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4章 言霊のカタチ
祓い屋
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二人が『何か』が変質したものと戦っている間にわたしのすることは無いに等しい。
手を出すわけにもいかないし、出したくもないというのが本音。
やっぱりホラーは苦手だし、多少は慣れてはきたけど、気持ちのいいものでない。
出来ることなら、わたしの知らないどこか遠くで起きててほしいことだ。
ジャリッと数珠のような音に、コゲツかと一瞬思って振り返る。
「へっ?」
ジャリリッと音を立ててわたしの体に長い数珠が巻き付けられ、そのはずみで手に持っていたカゴバッグが落ちて中から火車がコロンと丸まりながら出てきた。
「火車!? 大丈夫!?」
「フニャーォ」
珍しく火車の足から火がゆらりと出て、見えない階段を上るように空中を歩く。
とりあえず大丈夫そうだとホッと息を吐き、わたしは自分に巻きついた数珠を見た。
赤茶色の漆を塗ったような数珠。
球粒の大きさはコゲツの物より大きい。
「火車に、狼――いや、あれはなんの妖だ?」
「……っ! 誰!?」
赤毛のくせっ毛に丸サングラスに縞シャツと灰色のスラックス。
そして素足に下駄。
上着は肩に掛けているだけという風体の、主張しすぎる青年がいた。
ただし、背はわたしより低い。
わたしよりは年上の人だというのは分かるけど、こんなに目立つ人を守衛さんは見逃したのだろうか?
「お前は、何者だ? ……俺が知らない祓い屋、いや、それはないな」
「祓い屋……まさか」
まさかこの人はコゲツのような祓い屋や、本家の水島家のような術者だったり?
体に巻き付いた数珠を掴んで体から離す。
とりあえず、初対面の相手にいきなり拘束はないかな。うん。ましてやわたしは一般人なのだから、襲い掛かってくるなんて言語道断だ。
わたしは多少能力はあるようだけど、自分の意思ではどうする事も出来ないのだから一般人。普通の人。そう、わたしは普通の女子高生。
「お前、普通の人間じゃ無いな?」
普通の女子高生を気取った途端、相手からは普通の人間じゃない呼ばわりに、わたしは首を傾げそうになる。
「至って普通の、女子高生です!」
叫ぶしかあるまい。だって、コゲツやキョウさんにダイさん、千佳とは違って本当に戦力外なのだから。
わたしが大声を出したことでキョウさんとダイさんが気づいてわたしの方に駆け寄ってくれた。
「小僧! 我らが娘に何用だ!」
「我らの娘に近付くでない!」
「にゃぉぉぅ」
ガアッと吠えながら二人はわたしの前で威嚇し、火車が鳴きながら火を噴き出して境界線のように男性とわたしを近付かせないようにした。
男性は丸サングラスを指でずり上げると、数珠を自分の手に引き寄せようと手繰り寄せた。しかし数珠は彼の元へ届く前に空中でバラバラに弾け散ってしまう。
「チッ! やはり妙な依頼だと思ったんだよな。火車まで引き連れた奴なんて、こっちが手を出しにくいうえに、祓い道具も効かないなんて……本気を出すしかないな!」
彼は懐から白い何かを投げつけ、火車がそれを火を出して燃やす。
キョウさんとダイさんは左右に分かれて飛び掛かり、彼は上着で流れるように二人を交わして攻防を繰り返した。
しかし、祓い道具と言ったところから、やはりこの人はコゲツの同業者で間違いないだろう。依頼を受けているようだし、『何か』の処理はこの人に任せてわたし達は家に大人しく帰った方が良いような?
