勇者に恋した魔王の配下

ヒムネ

文字の大きさ
58 / 66

襲う邪悪な獣達

しおりを挟む
「――ワニおじいちゃん、いったい……」

「この魔法で皆を急速に回復させる……リスクがちと厄介じゃがな」

「え?」

 アクアン老師の杖が青白く光る。

「あそこにエメールという奴がおる。クレマちゃんには奴に言葉を伝えてほしい」

「……言葉って、自分で伝えればいいじゃない」

「頼んだぞ……」

「ちょっと、ワニおじいちゃん……」

「……全てのダメージをわしにっ、トランスファーッ!」


 クレマはアクアン老師が唱えたあと身を切り刻まれる姿に危険な魔法を使ったと気づく。慌てて回復させるも血反吐を吐き続け死んだ。アクアン老師の死ぬ覚悟をその場でみることになったクレマ。


「あなたがエメールさん?」

「クレマ……プリンセス、そうです……」

「これを受け取ってとワニの、アクアンさんから」

「これは、師匠の……」

「未来を掴むのは魔王でもワニ顔の老人でもない、お前たち若者だ……そう伝えてと……」

 それはアクアン老師が装備していた杖と女神のマント。クレマに最後の言葉を託したんだと知り、今エメールはカウボーイハットのつばを掴んで顔を隠している。哀しい気持ち、後悔だろうか……。

「ダメージを無くす魔法、それによって貴様等は傷が消え、そこの奴が全ての攻撃を受けて死んだと言うわけか」

「シャンイレール……」

 アヴエロは怒りを必死に抑えて冷静になろうとする声だった。あたいも悔しい、でも魔王をみているとまだまだ余裕を感じる。

「フフッ、では始めるか……もうダメージを無くす事は出来ないがな、クックックッ」

「アヴエロ」

「スオーロ……」

「オレは魔王を倒すためなら、アクアン老師のように命を掛けるぞ」

「スオーロ……まいりました、今度ばかりは、護るとは言えそうにない」

「お前が護るべきは、他にいる……いくぞ」

「うん、死ないで、ください!」

 アヴエロとスオーロはまるで互いが覚悟を確認するように話してた。

「アヴエロ!」

「ソレイル……まさか君も」

「……あたしも勇者アヴエロの仲間よ……」

「でも……」

 歩いてアヴエロの隣に立つソレイル。

「せめて貴方の隣で……戦わせて」

「ソレイル」

「これまでそうだった……でしょ?」

「……うん、すまないソレイル、頼む」

 ソレイルがアヴエロの隣ちょっと複雑、そうしたかったけどスオーロもソレイルもアクアン老師のように覚悟を感じる。死という覚悟を。


「ネモネア、あたしたちも」

「待ってモント……エメール」

「……師匠はいつも未熟だった私に言ってくれました『魔法で命を救えるこの地上に感謝するじゃ』と、当時はやかましいと思っていた……」

「エメール、今のあたいには良い言葉が見つからない……でも一緒に戦おう、戦ってせめて」

「はい……師匠の想いと死を、無駄にしないためにも」

 師を失ったエメールを戦わせるなんてよくないと思う。でも、たぶん彼は師匠の生まれたこの地上のためにも戦っただろう。モントもそれはわかってる。魔王は、あまくないけど……。


「はっはっはっ、どうした勇者? 敵をうってみろ」

「くっそーっ、ぐあぁぁぁっ」


 これじゃ、


「アヴエロッ、回復するぞ!」

「あたしが魔王と戦う、その隙に!」

「次は女騎士か、苦しむがいい」


 これじゃあ同じ事の繰り返し。


「姉さんっ!」

「モント・プリンセスッ、私もっ!」


 命をかけて戦うのは分かってる、いままでもそうだったから。でも、


「「うわっ!」」


 相手が圧倒的すぎる。もう、アクアン老師はいないんだよ。今度動けなくなったら、本当に終わりなんだ。


「惨めだな、女神に選ばれた勇者共はこんなにも弱く、仲間も死に……貴様等は素晴らしく惨めだ」

「お前さえいなければ……お前さえいなければ師匠は死なずにすんだんだぁぁぁっ!」

 涙にじむエメールの剣は弾れ、返り討ちに。

「くっくっくっ、力が無ければ叫ぶだけとは、自分の無力さを味わっているいい顔だ。女神も死に、時期に邪恐竜共に人々も食われて死ぬ、そして最後はお前たちを苦痛と絶望の中で殺してやる」


 魔王の言っていた通りに各国では、邪恐竜に邪恐獣が現れ迎え討つ兵たちもまるで葉が立たず城下町への侵入を許してしまっていた。

 そんなグランジウムで、

「町に化け物が、逃げるぞトリカッ」

「うん……キャアッ」

 邪恐竜が足を躓いたトリカに目をつけた。

「トリカァァァッ!」

「えやぁぁぁっ!」

 邪恐竜の顔に何が当たって倒れた。

「大丈夫? 同い年くらいの人」

「ハァ、ハァ……青い人、あなたは……」

「あたしは、龍騎士のミンシーだよん」


 ――ラナロース、

「みなさん逃げて」

「ロップッ、そろそろ僕たちも……うわっ」

 邪恐獣がスノーに目を付けて走ってきた。

「うわぁぁぁっ」

竜魔法ドラゴン・マジック、竜槍斬っ!」

「スノー!」
「ロップ!」

「あの、助けてくださってありがとうございました」

「私は竜騎士のサファエルです。今のうちに避難を」


 ――ラングネス、

「うっ……ラングネスは……護って見せる」

 目を覚ましたシスター・ヴィゴーレは邪恐竜と戦う兵士の元へ足を引きずりながら歩いていた。

「見つけたっ、シスター・ヴィゴーレ避難してください!」「そうですよヴィゴーレさん!」

「すいません……しまった!」

 邪恐竜が兵士を踏みつぶしにやってきた。

「グラパスはあのシスターをっ、オラオラーッ!」

「あいよっ!」

「あなた達……」

「あたしは獣騎士ビースト・ナイトグランメ、勇者アヴエロの仲間さっ」


 ――キングロビウ、

「ナニラ姐さん、やっぱこの化け物は無理っすよ!」

「ちいっ、骨の化け物が、だがキングロビウが無くなっちまったら盗む物もなくなる……なんだ?」

 飛び込んできた何者かの2人は邪恐獣をかく乱と攻撃を繰り返していく。

「2人の男、何者だてめぇーら」

「ガルッ……先輩、あいつら盗賊だ」

「ランドル、そのようだな……私はサンドラ、このツオーゴを虎神様の命令で守りに来た。勝手ながら倒させてもらう」


 ――そしてクリスロッサは、

「シスター!」

「ジュリッ、子どもたちを連れて避難しなさい!」

 ペンダントの封印を解き魔力を解放したシスター・カルタは、兵士と共に回復魔法を唱えていた。
 それでも邪恐竜の強さにはがたたずなぎ倒されていく兵士たち。

「うっ、魔力、が」

「シスター・カルタッ!」

「これまで、ね……」

「え……あれはいったい」

 間一髪でシスター・カルタは救われ、目を開くと竜の背中に。

「あ、あなたは……」

「ネモネアの言っていたみんなの母があなたね。私は竜騎士団ドラゴン・ナイツのアルビス」

 だがおかしな事に、なぜかあたいには観えたみんなの光景……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~

いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。 地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。 「――もう、草とだけ暮らせればいい」 絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。 やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる―― 「あなたの薬に、国を救ってほしい」 導かれるように再び王都へと向かうレイナ。 医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。 薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える―― これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...