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焦らずともちゃんと
しおりを挟む彼女が「セントリック」という男性に会うと知り、こっそり付いてきたがその男性が元婚約者の侯爵邸の執事長だったことに安堵した。
そのうえかなり年配の紳士で、良くないと思いつつも心配も相まって聞き耳を立てている内にまだルージュが幼いと言えるだろう頃から仕え、元婚約者の愚行を恥じた上で彼女を心から心配していることがよく伝わった。
「盾、か……」
ふと無意識に笑みが溢れた。
一見不躾な言い方だが彼女と心を通わせるきっかけが欲しい自分と、鈍感でそんな事でもないと頼ってくれないだろうルージュとのどちらもの背中を押す言葉だと思った。
セントリックがルージュごしにこちらを見ながら言った『出来ることならそれが、本物の愛であればいいのですが』という言葉が自分に向けられたものなのだとすぐに気付いた。
もちろん、ルージュを幸せにするつもりだ。
思わず彼とすれ違う時、まるで決意表明のように慌てて声をかけた。
「安心してくれ、必ず幸せにする」
なぜ彼にそれを伝えたのかは自分でもわからない。
けれどルージュを大切にして、彼女を心から想ってくれる人がいるということが嬉しくて心の底から彼女の幸せを願ってやまないのだと瞳で訴えかけてくるセントリックに応えたくなったのかもしれない。
セントリックを見送って「もう少し居るわ」と一人残ったルージュの背中を見守る。
今まで溜まった何かを吐き出すように少し長めの溜息を吐いたあと少し自分を責めるような表情をしたルージュはきっとセントリックが話したかった何かについて考えているのだろう。
今日は声をかけるのはやめよう。
明日の朝にはガーベラの花束を贈ろう。
「あそこの席の女性の分もお願いします」
「あっはい……!」
「お代は先程の紳士が払ったことに」
アルベルトはきっと、ルージュを失った途端に彼女の輝きに気が付くのだろう。
そうなったとてもうルージュをあのような苦しい場所に返してなどやるものか。
それでもルージュに強引に好きになって貰おうだなんて傲慢なことは考えていない。
気の合う友人でも、母親の友人の息子でも、親切な他人でもなんだっていいからこうしてルージュの近くに居たい。
テンタシオンは改めてルージュに恋をしているのだと自覚し、その気持ちが心地良かった。
認めてしまえば覚悟なんて簡単に決まるもので、やるべきことが次々に頭に浮かんでは整頓される。
「マルグリス家について更に詳しく調べてくれ」
「テンタシオン様、あの秘書については……」
「詳しく頼む。ルージュに害がないように動向を見張って欲しい」
こんなことを命じれば、帰るなり父と母のニヤけ顔が待っているだろうが、そんな気恥ずかしさよりもルージュのことが心配だ。
明日、また偶然を装って会えば花束について困り顔で礼を伝えてくるだろうルージュの不器用な表情を想像して胸がきゅっと締まった。
邸に着くと案の定、ニヤケ顔でわざわざ出迎えた両親を見て浅く息を吐いた。
こんなことは初めてだ。
こんな気持ちは初めてだが……
今を逃してはならないと感じる。
弱味につけこむようなことになるかもしれない。
そうなることすら叶わないかもしれない。
けれど全力で、これから起きるどんな事にも一緒に立ち向かう君の味方なのだとルージュに伝えたくて仕方がない。
なにも見返りなんて求めやしないから君がもう少し表情を緩めて社交界を渡る事が出来ればいいなと思うんだ。
女性に興味など持つことは無かった。
けれどルージュ、君には惹かれてしまうんだ。
そんな息子に全てお見通しだとでも言いたげな二人に真っ直ぐと向き合ってゆっくりと伝える。
「父上、母上……私はーーー」
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