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弱者と強者
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ガチャッと音とともに扉が開く。
「……ネモネア」
死を覚悟して勇者の方を向いた。
「勇者アヴエロ」
「その禍々しい角、また魔王に力を?」
「……愛は毒」
魔王様が教えてくれた言葉。
「――愛、それは毒だ」
「毒……」
「その毒ゆえに人とは間違った行動をする。判断を誤る。それはただの人を繁殖させるためのものだというのに、しかし愚かにもその毒を幸福と勘違いをして恋だの恋愛だのと説いている。そんなものに価値などない」
毒、それなら無い方がいいに決まってる、決まってるはずなのに何か胸に突っ掛かる感じがしていた。
「さぁネモネアよ眼の前に来るがよい、これが最後のチャンスだ」
おでこにふれる手前で魔王様の禍々しい力が流れてくる。
「我が力をあたえる、そして勇者を倒すのだ……がっかりさせるなよネモネア」
「はい……」
これで勇者に勝てなければ、あたいは魔王ルモール様に殺されるだろう。でも、どうせ1人で生きてきた人生だったあたいには殺されても捨てられて孤独になっても同じだ。孤独は死と同じくらい、辛い。
そして勇者に3度目の、最後の戦いを挑んだのに……。
「――クションッ、ふぅ~……寒い」
結局3度目も敗北、今は雪の寒さゆえに勇者のマントを羽織るざま。気持ちも魔王様の言う毒を盛られたような状態に近くどうしてか勇者と魔王様の最後の戦いに不思議と足を動かしていた。
「どうしてあたいは……」
理由は分からない。これじゃまるで魔王様に殺してくれと言うようなものなのに、引き返そうとするとなんか嫌で胸もうずく。こんなことは生まれて初めて、でもたぶん何かの魔法か魔王様の力を失ったリスクかも。
そうこう考えていると城が一瞬揺れた。間違いなくこれは勇者と魔王様の戦いによる影響と思い、あたいは走っていった。
「扉か……」
バレないように片目でそ~っと覗くと、そこには光と闇の力が激しくぶつかり合っていた。
「ぐあぁっ」
しかし、勇者たちは魔王様の力でふっ飛ばされる。
「ふんっ、貴様ら若造どもに殺されるこの魔王ルモールではないわ」
「くっ、地上の平和のためにも負けられないんだ!」
「ふっ、若いな勇者、平和など……ワッハッハッハッハッ」
「……何を笑う」
「純粋に勇者を全うしてきた若造は知るまい……平和な世界それは、傲慢、嫉妬、怒りや強欲、怠惰、暴食に色欲、これこそが真の世界の正体、つまり人間の世界だ。貴様とは間逆のな」
魔王様の迷いのない言葉に何も答えず沈黙する勇者たち。やっぱり魔王様の言う通りなんだ。人間は自分たちのおかした罪をかえりみない冷たい存在。
でも、そうだとしたらそんな人間に負けたあたいは魔王様に殺されるべき存在、なのかな。
「……わかってます」
「え……」
勇者の言葉にあたいは思わず驚いて声が漏れた。でも勇者の表情はなんか哀しそう、あたいを見た時みたいに。
「なに……」
「最初は純粋でも環境によって汚れた人間は、欲に溺れ人を陥れたり、子どもを容赦なく売りさばいたり捨てたりもする……」
「分かっていて人間のために世界を救う勇者になる……それを愚かというのだ」
魔王様の言葉が入ってくるたびにあたいは暗くて哀しくて、絶望の未来の世界を感じさせられた。耐えきれなくて壁際に塞ぎ込むしまつ。
「愚か者? だから諦めて“人間を滅ぼせ”と言うのでしょう」
「そうだ、全ての人間を滅ぼして我が理想の世界に手を貸すのだ勇者っ!」
「断るっ!」
間もおかず断る勇者の強い意志の声が塞ぎ込んでるあたいにも届く。
「くっくっく、やはりか」
「そうやって理屈を並べて、けっきょく傷つくのは何時も……子どもたちじゃないか!」
