八年間の恋を捨てて結婚します

abang

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ウィクトル大公領

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一通りの報告を聞いたテンタシオンとルージュは頭を抱えた。
まだブリーズ領へ行ってすぐだというのにも関わらず、あまりの状況の悪さに呆れてしまった。


けれど元々拠点をウィクトル大公領としているウィクトル家は社交シーズンが落ち着いてくる頃には一足早く領地へ戻る為、テンタシオンとルージュも時期に王都を発つ予定だった。

彼らの事ばかりに気を取られていられない。

ルージュはとうとうウィクトル大公妃として新しい一歩を踏み出すこととなるのだ。



「きっと皆がルージュを歓迎するよ」

「そうだと嬉しいわ」


和やかな雰囲気にルージュは幸せを噛み締めつつも、他の者と一度婚約を解消した令嬢が大公やテンタシオンを慕う者たちに受け入れて貰えるのかの不安を抱えていた。



けれど、そんな心配など杞憂だったかのように、ウィクトル大公領に到着したルージュは皆から歓迎と祝福の言葉を贈られ、温かい笑顔を向けられた。


「テンタシオンお兄様っ!!」


パタパタと駆けてくるルージュ達より幾つか歳下に見える女性は、どう見ても彼に似ていない。
妹が居ると言う話は聞いた事がないので親戚の子だろうか?


ルージュは城に入るなり駆けてきた彼女にとりあえず、いつも通り丁寧に挨拶をした。



「初めまして、ルージュ・アザールです。どうぞ宜しくお願いね」

「……。お兄様、こちらの方が婚約者様ですか?」


(あれ、一瞬だけ表情が……。気のせいかしら?)


「イリア、きちんと挨拶するんだ。彼女は僕の妻になる人だよ」

「……、イリア・シューデンです」


やはり、勘違いではない。

睨みつけるような目と、尖らせた唇。
テンタシオンに話す時よりも低くて小さな声。

何よりもテンタシオンが偶々ルージュを振り返ったせいで空を切ったイリアの手は彼の手を握ろうとしていた。


「イリアは乳母の娘で、ここで住み込みのメイドをしているんだ」

「テンタシオンお兄様には頂いております」

「ははっ、妹のようなものだね。




イリアのそれは恋心だろうか?
やけに含みのある物言いにルージュの中で漠然とした不安が過ぎるが、テンタシオンの「妹のようだ」といいながらも立場を突きつけて突き放す言葉の冷たさに驚いて思わず彼を見た。


「ん?どうかした?」

「いいえ」

ふわりと微笑むテンタシオンの手は「こうするのが当たり前だ」と言わんばかりにルージュを強く引き寄せている。

一瞬でも不安に思ったことが申し訳なくなるほどにテンタシオンはルージュへの一途な思いを行動で示してくれていた。


それでもイリアはルージュを歓迎していない様子だったが、勿論ルージュは初めから全員に認めてもらえるだなんて傲慢なことを考えてはいない。


努めて柔かい笑顔で「宜しくね」と再度挨拶を交わした。


イリアは物言いたげにテンタシオンを不服な表情で見上げただけだったが、すぐに彼女を追ってきた乳母のマーシャに叱られて部屋へ戻されてしまった。



「すまないねルージュ。こちらが乳母のマーシャだよ」

「ご挨拶致します。乳母のマーシャ・サフレンでございます」

「ルージュ・アザールよ。どうぞ宜しくお願いしますね」


恰幅が良く背の小さなマーシャは人の良い笑顔を見せイリアの失礼を詫びた後「あの子はまだ幼くて恥ずかしい限りです」と困ったように呟いた。

ルージュが「気にしていませんよ」とマーシャに柔らかく答えるとテンタシオンもまた困った顔で頬をかいた。


「すまない、年頃の女性は気難しいな」

「そんなものよ。みんな親切でとても安心したわ」

「マーシャには留守の間、侍女やメイド達を任せている。その他にも数名に留守の間の管理を任せている者が居るんだ。後でちゃんと紹介するよ」

「ええ、会うのが楽しみだわ!」


マーシャはルージュの物腰の柔らかさや、周囲の空気を読みとるのが上手な所に感銘を受けた。

自分の娘とあまり歳の変わらないルージュがどうやってこのような落ち着きと聡さを手に入れたのか知りたいとも思っていた。


「ルージュ様、何かご不便があればすぐに仰って下さいね」

「はい。ありがとう、マーシャさん」

「まぁ!マーシャとお呼び下さいな!」

「えぇ……、改めて宜しくねマーシャ」

少し照れた様子で嬉しそうに言い直したルージュから垣間見えた年相応の愛らしさに城のメイド達は「まぁお可愛らしい方!」と声を上げ、従者達は頬を染めて「愛らしい方だ」と噂した。


それを見たテンタシオンがムッとした表情で隠すようにルージュを抱きしめて「僕たちは次の予定があるので皆持ち場へ戻ってくれ」と指示すると使用人達はまた「珍しい!」「公子様もお可愛らしい」と盛り上がるばかりでとうとうほんの少し耳を染めたテンタシオンが諦めたように溜息をついたのを見てルージュは笑った。


「僕の嫉妬なんてお見通しなんだよ皆」

「ふふ、仲が良いのね」

「ああ。みんないい人達だよ」

そうは言いながらも、テキパキと持ち場へ戻って行った使用人達を尻目に二人は仲睦まじく予定をこなす為にウィクトル城の大きな正面階段を登った。

まるで王宮のような美しい階段、調度品だけでなくそもそもの造りが芸術的なウィクトル城にルージュは感動しながらも彼の婚約者としてここで過ごすのだと実感して気を引き締めた。







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