勇者に恋した魔王の配下

ヒムネ

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砂漠の夜

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「ボタンを同時にか、確かに、今はそれしかないかもな」

「だろっ!」

 問題は3つのボタンのうち赤、青、緑のどれを同時に押すか。とんでもない罠がないとも言えないし、かと言ってヒントもないからあたいの感しかない。

「くっ」

「ナニラ、横になってなよ」

「……罠かもしれないんだ、横になんかなってられるか」

 そのとおりだけど、もう少し素直に言えないものかね。

「よし決めた……押すよ」

「オーブもしっかり持っとけ」

「わかってる……」

 左手に持つブラック・オーブの袋を肩にかけ右手の人差し指が青、中指で赤のボタンに指を構える。
 化け物でも出てくるかもしれないと思うと緊張で手から脂汗が、でも……押すっ。

 カチャッ。

「……何にも……起きないのか……」

「はずれか……いや、竜の門が光っ……」

 竜の門の眼から黄色い光が部屋一杯に広がる。あたいとナニラは眩しさで思わず目を閉じた。


「うっ……さむっ」

「城下が見える、はぁ~っ……出れたみたいだ」

 夜で少し距離があるがあれはキングロビウ城下町の光、あたいたちは本当に出れたみたい。走って行きたいけど、ナニラをほっとくのは気分が悪いから肩に担いで灯火の元へと歩いていく……。


「――ん、ネモネア、ネモネア無事だったかっ!」

「……いろいろあるんだな……ってモントッ!」

 砂漠の寒い夜に城下町の外の人影はモントだった。あたいは安堵したけど色々話したいこともある。モントとエメールが宿を取っているということであたいはナニラを連れて向かった。

「――うっ、美味いっ、ガツガツ……」

「よく食うなナニラ」

「よかったですよ、ネモネア・プリンセスがご無事でっ!」

「死ぬかと思ったけどね」

「それで、その砂漠の地下に壁画が?」

「ああ、ブラック・オーブを取り返すだけじゃなくて……」

 壁画に描かれた魔王、女神、竜、虎に竜の眼が光る指輪。どれも地下で手に入れた情報と物。もしかしたら何かのヒントになるかもしれない。

「それと……そこの盗賊女」

「ガツガツッ……なんだい女騎士さん、目が恐いね~」

「あたしは国を守るグランジウムの騎士、つまり盗賊、お前をここで捕まえる使命がある」

 スッと椅子から立ち上がるモント。

「ちょ、ちょっとモント」

「プハーッ、食ったくった……やる気か、女騎士」

 お互いが見つめ合うと、ナニラも立ち上がった。宿の中は一触即発の雰囲気にあたいは立つ。

「やめてよ2人とも……せっかく流砂から出れて、生きてるって実感してるのに」

「ネモネアッ、もとあと言えばそいつのせいで砂漠の地下を彷徨うことになったんだぞ」

「ふんっ」

「……それはさんざん地下で言ったからもういい、それにおかげで砂漠の地下の秘密も知れたし、何より今は争ってる場合じゃない」

 それに2人には争ってほしくない。あたいの勝手だけど。

「……今回はネモネアに免じて見逃してやろう」

「そうかい……それじゃあ、あたしはもう帰るよ」

「次に会ったときは、あんたを捕らえるからな」

「へっ、やれるもんならやってみな、女騎士」

 そう言うけどやっぱり弱ったナニラじゃなくて、正々堂々と捕まえたかったんだろうなモントは。

「あ、ナニラッ!」

 すると夜にも関わらず宿の窓から飛び出るナニラをあたいは言いたいことがあって追いかけた。


「――ナニラ待てっ!」

「……ネモネア」

「あんたがさっき砂漠を歩いてて言ったこと……」

 それは竜の門の黄色い光で砂漠の地下を抜け城下町までナニラを担いで歩いてる時。


「――どうして盗賊なんかなったの」

「……愛してたのさ」

 また怒ると思ったのに、お腹空きすぎて頭がどうかしちゃったのかも。

「バカな女は、1人の男を愛してた。この人と添い遂げるなんて若いバカ女は思っていのさ」

「……女の気持ちは、わかるけど」

「けっ、だが男には他に位の高い女がいた。そんな男にバカ女は全てを捧げてたってのに。我慢出来なくなったバカ女は男に問いただした、どっちが大切なのって」

「……それで……別の女に」

「ああ、男はバカで稼ぎの少ない女より別の位が高く金のある女を選びやがった……くそが」

「なにその腹立つ話……」

「だがそれで終わりじゃなかった」

「終わりじゃないって」

「一人捨てられた傷の癒えないバカ女の家に、ある日盗賊が押し寄せた。男と一緒になるために昼夜問わず稼いだ金や金品は全て奪われた」

「はぁあっ……ひどい」

「……後で分かった事だった、男は盗賊に金でバカ女の情報を売りやがったんだ……選んだ女に金を使うために……」

「情報を、売ったっだって!」

「へっ、笑えるだろ、ただ純粋に男を愛しただけなのによ。家を、全てを奪われて文無しで生きるしかないなんてよ」

「……それで、盗賊女の出来上がり、か」

「そんな生易しいもんじゃないさ、女を捨てて生きるために人から物を奪って、男と襲った盗賊共に復讐するために動いたんだからな」

「復讐は、どうだったの」

「女に過去をバラして、男の金品を奪ってざまあみろだ。盗賊共は服従させてボスについて万々歳さ――」

 どんな気持ちでそんな辛い話をあたいにしたのかは分からない。偶然や気まぐれかもしれない。


「――そのバカ女は、今は幸せなのかナニラ」

「フンッ、ああそいつは復讐も果たせたし金も手に入って幸せさ」

「あたいは、あたいは後悔してる……いまでも」

「そうかよ、勝手に……」

「魔王ルモールの配下だったことを」

「お前がっ!」

「あたいもたくさん勇者を傷つけた」

「それはざまあないね、せいぜい死ぬまで後悔するんだね」

「それと」

「まだなんか?」

「指輪、いいの?」

「あたしは一度死を覚悟した。それを助けてくれた借りを返しただけだ」

「そうか、ありがとうナニラ」

「気持ち悪いんだよ、尻軽女!」

 死ぬまで後悔と尻軽女、腹が立つよまったく。

「んじゃ、あたしからも」

「なにさっ」

「もし男に振られて仕事が無いなら、盗賊にしてやるよ感謝しな!」

 そう言い残して夜の砂漠から姿を消したナニラ。何が盗賊にしてやるだよ、そんなのは絶対ごめんだ。

 大嫌いだったのにあんな過去知っちゃうとちょっと考えてしまう。男に捨てられた事を思うと、わかるから、辛いのが。愛って、愛するって、憎しや哀しみも生んで他人の人生も狂わすのか……。
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