勇者の手は拳となって震えてる。伝わってくる必死な思いに仲間たちも立ち上がる。
「力があるなら、今にも空腹で死にそうな子どもたちを救ったらどうですかっ!」
「馬鹿らしい、話にならん!」
立ち直った勇者たちと魔王様の激しい攻防はまた城を揺しだす。どちらかが言葉を交わせば全て否定する。この2人は本当に光と闇そのものなんだとあたいは思わずにいられない。
「弱者は枷になっても糧にならん、特にガキはな」
挑発のような言葉にも勇者は冷静だった。
「……そんな魔王が、どうしてネモネアを仲間に」
「ネモネア、あの口だけで貴様も葬れなかった役立たずか」
口だけ、その、とおりだ。
魔王様にとってあたいは……あたいはただの駒、わかってた。
わかってたのに、すごく悲しくなった。
戦いも見る気をなくし壁に背もたれし頭が下がって、もう真っ白。ただ、悔しくて涙が出る。
「魔性の森に危険な獣がいると風のうわさで聞いてな、使えるかと思ったまでの事。所詮はただのガセだったがな」
「魔王……さま……ううっ」
スカウトされた時を思い出す。魔性の森で現れた魔王様を見つけてあたいは襲いかかったが一撃でやられた。
「――ぐうっ、な、何者だ」
「ワシは魔王ルモールこの世界の天になる者」
「ま、魔王……殺せ、あたいはあんたに負けた、この世は弱肉強食がルール」
「ふっふっふっ、確かにその通りだが……お前は弱者でなく強者」
「え?」
「負けたのも仕方ない、何故ならわしが強すぎる“最強者”なのだからな」
「あたいは……強者……」
あのとき両親に捨てられたあたいが初めて誰か他人に選ばれた気がした。そして魔王様に尽くす事があたいの生まれてきた意味なんだと思ってた、のに。
「魔王っ、ネモネアは親に捨てられ孤独に生きるしかなかった人、そんな人の傷をえぐるようなあなたを、私は許さないっ!」
「そ奴らは抉られるために生まれたのだから仕方ない。それが弱者の生きる道なのだっ!」
傷ついたのに、あたいはいつの間にか勇者を目で追っていた。
「……ネモネア」
死を覚悟して勇者の方を向いた。
「勇者アヴエロ」
「その禍々しい角、また魔王に力を?」
「……愛は毒」
魔王様が教えてくれた言葉。
「――愛、それは毒だ」
「毒……」
「その毒ゆえに人とは間違った行動をする。判断を誤る。それはただの人を繁殖させるためのものだというのに、しかし愚かにもその毒を幸福と勘違いをして恋だの恋愛だのと説いている。そんなものに価値などない」
毒、それなら無い方がいいに決まってる、決まってるはずなのに何か胸に突っ掛かる感じがしていた。
「さぁネモネアよ眼の前に来るがよい、これが最後のチャンスだ」
おでこにふれる手前で魔王様の禍々しい力が流れてくる。
「我が力をあたえる、そして勇者を倒すのだ……がっかりさせるなよネモネア」
「はい……」
これで勇者に勝てなければ、あたいは魔王ルモール様に殺されるだろう。でも、どうせ1人で生きてきた人生だったあたいには殺されても捨てられて孤独になっても同じだ。孤独は死と同じくらい、辛い。
そして勇者に3度目の、最後の戦いを挑んだのに……。
「――クションッ、ふぅ~……寒い」
結局3度目も敗北、今は雪の寒さゆえに勇者のマントを羽織るざま。気持ちも魔王様の言う毒を盛られたような状態に近くどうしてか勇者と魔王様の最後の戦いに不思議と足を動かしていた。
「どうしてあたいは……」
理由は分からない。これじゃまるで魔王様に殺してくれと言うようなものなのに、引き返そうとするとなんか嫌で胸もうずく。こんなことは生まれて初めて、でもたぶん何かの魔法か魔王様の力を失ったリスクかも。
そうこう考えていると城が一瞬揺れた。間違いなくこれは勇者と魔王様の戦いによる影響と思い、あたいは走っていった。
「扉か……」
バレないように片目でそ~っと覗くと、そこには光と闇の力が激しくぶつかり合っていた。
