八年間の恋を捨てて結婚します

abang

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俺だけのものじゃなかったのか?

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八年もの間ずっと自分だけを盲目的に愛していたはずのルージュ。

なのに彼女はもうすぐ別の男と婚約する。

朝刊に大々的に書かれているのは何度見返しても、ルージュとウィクトル公子のの記事だった。

正式な結婚の日取りまで記された記事にアルベルトは憤る。



「今度はそうやって気を引くつもりか!?」


何度も使いを寄越したルージュを邪険にしたのが悪かったのか?

あれはルージュ本人が自分を訪ねてこない事に腹が立っただけで何も他の男の所へ行くことを願った訳じゃない。


昔から喧嘩をすれば謝るのはいつもルージュからだった。


今回もきっと「ごめんなさい、アル」と瞳を潤ませて謝ってくる筈だった。そしてあの瞬間が大好きだった。

何をしても許されるのだと、それ程に愛されているのだと実感できたからだ。


自分とメーデアが決して結ばれることがないのと同じで、ウィクトル公子とのことも噂は噂だ。


ただ自分の気を引きたいだけだ、きっとそうだ。


いくら無能で裕福な事以外取り柄のないルージュでも、たかだかほぼ平民のメーデアよりは結婚相手に相応しい。


ついカッとなって落としたガラス製の灰皿と散らばった吸い殻をぼうっと眺めて考え耽る。

そうしているとウィクトル公子やルージュの言葉が浮かんできて、途端に不安感が募った。


『いつまでそう思っているんです?』

『ルージュ様からの使いで参りました……』


目を背けていただけで、ルージュは本当に自分を見放したのか?


いつもルージュからの意見を突っぱねてばかりだった。
仕事に関してはメーデアが上手くやっているし、父の代から務めるセントリックも居る。

だから、ルージュの意見なんて聞く理由など無かった。

けれどもし、本当に噂がただの噂ではないのなら……



「おい、誰かいるか!?」

「お呼びですか?」

「今からアザール伯爵邸へ行く」

「も、申し訳ありませんが、それはできません」


一人の従者がおずおずと言う、血は更に頭に登るばかりだ。
何故だと問いかけてみても「大旦那様に伺って下さい」と言うばかりでどれだけ頬を打っても返事を変えない。

確か、このまだ若い従者は最近入ったばかりのセントリックの孫だった筈だ。我が家に忠実な筈の家系の孫がこれほどまでに分からずやだとはこの邸の紀律がどれほど乱れているか分かる。


そう呆れながら、父が滞在する部屋へと向かうと来た時よりも少しやつれた母が「おやめなさい」と待ち構えていたように自分を引き止めた。


「ですが!黙っている訳には……!」


「この間も話した通り、貴方はメーデアの責任を取らなくてはならないし、ルージュとはもう婚約者ではないわ」


「母上まで大公の権力にひれ伏すのですか!?」


「どうしてそう頑ななの!?きちんと向き合って、謹慎を受け入れなさい。当日の招待状は届いているわ……それまで我慢なさい!」



母が声を荒げる所をアルベルトは初めて見た。

それに驚いたのもあって声が出なかった。

ルージュの噂についても、彼女が謝りにこないのも「謹慎」の一部だと思っていた。

けれど、もしかしたらルージュはこの八年間を捨ててウィクトル公子と婚約するのだ。


何故かそう考えると、あんなにも健気で愛おしく思えた献身的で妻のように振る舞いながら必死でアルベルトに気に入られようとするメーデアに嫌悪感を抱いた。


「あの、娼婦のような女が俺の妻だと……?」



「あいつの所為だ」そう思えてならなくなって、いるかどうかも分からない腹の子を盾に大した仕事もせずに侯爵邸に居座るメーデアに苛立ちを感じた。


「もういい!」

「アル!!何処へ行くの!?」

「メーデアの所です!」


メーデアは部屋に訪ねて来たアルベルトを嬉々として迎え入れたが、据わった目を見て顔を青ざめさせた。

アルベルトはムシャクシャする気持ちをぶつけるようにしなだれかかって来たメーデアの頬を打った。


「全部、お前のせいだ」

「きゃ!何をするんですか!?」

「黙ってろ」


口ごたえをするたびに頬を打ち、向かい側の椅子ではなく足元の床に膝を付かせた。

罵る言葉に涙を流すメーデアに招待状には応えるな、と参加しないように釘を刺す。



「必ず取り戻してみせるぞ……」


ぶつぶつと何かを言うアルベルトを不気味に思いながらも、頬を打たれることが怖くてメーデアは床に膝をついたまま彼の気が済むのを待った。

「何故こうなったのか?」なんて考えなくても理解できる。

全てが強引すぎたのだ。

ルージュを侮って、ことを急ぎすぎた所為だとメーデアは思った。実際の所その思考すらが見当違いなのだが、アルベルトもメーデアも生憎、自分のことばかり考える所為で周囲など見えていない。

アルベルトの変化が怖いからと今更、嫡子の血を持つ子を野放しにする筈もなくメーデアはきっと認められぬままこの邸から出られないことに急に怖くなってそのまま床に塞ぎ込んだ。



「どうして私がこんな目に……」


婚約パーティーまでの間、メーデアは広いとはいえ部屋を出る事を許されず、アルベルトの足音に怯えながら過ごした。







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