王太子様、丁寧にお断りします!

abang

文字の大きさ
9 / 42

なんで普通に居るんですか?

しおりを挟む

フレイヤに似合うシンプルだがどことなく高貴な雰囲気の部屋は、彼女の優しい香りがした。


白いソファに横たわるグレーに青い目をしたディエゴ。

艶のある毛並みをなぞるように撫でる美しい青年……


「ニャア」

「よしよし、ディアゴは可愛いなぁ~」


そんなルディウスに懐くディアゴが彼の膝に乗って寝てしまうと、ルディウスはさも自然に「フレイヤ、申し訳ないがディアゴの毛布を取ってくれない?」なんて声をかけてくる。


「……どうぞ」



そう、普通に居る。

普通に過ごしているのだ。


間違いなくここはフレイヤの部屋で、ルディウスとは赤の他人の筈なのに……


今日は朝からずっと居るのだ。




「何故普通に馴染んでいるのこの人」



「フレイヤ、ディアゴがおやつを欲しいと」

「何で懐いて……っ」



「あっフレイヤ、これは此処にしまっておいても良いかな?」

「何で……」




「フレイヤ……」

「王宮へ、お帰りくださいルディ様」





「ニャーオ」

「ディアゴ……駄目よ、その人は頭がおかしいのだから」

「おい」


「おい」と言いたいのはこっちの方だと言わんばかりに冷ややかな目線を送るフレイヤに「お母上が通して下さった」と爽やかな笑顔を向けるものだから思わず持っていた書類をくしゃりと握りつぶした。




「はは、フレイヤはお転婆だなぁ」

「もっとお転婆な所を見せて差し上げましょうか?」


そう言って脚を振り上げた所でくるりと身体を回転させされ、ルディウスの隣にぽすんと収まる。



「……」

「まぁまぁ、フレイヤ。その美しい脚は別の機会に堪能するよ」

「初めて殺意が沸きました」

「すみません、冗談です」




フレイヤは肩を抱く(というよりも暴れないように捕獲する)ルディウスの手をパッと払って脱力したように溜め息をついた。



「はーっ……で、ご用はなんですの?」

「今更だな。ただ会いたくてダメ元で来たら、先にお母上に会ったんだ」

「それでなんで上がってくるのかしら」

(無視していれば諦めると思ったのに……)



「逆に何で君は俺をそんなに嫌がるんだ」

「……私は軽い人はタイプではありません」

「こうやって手を握るのも、もっと先の事も全部君が初めてだよ」


そう言ってそっとフレイヤの手を取ったルディウスのあまりにも真剣な表情に思わずぼんっと音を立てそうな勢いで顔を赤くしたフレイヤは慌ててルディウスから距離を取った。



「だめか、勇気を出したんだけどな」

と、情けない笑顔で言うルディウスが不覚にも可愛く……



(見えるわけあるか)



「誰か人を呼んで頂戴!知らない人がずっと部屋にいるの」

「お嬢様、ルディウス殿下でごさいます」

「いいえ違うわ!この人は……どちら様でしたか?」

「リセットかな!?」




「お帰り下さい、見ず知らずの変人さん」

「今日はお父上に晩餐に誘われているよ、フレイヤ」

「……この無礼者を牢にぶち込みなさい」

「えっ……どっちが!?」




スタスタと逃げ回るフレイヤを追いかけるルディウスの姿はどうも飼い主に構って欲しい子猫のようだと邸内ではすっかり噂になったらしい。




(お母様だけでなく、お父様まで陥落!これは由々しき事態だわ!)



「……何ですか?」


クスクスと笑い声が聞こえて振り返ると、楽しそうに笑うルディウス。


「いや、可愛くて」

「……」

「真顔やめて」



ルディウスは咳払いをすると、困ったように「俺が嫌い?」とあざとく首を傾げた。



(なんとも小賢しい……!)



「フレイヤ?」

(きらい、きらいよ)


「嫌い……じゃありません……っ!?」

「ふはっ!なんで君が驚いているの?」

「……」

「いや、だから真顔」




すると、ルディウスは頬を染めてから「嬉しい」と笑った。



「そろそろ俺のこと考えてみて、きっと後悔させない」

「いいえ、貴方はタイプじゃありませんので」

「どの辺がだめ?」

「私は平和で落ち着いた愛を育みたいので」

「俺は、キミと愛を育みたいよ」

「却下!」












しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

うっかり結婚を承諾したら……。

翠月るるな
恋愛
「結婚しようよ」 なんて軽い言葉で誘われて、承諾することに。 相手は女避けにちょうどいいみたいだし、私は煩わしいことからの解放される。 白い結婚になるなら、思う存分魔導の勉強ができると喜んだものの……。 実際は思った感じではなくて──?

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

憧れの騎士さまと、お見合いなんです

絹乃
恋愛
年の差で体格差の溺愛話。大好きな騎士、ヴィレムさまとお見合いが決まった令嬢フランカ。その前後の甘い日々のお話です。

ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~

cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。 同棲はかれこれもう7年目。 お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。 合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。 焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。 何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。 美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。 私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな? そしてわたしの30歳の誕生日。 「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」 「なに言ってるの?」 優しかったはずの隼人が豹変。 「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」 彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。 「絶対に逃がさないよ?」

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

妾に恋をした

はなまる
恋愛
 ミーシャは22歳の子爵令嬢。でも結婚歴がある。夫との結婚生活は半年。おまけに相手は子持ちの再婚。  そして前妻を愛するあまり不能だった。実家に出戻って来たミーシャは再婚も考えたが何しろ子爵領は超貧乏、それに弟と妹の学費もかさむ。ある日妾の応募を目にしてこれだと思ってしまう。  早速面接に行って経験者だと思われて採用決定。  実際は純潔の乙女なのだがそこは何とかなるだろうと。  だが実際のお相手ネイトは妻とうまくいっておらずその日のうちに純潔を散らされる。ネイトはそれを知って狼狽える。そしてミーシャに好意を寄せてしまい話はおかしな方向に動き始める。  ミーシャは無事ミッションを成せるのか?  それとも玉砕されて追い出されるのか?  ネイトの恋心はどうなってしまうのか?  カオスなガストン侯爵家は一体どうなるのか?  

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

処理中です...