八年間の恋を捨てて結婚します

abang

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情熱と希望、前進

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赤いガーベラの花束が届いた。

ルージュは自らの髪よりも遥かに鮮やかな赤いガーベラに見惚れてしまった所為か身支度をしてくれているメイドのサンの言葉をつい聞き逃してしまい、聞き返した。



「ええと、どなたからだったかしら?」

「ウィクトル公子様です、お嬢様」

「そう……」


何故だか余計に心が温かくなった。

テンタシオンから贈られたことと、花言葉を知っていることが原因だった。ルージュはそっとガーベラに触れてふわりと笑うと、それに見惚れるサンに「大切に飾っておいて頂戴」と優しい声で言った。


近頃はルージュの哀しげな表情ばかり見ていた所為かサンは久々に見る彼女のありのままの笑顔にほんの少し目頭が熱くなった。


この邸でルージュを雑に扱うアルベルトを良く思っている者など居ない。それでも献身的にアルベルトを支えながら伯爵家の仕事を熟すルージュを皆、何かしらの形で支えたいと思っていた。


彼女の両親もまた、婚約者となってから徐々に変わってしまったアルベルトに失望しながらも様々な気持ちと葛藤してきただろう。


だからこそ、ウィクトル大公家がこのタイミングで首都ヘ戻ったことがとても幸運だったのではないかとサンは思っている。


特にルージュの母親はアルベルトとの決別に安堵していたし、貴族にとって愛人関係や、政略結婚が当たり前だといえど娘にはやはり愛し愛される人と幸せになって欲しいのだとよく言っていたからだ。


そういった家族の想いや、邸の者達の気持ちを感じ取っていたルージュはいつも居処の悪そうな表情だった。
大好きなルージュの輝くような笑顔にもう二度と陰を落として欲しくない。そんな一心でウィクトル公子、テンタシオンと上手く行くことを心から願っていた。



「きっと、お優しい方なのですね」

「ええ、公子様はとても素晴らしい方だわ」


今頃、まだだらしなく素っ裸でメーデアと朝を迎えているだろうアルベルトを思い出したルージュはうっかり元婚約者と知人を比較してしまった事に「失礼なことをしたわ」と律儀に内心で両方に謝罪をした。


勿論、テンタシオンにはアルベルトなんかと比較してしまったことへの謝罪も入っている。


アルベルトに対しては口には出さずとも人として自らが無礼なことをしたというだけの単純な謝罪だ。


テンタシオンが元気づけてくれている所為か、とても穏やかで気分が良いルージュは食堂で父と母がいつもよりも機嫌がいい事に気づかなかった。


「ねぇ、ルージュ」

「はい?」

「お母様からのお使い、お願いできる?」


宛先は「ウィクトル大公邸」であまりにも重なる偶然に驚きながらも頭の中でスケジュールを整理してから頷いた。



「ええ、ちょうど私も用事があったので」


何故だかどことなく嬉しそうな両親を特に気にすることもないルージュは何となく食事をする手が早くなっている自分を落ち着かせようと短く息を吐いた。


「まぁ、急いで食べて。楽しみなのね?」


母の言葉に驚いて「まさか」と首を傾げるルージュに父はこほんと咳払いをした後に、「テンタシオン公子はいい男だぞ」と独り言のように言った。


「ふふ、公子様に失礼よ。私はもう札付きですもの」


そう言ってなんでもない事のように笑うルージュに、彼女の両親は胸が痛むと同時にアルベルトへの怒りを感じた。

けれど、はたまた同時にウィクトル大公夫妻から正式にルージュの意思が得れた際にはテンタシオンとの婚約を許して欲しいという手紙を思い出してなんだかくすぐったい気分にもなった。


どうやら、あれほど女性への関心がなかったテンタシオンが大公夫妻に自ら「私は、ルージュが好きです」とまるでただの青年のように伝えたらしく、彼女の心を射止める事ができたら婚約を認めて欲しいとまで言ったそうだ。


何でも器用に熟すと思っていたテンタシオンの意外な一面にも、相変わらず鈍感な自分達の娘にもなんだかほっこりした気分になってしまった。


「まぁそう言わず、知ってみなさい」

「お父様ったら……」


困った表情ながらも「でも、よき友人にはなれそうです」と照れた時の癖で眉を顰めながら言うルージュを見てさらに二人は上機嫌になった。



ウィクトル大公邸へと向かう準備の為、先に席を立ったルージュを見送ったふたりは先程の娘の表情を思い出してポツリと言葉を落とした。


「時間の問題ね」

「そうなれば、少しは安心できるんだが」

「侯爵家は黙ってませんよ、きっと」

「大公家に寄りかかってばかりいるつもりはないさ、アザールも全力で侯爵家に立ち向かおう」




「ただ、娘の幸せを願う親として。ですよね?」


「そうだな」













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