八年間の恋を捨てて結婚します

abang

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捨てられた婚約者

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相変わらず鼻につくほど優雅な所作で現れたルージュを牽制するように「遅かったですね」と責める。


なんとも思っていないような顔で背後の誰かに「ここまでで大丈夫」と伝えている彼女は何を言われたのかチラリとこちらを見てから扉の向こうの誰かに頷いた。

生粋の貴族令嬢であり、そのことを一切鼻にかけないルージュのそんな所も嫌いだ。

あえて椅子から立つことはせずに侯爵家へと彼女がまた通うことになった際の立場を分からせる為に威圧的に振る舞った。


アルベルトがルージュにそろそろ顔を出すように伝えろと言うのだから仕方がない。
勿論、事業や細々とした社交活動をする「ちゃんとした貴族令嬢」が必要だと言うことは理解できたがそれでもどこか悔しい。


「私もご一緒してもいいですか?丁度一緒に晩餐中でして…」

「ウィクトル公子様……!」


物優しげなはずなのに、あまりの威圧感を放つテンタシオンにメーデアは思わず席を立ちあがり礼をした。


「座って下さい」


ルージュが静かにそう言うとメーデアは軽く彼女を睨みつけてから座った。


「単刀直入に申し上げますが、アルベルト様は全てを許します」

「なんの話でしょう?」


訝しげなルージュの表情に、察しが悪いのか?と苛立ちながらも言葉を続ける。いくらアルベルトの恋人だとしてもメーデアは彼の秘書、彼がルージュを連れてこいと言えばそうするしかない。

(本当に鈍臭い人ねルージュ様って)


こんなのでどうやって社交活動をしているのだろうか?
メーデアは自分に侯爵夫人の地位が与えられればルージュなんかよりもっとうまくやってのけるのにと考えていた。



「そろそろ侯爵家に顔を出し、アルベルト様の婚約者として社交会での活動も行って下さい」


「社交ならしていますが、マルグリス侯爵様の婚約者ではもうありませんし顔を出すこともありません」


「いつまでも子供のように下らない意地を張るのはおやめ下さい」


メーデアはルージュに呆れて少し強めの口調て言ったものの、どうにも様子がおかしい。


すぐにウィクトル公子の合図で何かを取りに行った様子の使用人が婚約解消の書類を戻ってくるとその理由が分かった。


「婚約……解消?」

「ええ、私達の婚約解消はとっくに成立しています」

「でも……何度もアルベルト様に手紙を……」

「やっぱり貴女だったのね。婚約解消の成立を伝える為に送っていただけで侯爵様に未練や特別な想いはありません」

「そんな、それじゃ……っ」



メーデアはルージュが来なくなって徐々に、ランチが届かないこと以外の不都合に気付いていた。

もしかしたらアルベルトにはビジネスの才能や人に好かれる才能が無いかもしれないこと。
富豪であるルージュの家門からの投資がなければ今の侯爵家は立ち行かないこと。


そしてマルグリス侯爵家が得た多くの信頼はどうやったのかは知らないがルージュが得てきたものだということ。


(大丈夫よ、地位さえ手に入れば私だって上手くやるわ)


とはいえ今はただの準男爵の家門の出の秘書だ。

アルベルトがルージュは役立たずではないという事実を知ればルージュを選ぶだろう。


そして、この事態に気付けなかった落ち度がメーデアの嫉妬にあると知れば彼はきっと激怒するはずだ。


「私達はもう無関係です。婚約解消の公表について双方照らし合わせるのが礼儀なのでその件の手紙でしたと改めてお伝え下さい」


用が済んだら帰れと言わんばかりのルージュのそっけない対応にメーデアは慌てて席を立ち上がって手を伸ばす。


ルージュの肩を掴もうとした所で手の甲に軽い痛みを感じて思わず引っ込めた。
一瞬何が起きたか分からなかったが、テンタシオンが立ち上がっていることから彼に払い落とされたのだと分かった。


「これ以上の無礼は許容できませんね」

「ですが、こんな一方的に……!」

(バレたらアルベルト様に幻滅される、今はまだルージュ様が居ないと侯爵家は立ち直せない……っ)



けれどテンタシオンの笑っているのかどうか分からない冷たい笑顔がメーデアの次の言葉を許さない。


メーデアはグッと黙って「失礼致します」と逃げ帰ることしか出来なかった。

「再度、確認書類を送りますね」という淡々としたルージュの声が耳に入ってきたが、この事実を、取り返しのつかない失態をどうにかして隠さなければとメーデアの頭の中はいっぱいだった。


捨てられたのはルージュではなかった。

捨てられたのはアルベルトだったのだ。


「大丈夫、私だって婚約者として上手くやれる」


そう言い聞かせながらもアルベルトに上手く説明をする自信がなくて、時間を稼いでいるうちにルージュを言いくるめなければと考えを巡らせた。










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