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二度目の晴れ姿
しおりを挟む楽しそうにドレスの寸法を合わせる針子達と、指示をするデザイナー。ルージュは嬉しいのと気恥ずかしさとの両方でついはにかんだ。
婚約式を行うのはこれで二度目だ。
大公家が行うこれほどの大規模な婚約式ではなかったが、あの時も不幸せだと思っていた訳じゃなかった。
だからといって幸せが長く続ことはなかったけれど「今度はうまくやれるか」なんて弱気な事をルージュはもう考えない。
テンタシオンとならきっと、年老いても二人で変化さえも愛おしく感じながら仲睦まじく暮らせる気がしているからだ。
ドレスから始まり、準備されたものと針子達の気遣いの全てからテンタシオンの思いやりがひしひしと感じられて心が苦しいほどにきゅうっと圧縮されるような感覚になった。
ルージュはせめて今度の婚約式ではきちんとウィクトル大公家の一員として認められるように立派に立ち振る舞おうと意気込む。
着々とドレスの微調整や最終確認が進む中、扉を叩く音がして向こう側が少し騒がしくなった。
「公子様が来られました」
「テンタシオン!どうぞ入って」
「やあルージュ!不便は無いかな?」
「おかげさまで勿体ないくらい幸せな時間を過ごせているわ」
「疲れてない?」と自分も執務と準備に追われているというのにルージュばかりを気遣うテンタシオンに、彼こそ疲れていないかと心配になって首を振った後にルージュは彼を見上げて「あなたも」と眉を下げた。
必然的に寄ったルージュの眉間をテンタシオンはツンと人差し指で突いてくすりと笑う。
「僕たちの婚約式だろう?一緒に考えさせてよ」
思い出してはいけない、比較してはいけないと分かっていながらも過去の婚約式の準備との違いに驚く。
『女主人になる予行練習だ』と、こういった場面でこそ試されているのだとあの頃のアルベルトは最低限以外、何一つ協力しようとしなかった。
初めての婚約式でもあったしそう言うものなのだと思ってマルグリス侯爵家に負担のない予算内で収まるよう、執務とアルベルトの仕事のサポートの合間になんとか準備したものだ。
だからこそあまりに違いすぎて戸惑う時すらある。
こんなにも楽しくて、幸せでいいのだろうか?と。
こうして互いに空いた時間に顔を合わせることも、二度目の婚約式なのに初めてだ。
いよいよ日が近づいて来たが、緊張よりも幸福感が勝る。
ようやく正式にテンタシオンとの婚約発表をすることができるのだ。
それと同時に大公家の威光を借りる形にはなるが、強引にアルベルトとの婚約解消を公表する。
どうしても爵位の差だったりと立場上丸め込まれる可能性がある以上、ウィクトル大公家として大々的に発表する方が迅速で確実だと考えたのだ。
自分たちの事で忙しいのだろう。アルベルトの両親とはあれ以来まともな話し合いも出来ていない。
謝罪する手紙ばかりで実のある話に進展しないのだ。
このまま婚約式の日を迎えてしまうことになりそうだが、そうなっても仕方がないと思っている。
直接的な実害がない上に、貴族男性が愛人を持つことを許されている社会でメーデアを法的に罰する事は難しいかもしれない。
それでも、ルージュが苦しんだ数年の代償をメーデアに必ず払わせるのだとテンタシオンは密かに決めていた。
親戚である為、王族もテンタシオンとルージュの婚約式には参席する。
ルージュはきちんと区切りさえつけられれば良いのだと言うが、テンタシオンはもう二度とマルグリス侯爵家がルージュに付き纏わないように徹底的に排除するつもりなのだ。
「私、テンタシオンが婚約者で本当に幸せね」
「本当は僕がすごく恐ろしい男かもしれないよ?」
「それでも、私にとっては大切な人よ」
「ルージュは僕がずっと守るよ」
「私もテンタシオンを守るわ」と嬉しそうに胸の中で笑ったルージュと、愛おしげなテンタシオンにとうとうデザイナーが嘆いた。
「ドレスがシワになりますわ……!」
「「あっ」」
針子たちが笑ったのに釣られてルージュも笑う。
幸せなルージュの知らぬ所でマルグリス侯爵家が段々と崩れ始めていることなど彼女は想像すらしなかった。
「新しいドレスを注文できないですって!?」
「メーデア様にマルグリスの金庫から買い物をする権利はありませんので」
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