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これこそが愛だと思う
しおりを挟む気怠げに登校したフリアを見て想像を駆り立てる者達に睨みを利かせて、人目から庇うように彼女の隣に立つ。
目線だけ此方に向けて「ソル」と小さく笑って「おはよう」と続けたフリアにほっとする。彼女の隣に立って此方に目線を向けた時に彼女が拒絶すれば弾き飛ばされている筈だから。
それが俺達の中の信頼関係を表しているといえるだろう。
フリアには近頃少し変わったところがある。
あのイカれ兄達の教育の賜物でフリアは常識とはかけ離れた生活していた上に不思議とそれを疑問に思う事も、他人と見比べる事もしなかった。
どこか人形のような雰囲気だと感じていたが、近頃はまるで人間らしい一面を見せるようになった。
どんな彼女だって好きなのだが、やっぱりフリアには普通に幸せになって欲しい。幸せにしてやりたい。
(なんてな、言ったら怪訝な顔をするだろうな)
「いつも送ってくれなくていいのに」
「いいんだ。今日は特に疲れて見えるから」
「私がサボると思ってるのね」
「ふは!違うの?」
「……一緒に来る?」
「駄目、この授業は大切だろ。次が自習だった筈だよ」
「優しいね、ソルは」
やはり、彼女は変わったと思う。
今までのフリアならこれを「優しさ」と捉える事は無かっただろう。
「変なの、じゃあまた後でね」なんて言って気に留める事もない筈。
なのに「優しい」と言った。
甘やかすだけが愛じゃないと確かに考えている。あの兄達よりも甘やかせて俺が居ないと生きていけないようにする事もできる筈だ俺は王太子なのだからそれが可能なのだ。
けれどフリアには学園生活を全うして、叶うなら同性の友達を作って、やりたい事を見つけて欲しい。
沢山の経験を積んで、何故だ分からないが彼女は変われると確信したからこそディザスターに縛られずに生きて欲しい。
たとえ俺の想いが叶わなくても、フリアにはちゃんと幸せになって欲しいから。
そんな思いを汲み取ったかのような言葉に正直少し驚いた。
そんな俺に「変なソル」とツンツンと腕を突いてから背を向けて行ってしまったフリアをはっとして見送る。
(くっそ……可愛いな)
フリアからはいつもあの兄達と同じ香りがする。
ディザスターの甘い香りは人を惹きつける癖に、許可なく触れた者には躊躇なく刃を向けるのだからタチが悪い。
けれど、フリアは俺にそうしない。
兄達と違ってフリアが俺を利用するメリットは無いし、そんな事考えもしないだろう。なのにフリアは刃を向けたことは無い。
そしてついに気持ちまでも伝わってしまった。
意図的な行動ではない。ただフリアを愛するが故にそうして来た行動なのにそれを「変わった人」ではなく「優しい人」と認識してくれたのだ。
「フリアっ」
「ん?」
「後で迎えに来るよ」
「そっちも自習?」
「ああ」
(違うけど、俺は城で全科目修了してるからな)
「良かった!待ってるわ」
そもそも学園には交流の為という建前と、フリアが気になるからという本音が半分ずつの理由で入学した。
次の年に入ってくるだろうフリアが兄達の目から離れる瞬間、チャンスは此処にしかないと思ったから彼女の居ない一年間を耐えたのだ。
「なに立ち止まってるのよ」
右手に柔らかくて温かい感触、どきりとする。
ビリビリと身体に電撃が走って火照ったような感じがする。、
いつの間にか戻って来ているフリアに緩く握られた右手を持ち上げられて、身長差から上目遣いになった彼女が首を傾げる。
悪戯に笑った瞬間、顔に火がついたように熱くなって力が抜けた。
「ふ、フリア」
「あげる」
「え……飴?」
「そ、難しい顔してたでしょ」
(兄様達の事じゃないよね、何もしてないし)
「ありがとう」
ふわりと笑ったソルの表情に一瞬だけピタリと動きを止めたフリアを見てやはり変わったなと思った。
こうして一緒に成長していくのがきっと愛だよねフリア。
(一瞬、ソルが可愛く見えたわ。いけない私には兄様達が全てよ)
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