勇者に恋した魔王の配下

ヒムネ

文字の大きさ
4 / 66

弱者と強者

しおりを挟む
 ガチャッと音とともに扉が開く。

「……ネモネア」

 死を覚悟して勇者の方を向いた。

「勇者アヴエロ」

「その禍々しい角、また魔王に力を?」

「……愛は毒」

 魔王様が教えてくれた言葉。


「――愛、それは毒だ」

「毒……」

「その毒ゆえに人とは間違った行動をする。判断を誤る。それはただの人を繁殖させるためのものだというのに、しかし愚かにもその毒を幸福と勘違いをして恋だの恋愛だのと説いている。そんなものに価値などない」

 毒、それなら無い方がいいに決まってる、決まってるはずなのに何か胸に突っ掛かる感じがしていた。

「さぁネモネアよ眼の前に来るがよい、これが最後のチャンスだ」

 おでこにふれる手前で魔王様の禍々しい力が流れてくる。

「我が力をあたえる、そして勇者を倒すのだ……がっかりさせるなよネモネア」

「はい……」

 これで勇者に勝てなければ、あたいは魔王ルモール様に殺されるだろう。でも、どうせ1人で生きてきた人生だったあたいには殺されても捨てられて孤独になっても同じだ。孤独は死と同じくらい、辛い。
 そして勇者に3度目の、最後の戦いを挑んだのに……。


「――クションッ、ふぅ~……寒い」

 結局3度目も敗北、今は雪の寒さゆえに勇者のマントを羽織るざま。気持ちも魔王様の言う毒を盛られたような状態に近くどうしてか勇者と魔王様の最後の戦いに不思議と足を動かしていた。

「どうしてあたいは……」

 理由は分からない。これじゃまるで魔王様に殺してくれと言うようなものなのに、引き返そうとするとなんか嫌で胸もうずく。こんなことは生まれて初めて、でもたぶん何かの魔法か魔王様の力を失ったリスクかも。

 そうこう考えていると城が一瞬揺れた。間違いなくこれは勇者と魔王様の戦いによる影響と思い、あたいは走っていった。

「扉か……」

 バレないように片目でそ~っと覗くと、そこには光と闇の力が激しくぶつかり合っていた。

「ぐあぁっ」

 しかし、勇者たちは魔王様の力でふっ飛ばされる。

「ふんっ、貴様ら若造どもに殺されるこの魔王ルモールではないわ」

「くっ、地上の平和のためにも負けられないんだ!」

「ふっ、若いな勇者、平和など……ワッハッハッハッハッ」

「……何を笑う」

「純粋に勇者を全うしてきた若造は知るまい……平和な世界それは、傲慢、嫉妬、怒りや強欲、怠惰たいだ、暴食に色欲、これこそが真の世界の正体、つまり人間の世界だ。貴様とは間逆のな」

 魔王様の迷いのない言葉に何も答えず沈黙する勇者たち。やっぱり魔王様の言う通りなんだ。人間は自分たちのおかした罪をかえりみない冷たい存在。
 でも、そうだとしたらそんな人間に負けたあたいは魔王様に殺されるべき存在、なのかな。

「……わかってます」

「え……」

 勇者の言葉にあたいは思わず驚いて声が漏れた。でも勇者アイツの表情はなんか哀しそう、あたいを見た時みたいに。


「なに……」

「最初は純粋でも環境によって汚れた人間は、欲に溺れ人を陥れたり、子どもを容赦なく売りさばいたり捨てたりもする……」

「分かっていて人間のために世界を救う勇者になる……それを愚かというのだ」

 魔王様の言葉が入ってくるたびにあたいは暗くて哀しくて、絶望の未来の世界を感じさせられた。耐えきれなくて壁際に塞ぎ込むしまつ。

「愚か者? だから諦めて“人間を滅ぼせ”と言うのでしょう」

「そうだ、全ての人間を滅ぼして我が理想の世界に手を貸すのだ勇者っ!」

「断るっ!」

 間もおかず断る勇者の強い意志の声が塞ぎ込んでるあたいにも届く。

「くっくっく、やはりか」

「そうやって理屈を並べて、けっきょく傷つくのは何時も……子どもたちじゃないか!」

 勇者の手は拳となって震えてる。伝わってくる必死な思いに仲間たちも立ち上がる。

「力があるなら、今にも空腹で死にそうな子どもたちを救ったらどうですかっ!」

「馬鹿らしい、話にならん!」

 立ち直った勇者たちと魔王様の激しい攻防はまた城を揺しだす。どちらかが言葉を交わせば全て否定する。この2人は本当に光と闇そのものなんだとあたいは思わずにいられない。


「弱者は枷になっても糧にならん、特にガキはな」

 挑発のような言葉にも勇者は冷静だった。

「……そんな魔王が、どうしてネモネアを仲間に」

「ネモネア、あの口だけで貴様も葬れなかった役立たずか」

 口だけ、その、とおりだ。

 魔王様にとってあたいは……あたいはただの駒、わかってた。

 わかってたのに、すごく悲しくなった。

 戦いも見る気をなくし壁に背もたれし頭が下がって、もう真っ白。ただ、悔しくて涙が出る。

「魔性の森に危険な獣がいると風のうわさで聞いてな、使えるかと思ったまでの事。所詮はただのガセだったがな」

「魔王……さま……ううっ」

 スカウトされた時を思い出す。魔性の森で現れた魔王様を見つけてあたいは襲いかかったが一撃でやられた。


「――ぐうっ、な、何者だ」

「ワシは魔王ルモールこの世界の天になる者」

「ま、魔王……殺せ、あたいはあんたに負けた、この世は弱肉強食がルール」

「ふっふっふっ、確かにその通りだが……お前は弱者でなく強者」

「え?」

「負けたのも仕方ない、何故ならわしが強すぎる“最強者”なのだからな」

「あたいは……強者……」

 あのとき両親に捨てられたあたいが初めて誰か他人に選ばれた気がした。そして魔王様に尽くす事があたいの生まれてきた意味なんだと思ってた、のに。

「魔王っ、ネモネアは親に捨てられ孤独に生きるしかなかった人、そんな人の傷をえぐるようなあなたを、私は許さないっ!」

「そ奴らは抉られるために生まれたのだから仕方ない。それが弱者の生きる道なのだっ!」

 傷ついたのに、あたいはいつの間にか勇者を目で追っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~

いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。 地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。 「――もう、草とだけ暮らせればいい」 絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。 やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる―― 「あなたの薬に、国を救ってほしい」 導かれるように再び王都へと向かうレイナ。 医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。 薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える―― これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...