βの花が開くまで(オメガバース)

赤牙

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29話:うなじのお守り

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 色んな問題をそっちのけで、アランと一日過ごし次の日を迎える。
 今日まで大学は休み。
 明日からはいつも通り大学に通わないといけないのだけれど、普段通りに登校していいのか悩む。
 僕の学部は知っている限り、ほとんどがベータの学生ばかり。
 もし、僕が不意にフェロモンを漏らしてしまっても、気付かれることはあまりないだろう。
 けれど、いつアルファに出会うかも分からないから注意はしておかなくちゃいけない。
 悩みながら、スマホで『オメガだと診断されたあとの注意点』を読んでいく。
 色んなサイトを見てまわったが、どのサイトも『うなじを守ること』が一番にあがっている。

ーーうなじ、か……

 自分が今まで気にしたことのない部位を指で触れると、ピクッと体が反応して背筋がゾワリとあわだつ。
 今までならなんてことなかったのに、自分で触れただけでこんな状態だと他人から……ましてや、アルファから触れられたらどうなっちゃうんだろう……
 リビングのソファーで膝を抱えそんなことを悩んでいふと、ふわっとした香りが鼻先をくすぐる。
 
「ケイ、どうしたの? 難しい顔をして」

 アランがひょこりと顔を出し覗き込んできて、僕のスマホをチラリ。
 内容を確認したのか、僕に優しく微笑みかけてくる。

「色々と心配になるよね」

 ぎゅっと抱き寄せられると、さっきまでの不安感が少し和らぐ。

「ネックガードは付けた方がいい、よね?」

 スマホの画面を見せ、オメガの人が映った画像を見せる。
 オメガの証とされるうなじを守るためのネックガード。
 それを見たアランは、なんだか嬉しそうな顔をして頷く。

「そうだね。ネックガードはちゃんとしたものを付けないといけないかな。安物だと引っ張られたりした時に、千切れちゃうこともあるから」
「そんなこともあるんだ……」

 千切れちゃうくらいに引っ張られることがあるの?と、想像してなんだか怖くなる。
 安物はダメなんだと頭に叩き込み、今度はネックガードを検索して値段を見ていくと、ギョッとする値段が並ぶ。
 最低の値段でも、諭吉さん一人。
 平均的には諭吉さんが仲良く三人手を繋いでいるくらいの値段だった。
 色々と機能もついてるのは、諭吉さん十人はくだらない。
 天井知らずの値段設定に、思わず口が半開きのままになる。

ーーた、高い……

 今の自分の貯金残高を思い浮かべ、諭吉さん三人がさよならすることを考えると胃が痛いが、自分の安全を守るため仕方のないことだと思い、通販サイトのカートにネックガードを入れて決済ボタンを押そうとしているとアランの手が止めに入ってくる。

「ケイ、そんなの買わなくていいよ」
「え? でも、ネックガードは付けないといけないんじゃ……」
「うん、付けないといけないけど。オレがもう買ってるのがあるから」
「えぇ!?」

 いつの間に?と、驚いた顔でアランを見上げれば、ふふッと得意げな顔をして「待ってて」と言われる。
 素直に待っていると、爽やかなパステルブルーの箱が目の前に。
 箱にはメーカーの名が印字されていて、その名前を見て思わず「ぇ……」と声を漏らしてしまう。
 田舎者の僕でも知っている超有名な高級ブランドの名前が印字された箱を目の前に手をわなわなと震わせていると、見かねたアランが僕の代わりに箱を開けてくれる。
 中には僕のうなじをすっぽりと隠すネックガードが入っていた。
 ネットで見たネックガードとはどこか違う洒落たデザインのシックな黒色のネックガード。
 見た目はお洒落が好きな人が付けているようなチョーカー にも見える。
 それをアランが手に取ると、僕の背後にまわり付けてくれる。
 ひんやりとした革生地が僕の首を包み込み、うなじが隠れるとなんだか安心してしまう。
 首を動かしてみるが、柔らかな生地が肌に密着している感じがして動いても気にならない。

「ケイ、どうかな? 違和感ない?」
「違和感なんてまったくないよ。サイズもピッタリ」

 首をぶんぶんと動かして付け心地の感想を伝えると、アランは嬉しそうに微笑む。

「よかった。ネックガードは、オメガの身を守ること以外に自分がオメガであることを周りに知らせる物でもあるから、ケイに渡すネックガードはなるべく目立たないものにしたんだ。この幅だと、シャツ系の服を着れば隠れるから」

 そんなことまで考えてくれていたのかと関心して、アランを見上げて「ありがとう」と感謝の言葉を伝えると、アランはニコニコしたままネックガードを付けた僕を色んな角度から見てくる。

「あ、どこか変?」
「ううん。とっても似合ってるよ。ケイの綺麗な黒髪や瞳の色にもあっててすごく素敵だよ。それに、オレがあげた物をケイが身に付けてくれたのがすごく嬉しいんだ」

 それからずっと見つめられて可愛いだの素敵だのとべた褒めしてくるアランにポンと頬が熱くなるのを感じるのだった。

 






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