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十一、姉弟なんかじゃない
しおりを挟む近頃の父上は苛立っている。
姉さんの所為だ。
「シシーリアの所為で妻と離れ離れになった」そう愚痴を溢す姿は見ていられない。あんなにも仲睦まじかった父と母は姉さんの愚行の所為で引き裂かれた。
姉さんは幼い頃から強くて、優しかった。
自分の事より僕や家族だったり友人達ばかりを優先する人で、聖女としての公務は姉さんの多くの時間を奪っていたし正直ずっと心配だった。
だからアイラがアランさんに近づいた時も、幼馴染なはずの皆が突然不自然に姉さんから距離を取った時もまず姉さんじゃなくてアイラを疑った。
アイラは自然と僕も接する事が多くなったけど、何か裏があるんじゃないかってずっそう思いながら付き合いをしていた。
けれど、アイラは特に姉さんの話をした事は無かったし寧ろ身も心もズタボロなのに絶対に誰に虐げられているのか言わなかった。
「アイラは、姉さんの事をどう思う?」
試すつもりで聞いた。
けれど返ってきた返事があまりにも意外で、平凡で拍子抜けした。
「シシーリア様は、とても尊敬できる方だと思うわ」
一瞬、肩を震わせた癖にそう言って心底惚れている男にでも向けるような微笑みで姉さんのことを言うから「あぁ良い子かもしれない」って罪悪感を持った瞬間から何故か姉さんに嫌悪感が湧いた。
(なら、何故姉さんはこんなに優しいアイラを虐げるんだ?)
アイラは姉さんを尊敬する僕の気持ちと、同時に姉弟なのにこんなにも違うという劣等感をよく理解してくれる。
家にいるのが嫌になってアイラが良く居る公園に来てみるとやっぱり彼女は居て「おいでよ」って困ったように笑った。
「せっかく一人の所邪魔してすまない」
「いいの、何かあった?」
「いや……ただこれで合っていたのかと考えると疲れたんだ」
「リズ、私の所為で悩んでる?」
「いやっ、アイラの所為じゃない!元々は姉さんが……」
「辛いのはリズも同じなのに、ごめんなさい」
「いや。アイラに会うだけで何故かスッキリするんだ」
そう言うと恥ずかしそうに笑って「私にはこんな事しかできないけど」ってポンポンと太ももを叩いた。
「膝枕……?」
「リズは忙しくて疲れてるでしょ?貴方は努力家だから」
(あぁやっぱりアイラは僕を見てくれる。姉さんじゃなくて僕を)
「ありがとう……」
「少し休んで、貴方とシシーリア様は違うわ。貴方だけの魅力があるわリズ……」
そう言って影が出来て、額にアイラの柔らかい唇が触れた。
顔が赤くなっているのが自分でも分かった。
けれど、ドクドクと音を立てる心臓とは裏腹に頭の中は冷静で
(姉さんが小さい頃よくしてくれたな)
ふと、姉さんとの幼い頃の記憶が過ぎって胸が苦しくなった。
アイラの手は心地よいけど、姉さんの手じゃない。
声だって、唇の感触にだってドキドキするけど
姉さんがしてくれたように不安がすっと消えて無くなるような感覚はしないなあとまで考えてゾクリとした。
「アイラ、僕はまだ姉さんを嫌えない」
「うん、私の為に誰かを憎まないで」
「君は本当に優しいね」
「リズが大切だからよ」
こうして過ごす時間は時たまアイラが自分だけのものになったような錯覚をさせる。
彼女の空色の瞳が僕を写し込んで、空なんかよりずっと綺麗だとさえ思った。
「大丈夫よリズ、私がずっと傍にいるわ」
「アイラ……」
「リズだけ特別、秘密よ?」
そう言って小鳥がエサをつつくようなキスを何度かしたアイラ以外の事は一瞬でどうでも良くなっていくような気がした。
(僕がアイラを守らなきゃ)
なぜかドクドクと音を立てる心臓はさっきと違う音を立てていた。
まるで不吉な事を察知しているように。
(姉さん……なんで、姉さんが浮かぶんだ)
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