「ええい! この小僧、ちょこまかと小賢しい!」
「兄者! 本気で我らも迎え打つか?」
「ふしゃあぁぁぁ!」
「使役されている妖は相手にするのが面倒だな。『結縛』これで少しの間大人しくしていろ」
彼がケツバクというものを言葉にして指で空間に五芒星を描くと、淡白い五芒星が三人をひとまとめに地面へ貼り付けた。
わたしが三灯天神に乗り移られた千佳を地面に縛り付けたものと同じ術なのだろう。
「クソッ! ミカサ逃げろ!」
「貴様! 我らの娘に手を出したら、ただでは済まさんぞ!」
「ふにゃぁーご!」
どうしようと考えてもいい案が浮かばないわたしの額に白い紙がペシンと叩きつけられた。
長方形の紙で、コゲツが式や雷の術などを呼び出すのに使う呪符に似ている。
額から剥がしてまじまじと見れば、彼は目を見開く。
「あの祓い屋さん……で、いいんですよね?」
「あ、ああ……って! お前は、なんなんだ!」
彼に指をさされ怒鳴られると、私も眉尻を下げて言うしかない。
「ただの、女子高生……です?」
最後が疑問っぽくなってしまったのは、どうしようもないと思うの。
手を出すわけにもいかないし、出したくもないというのが本音。
やっぱりホラーは苦手だし、多少は慣れてはきたけど、気持ちのいいものでない。
出来ることなら、わたしの知らないどこか遠くで起きててほしいことだ。
ジャリッと数珠のような音に、コゲツかと一瞬思って振り返る。
「へっ?」
ジャリリッと音を立ててわたしの体に長い数珠が巻き付けられ、そのはずみで手に持っていたカゴバッグが落ちて中から火車がコロンと丸まりながら出てきた。
「火車!? 大丈夫!?」
「フニャーォ」
珍しく火車の足から火がゆらりと出て、見えない階段を上るように空中を歩く。
とりあえず大丈夫そうだとホッと息を吐き、わたしは自分に巻きついた数珠を見た。
赤茶色の漆を塗ったような数珠。
球粒の大きさはコゲツの物より大きい。
「火車に、狼――いや、あれはなんの妖だ?」
「……っ! 誰!?」
赤毛のくせっ毛に丸サングラスに縞シャツと灰色のスラックス。
そして素足に下駄。
上着は肩に掛けているだけという風体の、主張しすぎる青年がいた。
ただし、背はわたしより低い。
わたしよりは年上の人だというのは分かるけど、こんなに目立つ人を守衛さんは見逃したのだろうか?
「お前は、何者だ? ……俺が知らない祓い屋、いや、それはないな」
「祓い屋……まさか」
まさかこの人はコゲツのような祓い屋や、本家の水島家のような術者だったり?
体に巻き付いた数珠を掴んで体から離す。
とりあえず、初対面の相手にいきなり拘束はないかな。うん。ましてやわたしは一般人なのだから、襲い掛かってくるなんて言語道断だ。
わたしは多少能力はあるようだけど、自分の意思ではどうする事も出来ないのだから一般人。普通の人。そう、わたしは普通の女子高生。
「お前、普通の人間じゃ無いな?」
普通の女子高生を気取った途端、相手からは普通の人間じゃない呼ばわりに、わたしは首を傾げそうになる。
「至って普通の、女子高生です!」
叫ぶしかあるまい。だって、コゲツやキョウさんにダイさん、千佳とは違って本当に戦力外なのだから。
わたしが大声を出したことでキョウさんとダイさんが気づいてわたしの方に駆け寄ってくれた。
「小僧! 我らが娘に何用だ!」
「我らの娘に近付くでない!」
「にゃぉぉぅ」
ガアッと吠えながら二人はわたしの前で威嚇し、火車が鳴きながら火を噴き出して境界線のように男性とわたしを近付かせないようにした。
男性は丸サングラスを指でずり上げると、数珠を自分の手に引き寄せようと手繰り寄せた。しかし数珠は彼の元へ届く前に空中でバラバラに弾け散ってしまう。
「チッ! やはり妙な依頼だと思ったんだよな。火車まで引き連れた奴なんて、こっちが手を出しにくいうえに、祓い道具も効かないなんて……本気を出すしかないな!」
彼は懐から白い何かを投げつけ、火車がそれを火を出して燃やす。
キョウさんとダイさんは左右に分かれて飛び掛かり、彼は上着で流れるように二人を交わして攻防を繰り返した。
しかし、祓い道具と言ったところから、やはりこの人はコゲツの同業者で間違いないだろう。依頼を受けているようだし、『何か』の処理はこの人に任せてわたし達は家に大人しく帰った方が良いような?
「ええい! この小僧、ちょこまかと小賢しい!」
「兄者! 本気で我らも迎え打つか?」
「ふしゃあぁぁぁ!」
「使役されている妖は相手にするのが面倒だな。『結縛』これで少しの間大人しくしていろ」
彼がケツバクというものを言葉にして指で空間に五芒星を描くと、淡白い五芒星が三人をひとまとめに地面へ貼り付けた。
わたしが三灯天神に乗り移られた千佳を地面に縛り付けたものと同じ術なのだろう。
「クソッ! ミカサ逃げろ!」
「貴様! 我らの娘に手を出したら、ただでは済まさんぞ!」
「ふにゃぁーご!」
どうしようと考えてもいい案が浮かばないわたしの額に白い紙がペシンと叩きつけられた。
長方形の紙で、コゲツが式や雷の術などを呼び出すのに使う呪符に似ている。
額から剥がしてまじまじと見れば、彼は目を見開く。
「あの祓い屋さん……で、いいんですよね?」
「あ、ああ……って! お前は、なんなんだ!」
彼に指をさされ怒鳴られると、私も眉尻を下げて言うしかない。
「ただの、女子高生……です?」
最後が疑問っぽくなってしまったのは、どうしようもないと思うの。
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