悪役皇女は二度目の人生死にたくない〜義弟と婚約者にはもう放っておいて欲しい〜

abang

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カシージャスの国王と契約婚約者

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「シエラ、準備はいいか?」


リュカエルの声が聞こえると、シエラの表情が少しだけ和らいだのがわかったリンゼイもまた少しだけ微笑んだ。



「シエラ様、これで最後ですよ」


リュカエルから贈られた指輪を薬指に飾るとタイトな黒のロングドレスがよく似合う美しく艶やかなシエラがいつもより少しだけ早足で扉を開けてリュカエルを迎え入れた。


「リュカ、準備はばっちりよ」


色っぽく巻かれた髪を緩くアップにしたシエラの白い背中が黒のドレスによく映えており、黒に赤い靴底のハイヒールはもうシエラにすっかりとは着こなされており揃いの正装姿のリュカエルもまた黒で統一された締まりのある装いに裏地が赤いコートは片方だけが袖を通されている。


お互いに見惚れてしまっていると、リュカエルの側近であるセイルが遠慮がちに咳払いした。


「あっ、ごめんなさい。リュカがあまりによく似合っていたから驚いて……」


「見惚れたの間違いじゃなくてか?」



「……っそれを言うなら。貴方もでしょうリュカ」


「ああ、俺の婚約者はこんなにも麗しいのかと見惚れていたんだ」


「揶揄わないで頂戴……」


(本気だが……まぁまだいい)


「すまんな、さぁ行こうシエラ」


「ええ……契約どおりきちんと役割は果たすわ」



リュカエルがシエラの助けになる際に契約した条件はたったの三つだった。




一つめは「俺の味方でいてくれ」


二つめは「婚約者として俺の側で役目を果たして欲しい」


三つめは「ありのままの君で幸せに過ごしてくれ」だった。




三つめの条件に「きっと俺がそうする」と付け加えた自信満々のリュカエルがシエラに出した条件はむしろただのお願い事程度のもので、最後に至ってはシエラの幸せを願ってくれていた。


「それなら私はきっと、リュカをどの皇帝よりも幸せな皇帝にしてみせるわ」


と真剣に言ったシエラに「もう幸せだよ」と笑ったリュカに感じた切ないような甘く痺れるような感覚はなのかなのか、それを知るにはシエラはまだ恋に疎く、初心すぎるのだが


それでもリュカエルは満足しているようだった。

けれども、リンゼイは「契約通り」というシエラの言葉にピクリと眉を少しだけ動かしたリュカエルを見逃さなかった。


「シエラ様、こういう時はお立場を離れて素直に伝えるのが良いのですよ」


声を顰めて言ったつもりだったリンゼイの言葉にシエラよりも先に頷くリュカエルを見てから少しだけかんがえるような仕草をしてから、おずおずとチェリーのように水々しい唇を少し開くと言葉を紡いだ。



「……あなたが傍に居てくれてとても幸せよ。隣に立ててとても光栄だわ」



「ふふっ」

(シエラ様ったらまだ恋心に気付いていないのね)



誰がどう見てもお互いに惹かれ合っているというのにもどかしい二人の、いつもの凛々しい雰囲気とは違う一面を見て初めこそ驚いたが、リンゼイやミンリィよりも遥かに驚いたのは、リュカエルの側にいつも居るセイルだった。



「……」

(陛下は一体どうされたんだ……あれは本当に本人なのか?)


カシージャスの貴族達の知るリュカエルは誰も近寄せない孤高さと絶対的な恐怖と、強さ。

そして美しい顔を台無しにする顰めっ面か、冷ややかな無表情の二通りしかない働かない表情筋ばかりで私生活はシンプルかつ皇帝として完璧な振る舞いのリュカエルはそれ故厳しく、残酷だ。


ほんの少しとはいえ、扉の前で待たされても殺気を放たなかったし、

ふわりと微笑んだり、シエラの一言に僅かだが表情筋を働かせて少年のように拗ねるリュカエルを目の当たりにしセイルは逆に不気味で怖かった。



努めて表情に出さないようにしているが、リンゼイにとっては寧ろそれすらも可笑しく感じていた。


(ここにきてからシエラ様はよく笑うようになられたし……)




「あっ、リュカっ」



そう考えているとまだ少し拗ねた様子のリュカエルがシエラを引き寄せて、言った。


「俺は、皇帝としてではなくただ、シエラといられる事が幸せだ」


リンゼイや、セイルを見渡して恥ずかしそうに抵抗していたシエラはピタリと動きを止めてキョトンとした表情でリュカエルに言う。


「どうして眉を顰めるの?そんなの私だって同じよ?」


「別に顰めてなんか……」


「リュカだから嬉しい。リュカだから傍に居たいわ」


「「・・・!!!」」

「……何故だ?」



「分からないわ、けれど貴方を幸せにしたいと思うの。親友だからかしら?」



「「えっ」」


「なにかしら、二人とも?」



「「いえ、何も……」」


クツクツと笑うリュカエルはもう眉を顰めてはおらず、シエラを引き寄せたまま肩に顎を乗せて「あーまぁいいさ」と愛おしそうに言った。



そんないつもと違いすぎるリュカエルの様子に、今度はセイルが表情を青白くしながら眉を顰めたのを見て、リンゼイは小声で伝えた。






「表情が隠せていませんよ、セイル様」



「なんだ、お前にも表情がちゃんとあったのかセイル」






そう言って全く表情を動かさずに「行くぞ」とシエラをエスコートして歩いて行くリュカエルの背中に内心で(あなたこそ)悪態を吐くセイルはやっぱり一番可笑しいとリンゼイは耐えきれずに笑った。






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