれは眉が下がって哀れそうにあたいを見ていてムカつく、というか悔しい。おまけに、魔王様の力が無くなって身体に力が入らず思うように動かせない。それと少し、寒かった。

「魔界では弱肉強食がルールなんだ、だからあんたに負けを認めたあたいは殺されなきゃならない」
「ここは魔界ではありません」

「……御託はいいんだよ、あんたにその気がないって言うなら、後ろを振り向いた隙に襲いかかって、殺すかもよ」

「……それも無理でしょう。魔王の力が注がれる源の翼と角が無くなって力が思うように入らないようにみえますから」

「くっ……ちくしょう、ちく……しょう」

「それにねネモネア、私は殺すために勇者になったんじゃない。世界を魔物だらけにして子どもたちの未来を奪おうとする魔王を倒すために勇者になったんです」

 魔王倒す、最初は弱かったのに……勇者コイツはどうしてこんなに強くなったんだ。それと、言葉が頭をよぎる……いや、なにか変、声が深くふかく心にすとん、と響くような。

「……わかってくれたみたいですね」 

「この気持ちは……なんなんだ、いったい……」


 バサッ、勇者は背中に付けた紅いマントを突然と外して迷いなくあたいに被せてくれた。

「なっ、なによっ」

「身体が震えてます、魔王の力が無くなって寒く感じるのでしょう、だから」

「べ、別に寒くなんて……」

 嘘つく抵抗をしたけど、ホントは心底震えてる。

「ネモネア、最初に君と出会ったとき君の過去知った、そして2度目に戦ったとき話した私の言葉をもう一度思い出して、人を傷付けない魔族の女性としてどうか生きてほしい」

 わかったような事を言い残して勇者とその仲間は魔王様の居る最後の扉を開いて歩いていった。なにさ、偉そうに……。

 ドクンッ、そのとき胸が鳴った。

 なんだろういったい、これは寒さからくるもんじゃない、もっとこう奥から震えるような熱いような。

 毒、か。

 勇者は剣に毒を塗っていた。なんてそんなことをする奴じゃないのは知っている。
 すると、勇者かれのことを考えるとどうしてか胸が楽になった気がした。

「なんなんだろう、これは……勇者アヴエロ……魔王様……」

 ただその場で立っているだけではどんどん寒くなっていく。裸足のため雪で冷い……でもそれだけなのだろうか。どうせだ、勇者と魔王様の戦いも気にはなもなるしと向かって様子を見ることにした。マントを握りしめながら……。
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