「ぐあぁっ」
しかし、勇者たちは魔王様の力でふっ飛ばされる。
「ふんっ、貴様ら若造どもに殺されるこの魔王ルモールではないわ」
「くっ、地上の平和のためにも負けられないんだ!」
「ふっ、若いな勇者、平和など……ワッハッハッハッハッ」
「……何を笑う」
「純粋に勇者を全うしてきた若造は知るまい……平和な世界それは、傲慢、嫉妬、怒りや強欲、怠惰、暴食に色欲、これこそが真の世界の正体、つまり人間の世界だ。貴様とは間逆のな」
魔王様の迷いのない言葉に何も答えず沈黙する勇者たち。やっぱり魔王様の言う通りなんだ。人間は自分たちのおかした罪をかえりみない冷たい存在。
でも、そうだとしたらそんな人間に負けたあたいは魔王様に殺されるべき存在、なのかな。
「……わかってます」
「え……」
勇者の言葉にあたいは思わず驚いて声が漏れた。でも勇者の表情はなんか哀しそう、あたいを見た時みたいに。
「なに……」
「最初は純粋でも環境によって汚れた人間は、欲に溺れ人を陥れたり、子どもを容赦なく売りさばいたり捨てたりもする……」
「分かっていて人間のために世界を救う勇者になる……それを愚かというのだ」
魔王様の言葉が入ってくるたびにあたいは暗くて哀しくて、絶望の未来の世界を感じさせられた。耐えきれなくて壁際に塞ぎ込むしまつ。
「愚か者? だから諦めて“人間を滅ぼせ”と言うのでしょう」
「そうだ、全ての人間を滅ぼして我が理想の世界に手を貸すのだ勇者っ!」
「断るっ!」
間もおかず断る勇者の強い意志の声が塞ぎ込んでるあたいにも届く。
「くっくっく、やはりか」
「そうやって理屈を並べて、けっきょく傷つくのは何時も……子どもたちじゃないか!」
勇者の手は拳となって震えてる。伝わってくる必死な思いに仲間たちも立ち上がる。
「力があるなら、今にも空腹で死にそうな子どもたちを救ったらどうですかっ!」
「馬鹿らしい、話にならん!」
立ち直った勇者たちと魔王様の激しい攻防はまた城を揺しだす。どちらかが言葉を交わせば全て否定する。この2人は本当に光と闇そのものなんだとあたいは思わずにいられない。
「弱者は枷になっても糧にならん、特にガキはな」
挑発のような言葉にも勇者は冷静だった。
「……そんな魔王が、どうしてネモネアを仲間に」
「ネモネア、あの口だけで貴様も葬れなかった役立たずか」
口だけ、その、とおりだ。
魔王様にとってあたいは……あたいはただの駒、わかってた。
わかってたのに、すごく悲しくなった。
戦いも見る気をなくし壁に背もたれし頭が下がって、もう真っ白。ただ、悔しくて涙が出る。
「魔性の森に危険な獣がいると風のうわさで聞いてな、使えるかと思ったまでの事。所詮はただのガセだったがな」
「魔王……さま……ううっ」
スカウトされた時を思い出す。魔性の森で現れた魔王様を見つけてあたいは襲いかかったが一撃でやられた。
「――ぐうっ、な、何者だ」
「ワシは魔王ルモールこの世界の天になる者」
「ま、魔王……殺せ、あたいはあんたに負けた、この世は弱肉強食がルール」
「ふっふっふっ、確かにその通りだが……お前は弱者でなく強者」
「え?」
「負けたのも仕方ない、何故ならわしが強すぎる“最強者”なのだからな」
「あたいは……強者……」
あのとき両親に捨てられたあたいが初めて誰か他人に選ばれた気がした。そして魔王様に尽くす事があたいの生まれてきた意味なんだと思ってた、のに。
「魔王っ、ネモネアは親に捨てられ孤独に生きるしかなかった人、そんな人の傷をえぐるようなあなたを、私は許さないっ!」
「そ奴らは抉られるために生まれたのだから仕方ない。それが弱者の生きる道なのだっ!」
傷ついたのに、あたいはいつの間にか勇者を目で追っていた。
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