14 / 43
捨てられた婚約者
しおりを挟む相変わらず鼻につくほど優雅な所作で現れたルージュを牽制するように「遅かったですね」と責める。
なんとも思っていないような顔で背後の誰かに「ここまでで大丈夫」と伝えている彼女は何を言われたのかチラリとこちらを見てから扉の向こうの誰かに頷いた。
生粋の貴族令嬢であり、そのことを一切鼻にかけないルージュのそんな所も嫌いだ。
あえて椅子から立つことはせずに侯爵家へと彼女がまた通うことになった際の立場を分からせる為に威圧的に振る舞った。
アルベルトがルージュにそろそろ顔を出すように伝えろと言うのだから仕方がない。
勿論、事業や細々とした社交活動をする「ちゃんとした貴族令嬢」が必要だと言うことは理解できたがそれでもどこか悔しい。
「私もご一緒してもいいですか?丁度一緒に晩餐中でして…」
「ウィクトル公子様……!」
物優しげなはずなのに、あまりの威圧感を放つテンタシオンにメーデアは思わず席を立ちあがり礼をした。
「座って下さい」
ルージュが静かにそう言うとメーデアは軽く彼女を睨みつけてから座った。
「単刀直入に申し上げますが、アルベルト様は全てを許します」
「なんの話でしょう?」
訝しげなルージュの表情に、察しが悪いのか?と苛立ちながらも言葉を続ける。いくらアルベルトの恋人だとしてもメーデアは彼の秘書、彼がルージュを連れてこいと言えばそうするしかない。
(本当に鈍臭い人ねルージュ様って)
こんなのでどうやって社交活動をしているのだろうか?
メーデアは自分に侯爵夫人の地位が与えられればルージュなんかよりもっとうまくやってのけるのにと考えていた。
「そろそろ侯爵家に顔を出し、アルベルト様の婚約者として社交会での活動も行って下さい」
「社交ならしていますが、マルグリス侯爵様の婚約者ではもうありませんし顔を出すこともありません」
「いつまでも子供のように下らない意地を張るのはおやめ下さい」
メーデアはルージュに呆れて少し強めの口調て言ったものの、どうにも様子がおかしい。
すぐにウィクトル公子の合図で何かを取りに行った様子の使用人が婚約解消の書類を戻ってくるとその理由が分かった。
「婚約……解消?」
「ええ、私達の婚約解消はとっくに成立しています」
「でも……何度もアルベルト様に手紙を……」
「やっぱり貴女だったのね。婚約解消の成立を伝える為に送っていただけで侯爵様に未練や特別な想いはありません」
「そんな、それじゃ……っ」
メーデアはルージュが来なくなって徐々に、ランチが届かないこと以外の不都合に気付いていた。
もしかしたらアルベルトにはビジネスの才能や人に好かれる才能が無いかもしれないこと。
富豪であるルージュの家門からの投資がなければ今の侯爵家は立ち行かないこと。
そしてマルグリス侯爵家が得た多くの信頼はどうやったのかは知らないがルージュが得てきたものだということ。
(大丈夫よ、地位さえ手に入れば私だって上手くやるわ)
とはいえ今はただの準男爵の家門の出の秘書だ。
アルベルトがルージュは役立たずではないという事実を知ればルージュを選ぶだろう。
そして、この事態に気付けなかった落ち度がメーデアの嫉妬にあると知れば彼はきっと激怒するはずだ。
「私達はもう無関係です。婚約解消の公表について双方照らし合わせるのが礼儀なのでその件の手紙でしたと改めてお伝え下さい」
用が済んだら帰れと言わんばかりのルージュのそっけない対応にメーデアは慌てて席を立ち上がって手を伸ばす。
ルージュの肩を掴もうとした所で手の甲に軽い痛みを感じて思わず引っ込めた。
一瞬何が起きたか分からなかったが、テンタシオンが立ち上がっていることから彼に払い落とされたのだと分かった。
「これ以上の無礼は許容できませんね」
「ですが、こんな一方的に……!」
(バレたらアルベルト様に幻滅される、今はまだルージュ様が居ないと侯爵家は立ち直せない……っ)
けれどテンタシオンの笑っているのかどうか分からない冷たい笑顔がメーデアの次の言葉を許さない。
メーデアはグッと黙って「失礼致します」と逃げ帰ることしか出来なかった。
「再度、確認書類を送りますね」という淡々としたルージュの声が耳に入ってきたが、この事実を、取り返しのつかない失態をどうにかして隠さなければとメーデアの頭の中はいっぱいだった。
