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みんなの王太子殿下
しおりを挟む「王太子殿下!今日も素敵だわぁ!」
「はぁ~殿下に選ばれたい!」
「殿下~っ!ごぎげんよう~っ」
「ご令嬢方、ご機嫌よう。今日も皆麗しいね」
「「「キャーー!!!」」」
華やかなパーティー会場をさらにその容姿で飾り付けたのは王太子、ルディウス・セレイネだった。
「ルディウス殿下、今日も素敵ねぇ~!!」
「そうだね、ねぇこれって全部食べてもいいのかしら?」
「ちょっと……はぁ、良いんじゃない?」
皆の視線の先の王太子よりも目の前のピンク色のマカロンをジッと見つめる彼女は絶世の美女であるが滅多にパーティーには顔を出さない。
アメノーズ公爵家の愛娘フレイヤ・アメノーズは恵まれた容姿を存分に無駄遣いしている。
「あ、アメノーズのご令嬢っ。僕はニックレイと申します!良ければ……少しお話を……」
「あ、どうぞ。ちゃんと聞いておりますので」
(フレイヤ、きっと二人でという意味よ)
彼女の親友であるティリア・グレイモン侯爵令嬢はフレイヤの相変わらず鈍感で、斜め上をいく返答に呆れる顔を隠す為に扇子を開いた。
ニコリと微笑んだ顔の美しさと、彼女から出る言葉は何ともミスマッチでその所作は完璧な筈なのに、絶妙な無礼さが彼女のガードの堅さとなっていてとても不思議である。
掴みどころのないとはまさに彼女の事をいうのだろう。
「あの、できれば二人きりで……」
「……すみません、今は少し忙しくって」
「え……」
(マカロン食べるからと言う意味かな?)
(マカロン食べるから?)
お皿の上に見事芸術的なほど美しく盛られたマカロンを隠す事なく、美しい顔を申し訳無さそうにシュンとさせるフレイヤは確かに可愛い。
可愛いのだが、残念だ。
「……よければ、お詫びに差し上げますわ」
(いや、それ元々このパーティーのお菓子でしょうが)
ティリアの心の叫びなどつゆ知らずそう言ってマカロンを芸術的に積み上げた皿をニックレイに差し出すフレイヤ。
「えっと、あの……遠慮せずにご令嬢がお召し上がり下さい」
「まぁ……貴方とても良い人ですね!ありがとうございます」
「そ、そんなっ……!あの、マカロンがお好きなのですね!」
(いや、アンタも照れるんかい)
「ええ……好きです」
そう言ってマカロンを眺めてから顔を上げて言ったフレイヤの笑顔に卒倒したのは目の前のニックレイだけではなかった。
フレイヤの「好きです」はあくまでマカロンに向けられたものであったが、周囲の者達は勝手に連想、妄想して卒倒したのだ。
「見事、排除したわねフレイヤ」
「何が?ねぇティリー、さっきから嫌な予感がするのよ……場所を変え……」
フレイヤの嫌な予感とはこの事なのだろうか?
ふわりと美しいご尊顔を微笑ませて、歩み寄ってくる王太子。
女性に優しく、常に囲まれているが浮いた話は聞かない……誰のものにもならない誰にでも優しい男。
それがルディウス・セレイネ王太子殿下である。
そして、軽薄な男はフレイヤの苦手なタイプであくまで軽薄そうなだけではあるが既に表情の抜け落ちているフレイヤを見ると「無理だ」と悟った。
「……美しいご令嬢、名前を聞いても?」
王太子であり、容姿にも恵まれた彼に声をかけられて嬉しくない女など存在するのだろうか?
国中の女性にはモテているし、男性達からの人望も厚い。
そして、小細工無しの真っ直ぐな褒め言葉と熱い視線。
流石のフレイヤでも彼を袖にする事など出来ないだろ……
「申し訳ありません、先程落としてしまって」
((んな訳あるかぁーーー!!!))
「あはは、面白い冗談だね。俺の事を知ってる?」
「はい、多分王太子殿下ではないかと……」
「……うん、あたりだね」
(多分……)
「じゃあ、落とし物を探して参りますので……さようなら」
「え"っ!?無礼とか、王太子殿下だ、とか考えない?」
「ワーオウタイシサマダ、ステキ……では失礼致します」
((悪気のない棒読み……早く離れたそう!?))
「……決めた、俺は彼女を妻にする」
「お断りします」
「「「えーー!!」」」
呟くように宣言したルディウス殿下の言葉に食い気味に断りを入れたフレイヤの完璧なまでの満面の笑みに思わず皆が心の声を露見させた。
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