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しおりを挟む揃ったデザインの服装で夜会に参加するのは初めてだった。
幼い頃から時々、シドは今日私が着けているのと同じ宝石の装飾品を贈ってくれたがこれ程までに完璧に衣装を揃えたのは初めてだった。
よりによってそれが子供の頃ではなく、出戻ってからの今だと言う事が問題だった。
「やっぱり、誤解されちゃうわシド。今からでも……」
「大丈夫だよエレノア」
(それに隠しても今更みたいだし)
子供同士ならば「微笑ましい」で済まされるこの格好も今の自分の立場ならばそうはいかないだろう。
私なんかがシドの名誉を汚す訳にはいかない、
挨拶を交わした後に、すぐに気付いたもののシドにはずっと「大丈夫」だとばかり言われている。
エレノアの不安を感じ取ったのか、シドは優しく笑いかけて幼い頃にしたように手をきゅっと握ると「信じて」と言った。
「それに、私達がこうしてまた二人で参加するのを皆楽しみにしてくれている筈だよ」
「そんなわけ……」
「不本意だが、皆面白がってるんだ」
(私が今度こそ告白出来るかどうかだけど)
「えっ……」
「悪い意味じゃないよ」
楽しそうに、どこか照れくさそうなシドの表情は本当に悪い事じゃなさそうだ。
不思議とシドがそう言うなら大丈夫だろう。なんて安心感すらある。エレノアがそういった不確かなものに気が休まるのは公の場や執務ならば尚更に滅多に無い事なのだが、
本当に自分でも驚くほどにシドの言う事には素直に頷けるのだ。
(不思議……)
「シドってとても安心するわ」
「そう?」
「お兄様と親友だからかな……」
そう、まるで……
「お兄ちゃんみたいね、ふふ」
「お、にいちゃん……」
「あれ?シド?」
(あーそうだよな、微塵も気付かれてないよね)
「なら、私はもうちょっと頑張らないとな」
「シドはもう十分頑張ってるでしょ?」
「はは、どうかな」
俯いて何となく肩が落ちているようなシドが心配になって、今度は私が子供の頃のように手を握って覗き込んだ。
王宮から来た豪華な馬車の上質な椅子のおかげか、丁寧な運転のおかげかは定かではないが揺れをあまり感じないのに感謝しながらシドに近づいてしゃがみ込むと、少しだけ驚いた彼は「危ないよ」と隣に座らせてくれた。
互いに大きくなったなぁと実感する。
いつも馬車に乗る時は隣同士だったが、これほどまでに近く感じることはなかったから。
シドの涼しげで爽やかないい香りが懐かしくて、安心する。
「シド、元気ないの?」
「え!いや、そんな訳じゃ……」
「私に出来る事があれば何でも言ってね」
(こう言う所が無防備なんだよなぁ、エレノア)
「何でも、なんて言っていいの?」
「シドには感謝してるし、なにより信頼してるもの」
シドは、流石に子供ではないから無垢ではないものの善意を悪意で穢されることがあると疑わない心の美しいエレノアが好きな事をさらに実感し、それと同時に得体の知れない不安感に襲われた。
(もし相手が、他の男だったら?)
「じゃあその何でもは私だけにしてくれないかな?」
「えーー」
「それと今日はずっとこの距離で居てくれ」
そう言って目を細めたシドが、ほんの少しだけ知らない顔をしたような気がしてまるで兄というより、
(男の人みたいだったーー)
邪な気持ちをすぐに薙ぎ払って、もういつも通りの表情をしているシドにほっとして「分かったわ」と返事をした。
互いの耳の先が赤く染まっていることは
どちらも気付かなかった。
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