捨てられたのはルージュではなかった。
捨てられたのはアルベルトだったのだ。
「大丈夫、私だって婚約者として上手くやれる」
そう言い聞かせながらもアルベルトに上手く説明をする自信がなくて、時間を稼いでいるうちにルージュを言いくるめなければと考えを巡らせた。
4,702
あなたにおすすめの小説
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
なにをおっしゃいますやら
基本二度寝
恋愛
本日、五年通った学び舎を卒業する。
エリクシア侯爵令嬢は、己をエスコートする男を見上げた。
微笑んで見せれば、男は目線を逸らす。
エブリシアは苦笑した。
今日までなのだから。
今日、エブリシアは婚約解消する事が決まっているのだから。
[完結]本当にバカね
シマ
恋愛
私には幼い頃から婚約者がいる。
この国の子供は貴族、平民問わず試験に合格すれば通えるサラタル学園がある。
貴族は落ちたら恥とまで言われる学園で出会った平民と恋に落ちた婚約者。
入婿の貴方が私を見下すとは良い度胸ね。
私を敵に回したら、どうなるか分からせてあげる。
【完結】亡くなった人を愛する貴方を、愛し続ける事はできませんでした
凛蓮月
恋愛
【おかげさまで完全完結致しました。閲覧頂きありがとうございます】
いつか見た、貴方と婚約者の仲睦まじい姿。
婚約者を失い悲しみにくれている貴方と新たに婚約をした私。
貴方は私を愛する事は無いと言ったけれど、私は貴方をお慕いしておりました。
例え貴方が今でも、亡くなった婚約者の女性を愛していても。
私は貴方が生きてさえいれば
それで良いと思っていたのです──。
【早速のホトラン入りありがとうございます!】
※作者の脳内異世界のお話です。
※小説家になろうにも同時掲載しています。
※諸事情により感想欄は閉じています。詳しくは近況ボードをご覧下さい。(追記12/31〜1/2迄受付る事に致しました)
婚約破棄は喜んで
nanahi
恋愛
「お前はもう美しくない。婚約破棄だ」
他の女を愛するあなたは私にそう言い放った。あなたの国を守るため、聖なる力を搾り取られ、みじめに痩せ細った私に。
え!いいんですか?喜んで私は去ります。子爵令嬢さん、厄災の件、あとはよろしく。
私よりも姉を好きになった婚約者
神々廻
恋愛
「エミリー!お前とは婚約破棄し、お前の姉のティアと婚約する事にした!」
「ごめんなさい、エミリー.......私が悪いの、私は昔から家督を継ぐ様に言われて貴方が羨ましかったの。それでっ、私たら貴方の婚約者のアルに恋をしてしまったの.......」
「ティア、君は悪くないよ。今まで辛かったよな。だけど僕が居るからね。エミリーには僕の従兄弟でティアの元婚約者をあげるよ。それで、エミリーがティアの代わりに家督を継いで、僕の従兄と結婚する。なんて素敵なんだろう。ティアは僕のお嫁さんになって、2人で幸せな家庭を築くんだ!」
「まぁ、アルったら。家庭なんてまだ早いわよ!」
このバカップルは何を言っているの?
【完結】婿入り予定の婚約者は恋人と結婚したいらしい 〜そのひと爵位継げなくなるけどそんなに欲しいなら譲ります〜
早奈恵
恋愛
【完結】ざまぁ展開あります⚫︎幼なじみで婚約者のデニスが恋人を作り、破談となってしまう。困ったステファニーは急遽婿探しをする事になる。⚫︎新しい相手と婚約発表直前『やっぱりステファニーと結婚する』とデニスが言い出した。⚫︎辺境伯になるにはステファニーと結婚が必要と気が付いたデニスと辺境伯夫人になりたかった恋人ブリトニーを前に、ステファニーは新しい婚約者ブラッドリーと共に対抗する。⚫︎デニスの恋人ブリトニーが不公平だと言い、デニスにもチャンスをくれと縋り出す。⚫︎そしてデニスとブラッドが言い合いになり、決闘することに……。
わたしを捨てた騎士様の末路
夜桜
恋愛
令嬢エレナは、騎士フレンと婚約を交わしていた。
ある日、フレンはエレナに婚約破棄を言い渡す。その意外な理由にエレナは冷静に対処した。フレンの行動は全て筒抜けだったのだ。
※連載
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる