あなたの嫉妬なんて知らない

abang

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第三話 悪女

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執務の関係で皇宮に来ていたダリアは偶然カルミアと顔を合わせてしまった。

目下の者から声をかけてはいけないマナーがある限り、ダリアから声を掛けなければ関わる必要はないだろうと通り過ぎようとした時に耳元に聞こえたのは聞き紛う事ないカルミアの声だった。



「公女様は、退屈な人ですね」



嘲笑うように言ったカルミアを振り返ったダリアにこれ見よがしに独り言のように「近頃眠れていないから、疲れたわぁ~」と呟きながら歩いて行った彼女が眠れていないのは執務によって持ち帰った仕事の為だったが、あえてそれは言わなかった。



「そう、アスターはそのような女性が好みだったのね。私も自由に恋愛を楽しむ事とします」



そう言って挑戦的に微笑んだダリアはカルミアの目から見ても美しく、魅力的だったが彼女にはない狡猾さがカルミアにはあった。



(貴族令嬢にしては直線的なのよねダリア様って)



「ダリアは、何をしているんだ」


「先程、皇宮を出られましたよ」


「何故会いに来ない」


「アスター様、ダリア様も執務でお忙しいのでしょう」


「……ダリアに手紙を出す」


けれどもダリアからアスターに返事がくる事は無かった。


アスターは数日もの間、考え混んでいたが舞い込む執務の量は彼を解放してはくれなかった。


(本当に別れたつもりか、ダリア)



「陛下、集中なさいませ」


「あぁ……すまない」


頭の中ではずっとダリアの事が気になっていたが、元はと言えばダリアが子息達に隙を見せた所為だとアスターは彼女が折れるまで謝るつもりは無かった。

(尻軽だと言ったのはカッとなって言い過ぎたが……)



それでも世間の噂とダリアが気になるアスターは彼女に見張りをつけた。



「ダリア様が来日中のシルイドの王子とお茶をしている様子です」


「シルイドの王子だと?」


「はい。破局の噂を聞きつけダリア様に会いに来たのかと……」


「執事長、すぐに人を送って王子を迎えに上がれ、他国からの皇宮で世話をすると言って人をつけろ。ダリアに会わせるな」


「ですが……」


「皇帝からの命だと言えば断れん筈だ」


「かしこまりました」


「ただいま戻りました。……何かございましたか?」


「秘書官、なんでもない職務に戻れ」


「アスター様がお疲れかと思って、お茶を頼んでおきましたよ」


「そうか、気が利くな」


「アスター様の事ならなんだってわかりますわ」


「……そうか」


(大抵の男ならもう落ちてるのに、ほんと鈍いんだから)



暫くすると使用人が執事長に耳打ちで何かを伝えたあと、


「シルイドの王子殿下を皇宮にお連れしました」とアスターに伝えられた。



(シルイド……ダリア様を狙っていると専ら噂の第二王子ね何故……)


「そういえば、ダリア様と先日お会いしましたわ」


「ダリアは何か言っていたか!?」


「恋愛を自由に楽しむことにすると……仰っていました」



「!!」



「ダリア様はもう、アスター様を想ってはいない様子でした……」


「秘書官様、真ですか?」



「ええ執事長……確かに聞きました」


「今日はもう帰れ。俺はダリアと話す」


「ですが……ダリア様はご予定があるそうですよ」


「予定だと?」



「シルイドの第二王子殿下と食事を共にされるとか……」


「場所を突き止めろ、執事長」



「秘書官はそこに迎えを送るように、ダリアを連れてこい」





けれど、カルミアが命令どおりに連れてきたのはダリアだけでは無かった。






「すみません陛下、わざわざ迎えを下さって」

「王子、気になさらないで下さい」



「よく来たな、

「……乗せて下さるとは光栄ですわ陛下」





(関係のない……?ほう、噂は本当だったのか)


「失礼でしたね、婚約するお二人の間に割り込んだようです」


「いいえ、ルイ王子。陛下とはもう何の関係もありませんのでお気になさらないで下さい」


「ダリア……!」


「失礼しますアスター様、今晩は(食事は)どうなさいますか?」


「「「 ……」」」


「あぁ君に任せる」


「まぁ!お客様がいらしていたのに……私とした事が申し訳ありません」


何故か恥じらうように部屋を慌てて出たカルミアを特に気にも留めないアスターと、何らか誤解が生じた様子の王子とダリア。


執事長は態なのか、偶々なのか微妙な言い回しとタイミングに悩んだ末にあえて「食事の話です」と付け加えたが、かえってそれがワザとらしく感じてしまうほど巧妙なカルミアの手口だった。




「あ……ははは、ダリア嬢の話は本当のようですね」

「そのようですわ殿下、近頃陛下は



「忙しいが、何故それが関係ある」

「陛下……!」

「執事長は王子を部屋に案内しろ」

「ですが……」


「ダリアは残って……」


「失礼しますわ、殿下。生憎私も忙しいの。楽しかったですルイ殿下」


そう言って笑顔で部屋を出るダリアにすっかり恋をしたのだろう。


頬を染めてダリアを見つめるルイの瞳は彼女を渇望していた。





「私も、楽しかったです……ダリア嬢」


幼い頃から初めて見る、ダリアのそんな様子に酷くショックを受けたアスターは暫くその場を動く事が出来なかった。



(カルミアの言う通りだったのか……!?)





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