悪役皇女は二度目の人生死にたくない〜義弟と婚約者にはもう放っておいて欲しい〜

abang

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何一つ手に入らずに

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メリーの処刑はすぐに決まった。

ジェレミアはと言わんばかりにメリーの刑の執行までの処理が早く、まるでこの日を準備していたかのようだった。


「この者を、断首刑とする」


ジェレミアのその一言で静まり返る法廷。


顔に深い傷を負ったメリーの姿は痛々しかったが、読み上げられた罪状の所為か何故か同情の声は皆無だった。



意気消沈したメリーの様子に涙を流すのは両親と侍女だけにも関わらず、辛うじて個人的な犯行だという証拠付けがはっきりとしていた為に家門だけでも助かった実家すら、メリーは最後まで一言も気遣わなかった。





「何か、言っておくことはない?」


ジェレミアにはそのような感情は無かったが、一応メリーの両親を気遣っての言葉だった。

最期に両親に向ける言葉くらいはあるだろうと……




けれどもメリーの口から出た言葉は、最期には相応しいものとは言えなかった。




「最期……?シエラ、あんたが憎い。あんたの所為で私は死ぬのよ、一生覚えてなさい、あんたがズタボロにしたこの私の姿を」





「……」

「戯言だ」


ただメリーを見つめたシエラの心情を察してか、シエラを抱きしめるようにして言ったリュカエルの姿を見てまたメリーは一層シエラが憎かった。


自分はこのような姿で、シエラにはあんなにもいい男が隣居る。


愛してやまないリヒトの瞳は今もシエラを心配そうに見つめていて、そんなリヒトの隣には別の女が婚約者として座っていた。



射殺すような視線を感じてハッと顔を上げたメリーは、急に実感した。


ぶるぶると震える身体は止まらない。


あの青い瞳が見下ろしていた。


愛した男が、誰もが羨む男が愛してやまないシエラを、狂おしいほどに愛するシエラの弟だった。


「……全部、この人だったのね」


まんまと嵌められたのだと気付く。


「何か言った?震えてるね……」


皇座を降りて近づくジェレミアが怖くて、怖くて仕方が無かった。



シエラの背後でずっとこの男が自分を睨んでいたのだと何故気付かずにシエラを執拗に狙い続けた自分が愚かに思えた。


(完璧とはいえないけれど、固い護り、歪んだ愛情、狂ってる……!)



「あんたが、死ねば良かったのに!!」



そう叫んだメリーの声が響く、ジェレミアの笑い声がそれをかき消すように響いたが彼の青い目は決っして笑ってはいない。




けれども、愉快だと雰囲気が語っていた。


怒りをも感じるその姿はチグハグで不気味だった。



「ち、近寄らないで……」


「僕が、君に興味あるわけないだろう?ほんと期待を裏切らないな……」


「へ?」


「面白いが、これでサヨナラだ」


そう言って剣を抜いたジェレミアを無表情でみるリュカエル。

彼もまた王として時に残酷な手段を取ることもある。



いい見せしめになるだろう。そう思う反面ジェレミアの狂気を危険だとも感じた。


けれどそれはシエラへの、姉への愛からだと知っていた。


この瞬間、どのような想いなのかは曖昧だったがそれでもジェレミアは今、弟としてシエラに家族としての愛を向けている。


弟として、リュカエルにシエラに純粋に家族を求めている。


だからこそ彼の行動に少しでも彼の正義があるならば、リュカエルは彼を咎めないでおきたかった。


「どの道、あのような無礼者はいつか俺が斬ってたな」


「リュカ……っ」


「冗談という事にしておく、だがジェレミアは今愛する者を傷つけたらどうなるか見せしめたんだ」


「……」



「お前は、加えて皇帝を侮辱したという罪で。僕直々にだ」



「ひっ!」


「良かったね」と、何が良かったのかは分からないが愛らしく笑ったジェレミアをリヒトとミリアーヌは青い顔で見ていた。




「見ていられない者は目を閉じておきな」



そう言って鳴った音が思ったよりも静かで彼の剣の腕がいい事を証明した。


そう、冷静に考えているリヒトは自分が思ったよりもメリーに愛情を持っていなかったことに気づく。


(何の為に、シエラ皇女を蔑ろに……)



ただ、無くした家族に縋っていたのだろう。

家族の大切にした者を大切にしたかったのだ。


メリーに対しての情など、その程度だった。





余計に、リュカエルに支えられて涙を流すシエラを抱きしめるのが自分ではない事に後悔の念が湧いた。



「私の為にジェレミーの皇座を血に染めてしまったわ……ごめんなさい」


「シエラ……義弟君は涙を望んでいない。俺には分かるんだ」



「姉様、泣かせてごめんね」


口元だけを動かしてシエラに向けて言ったジェレミアの表情が、あまりにも頼りなくて、返り血がアンバランスだった。



けれどそんな皇帝を、彼らは恐れながらも愛おしく感じた。



家族を守る為に、正しい方法などないのだから。


ほんの一瞬だけ、彼が年相応の青年に見えた。







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