八年間の恋を捨てて結婚します

abang

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幸せな新婚生活?

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「お迎えにあがりました男爵」そう礼儀正しく言った騎士に悪い気はしなかったアルベルトは沈む気持ちのまま促されるままに馬車に乗った。


数日もすればウィクトル公子の婚約者が有能で、社交界でも宝だと持て囃されているほどの美貌の持ち主だとアルベルト達の耳にも届いたが、もうそれをその目で確認する術はなく彼らはブリーズ領の岩と氷山に囲まれた要塞のような領地へと運ばれていた。



「そうだったんですね……」

「あまりにも荒れた地を前領主が長年放置したおかげであの土地には現段階で民が住める状況じゃないと陛下は判断したんだ」



王家より相談を受けたウィクトル大公家ら元々もう多くは残っていなかった領民を説得し、移住を支援し領地の立地を生かした運営を提案していた。


「監獄とは、確かにまるで自然の要塞だものね」


「ああ、だから表向き二人はのようなもので陛下から雇われた領主のような扱いなんだ」



利益など考える必要もなく、逃げ出すには難関な土地。

まるでアルベルトとメーデアさえも収監されたようなものだった。

「あっそういえば……」

「テンタシオン、ルージュをそろそろ返して頂戴」

「大公妃殿下っ」

「やだ、ルージュ。お母様と呼んで」


娘が出来たことが嬉しいのか大公夫人ことテンタシオンの母は放っておくとすぐに仕事の虫になるルージュをお茶や買い物に連れ出している。


ルージュもそれに心地良さを感じつつ嬉しく思っている。
ひとつ困ったことがあるとすれば、よく似た笑顔でルージュを取り合うテンタシオンと彼の母はこうなると手が付けられないことだ。


「はい、お義母様」

「うんうん、じゃあルージュは返して貰うわねテンタシオン」

「はい、差し上げます母上」

「ええ、じゃあ返してもらうわ。行きましょうルージュ」

「夕刻には下さいね母上」


どちらが買い物の小切手の名義人になるか、どちらが貸して、返すのか、どちらの贈り物が似合ってるか……


けれどもそう言ったやり取りさえも嬉しくて、ルージュは思わず笑みが溢れた。

「ふふ……っ」

「「??」」

「ありがとうございます。とても幸せです」


ルージュがそんな穏やかな日々を暮らす一方で、アルベルト達はブリーズ領の邸の寒さと静けさに驚いていた。


その中で仕方なく始めた執務の中でアルベルトはとある事に気づき、王室によって審査され選ばれたという筆頭執事のマルゴに尋ねた。


「ここの所有はまだ王室になっているのか?」

「はい。当主様が正式に所有する為には資金が足りませんので、現段階では王宮に雇われた領主という事になります」


領地は自分のものにならない、領地から許可なく出る事も許されない。利益という利益も無くマルグリス侯爵だった頃とは比べものにならない程質素な生活を強いられている。


アルベルトばギリギリと奥歯を噛み締めてペンが折れるほど強く握った。

「寒いから身体に良くない」とメーデアはこの地では貴重な薪をふんだんに使った部屋から出てこない始末だ。

そして、アルベルトに突きつけられた事実はそれだけでは無かった。

「監獄……だって?」

「この地は領民にとってあまりに過酷ですので、死刑囚や終身刑、重罪を犯した者達を収容する監獄の運営をすると陛下が決定されました」


「俺にそんな卑しい仕事をしろと言うのか!?」


「では、どうやって爵位を維持し子を育てるのですか?」


あまりにも傲慢な執事にアルベルトは煙草を投げつけて「何様のつもりだ」と怒鳴りつけた。

けれど彼は静かに「陛下から命を受け参りました。マルゴ・シラズンです。爵位は子爵位ですが」そう言って微笑んだ。



「宜しくお願い致します。ブリーズ

彼がアルベルトに仕える為に来たのではなく、あくまで見張りなのだと理解するとアルベルトは途端に孤独に震えた。


「メーデアは?メーデアに会いに行く!」

「部屋におりますが、今はやめた方が……」


アルベルトはマルゴの薄ら笑いをこれ以上見ていたくないのもあって、メーデアの部屋へと早足で向かった。

あまりにも必死で扉を開くまで、メーデアの吐息が聞こえ無かった。


「んんっ……えっ!アル様!?」


顔だけは一級品だが、どう見ても使用人ともいえない風貌。
一応入浴でもしたのか部屋には香油の香りと湿っぽさが残っていて、なによりも鍛えられた身体に組み敷かれている自分の子を宿している筈のメーデア。



「何をしているんだ!?」

「えっと、これは違うの!寂しくて……っ!」

「旦那、丁度いい。見てなこの女とんだ淫乱だぜ」


抵抗するメーデアを抑え付け、見せつけるように品性など感じない笑い方で笑う顔だけが美しい男はきっとこの地の囚人だろう。


何故なら、この地に住まう者は王宮から支給された騎士と、数名の使用人しか存在しないのだから。


仮にも夫に見られていると言うのに、メーデアは恍惚な表情で果てた。アルベルトはそんな彼女を見て絶望した。


そう、ここへ来る前に二人は婚姻を済ませていた。

子が出来た事もありそれが唯一、マルグリス侯爵家から僅かな支援を受ける条件だったからだ。

「メーデア、貴様!!!」

「アル様ぁ貴方も来て下さいな」

まるで淫らな妖怪のように見える妻を見てアルベルトは涙が溢れた。

「ふぅ……っ、ルージュっすまなかった!どうして俺はこんな……っ」














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