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なんで普通に居るんですか?
しおりを挟むフレイヤに似合うシンプルだがどことなく高貴な雰囲気の部屋は、彼女の優しい香りがした。
白いソファに横たわるグレーに青い目をしたディエゴ。
艶のある毛並みをなぞるように撫でる美しい青年……
「ニャア」
「よしよし、ディアゴは可愛いなぁ~」
そんなルディウスに懐くディアゴが彼の膝に乗って寝てしまうと、ルディウスはさも自然に「フレイヤ、申し訳ないがディアゴの毛布を取ってくれない?」なんて声をかけてくる。
「……どうぞ」
そう、普通に居る。
普通に過ごしているのだ。
間違いなくここはフレイヤの部屋で、ルディウスとは赤の他人の筈なのに……
今日は朝からずっと居るのだ。
「何故普通に馴染んでいるのこの人」
「フレイヤ、ディアゴがおやつを欲しいと」
「何で懐いて……っ」
「あっフレイヤ、これは此処にしまっておいても良いかな?」
「何で……」
「フレイヤ……」
「王宮へ、お帰りくださいルディ様」
「ニャーオ」
「ディアゴ……駄目よ、その人は頭がおかしいのだから」
「おい」
「おい」と言いたいのはこっちの方だと言わんばかりに冷ややかな目線を送るフレイヤに「お母上が通して下さった」と爽やかな笑顔を向けるものだから思わず持っていた書類をくしゃりと握りつぶした。
「はは、フレイヤはお転婆だなぁ」
「もっとお転婆な所を見せて差し上げましょうか?」
そう言って脚を振り上げた所でくるりと身体を回転させされ、ルディウスの隣にぽすんと収まる。
「……」
「まぁまぁ、フレイヤ。その美しい脚は別の機会に堪能するよ」
「初めて殺意が沸きました」
「すみません、冗談です」
フレイヤは肩を抱く(というよりも暴れないように捕獲する)ルディウスの手をパッと払って脱力したように溜め息をついた。
「はーっ……で、ご用はなんですの?」
「今更だな。ただ会いたくてダメ元で来たら、先にお母上に会ったんだ」
「それでなんで上がってくるのかしら」
(無視していれば諦めると思ったのに……)
「逆に何で君は俺をそんなに嫌がるんだ」
「……私は軽い人はタイプではありません」
「こうやって手を握るのも、もっと先の事も全部君が初めてだよ」
そう言ってそっとフレイヤの手を取ったルディウスのあまりにも真剣な表情に思わずぼんっと音を立てそうな勢いで顔を赤くしたフレイヤは慌ててルディウスから距離を取った。
「だめか、勇気を出したんだけどな」
と、情けない笑顔で言うルディウスが不覚にも可愛く……
(見えるわけあるか)
「誰か人を呼んで頂戴!知らない人がずっと部屋にいるの」
「お嬢様、ルディウス殿下でごさいます」
「いいえ違うわ!この人は……どちら様でしたか?」
「リセットかな!?」
「お帰り下さい、見ず知らずの変人さん」
「今日はお父上に晩餐に誘われているよ、フレイヤ」
「……この無礼者を牢にぶち込みなさい」
「えっ……どっちが!?」
スタスタと逃げ回るフレイヤを追いかけるルディウスの姿はどうも飼い主に構って欲しい子猫のようだと邸内ではすっかり噂になったらしい。
(お母様だけでなく、お父様まで陥落!これは由々しき事態だわ!)
「……何ですか?」
クスクスと笑い声が聞こえて振り返ると、楽しそうに笑うルディウス。
「いや、可愛くて」
「……」
「真顔やめて」
ルディウスは咳払いをすると、困ったように「俺が嫌い?」とあざとく首を傾げた。
(なんとも小賢しい……!)
「フレイヤ?」
(きらい、きらいよ)
「嫌い……じゃありません……っ!?」
「ふはっ!なんで君が驚いているの?」
「……」
「いや、だから真顔」
すると、ルディウスは頬を染めてから「嬉しい」と笑った。
「そろそろ俺のこと考えてみて、きっと後悔させない」
「いいえ、貴方はタイプじゃありませんので」
「どの辺がだめ?」
「私は平和で落ち着いた愛を育みたいので」
「俺は、キミと愛を育みたいよ」
「却下!」
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