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十三、コツさえ掴めば誰だって
しおりを挟む「イヴァン殿下っ」
呼び止められて振り返ると、空色の瞳と目が合った。
その瞬間にやってくる違和感は魅了とかそんな類の似て異なる何か。
言うなら、まるでこの世界の摂理がこの女の味方をしているような、変な感覚だ。この者こそ愛すべき世界の全てなのだと無理やり脳内に書き込まれるような違和感は気色が悪くて仕方ない。
魅了だったらまだ楽。
そんなものにはかかる気がしないし、かからないから。
けれどきっと似た何かだと想定している。
馬鹿だけど、アランは守るべき親友だ。
元々正義感が強くて、貴族のくせに純粋すぎる所があった。
ただの心変わりだと初めは思っていた。
美しいと誰もが賞賛し、貴族らしい淑女のシシーリアとは違う、素朴で天真爛漫な、それでいて純粋そうなタイプのアイラは貴族の男達からすれば物珍しいと言うこともあってかなり目を惹くタイプだろう。
アランもまたシシーリアとは違うタイプのアイラに興味を持ったのだろうと思っていた。
(ああいう無責任な世界平和とか、皆の幸せを謳う、庇護欲を駆り立てるような、その上自分を絶対に上回らない自尊心の満たせるタイプ好きそうだもんな、アイツ)
アランのシシーリアに対しての愛してるには、彼女に対する尊敬の念も入っていることには気付いていたし、
いつも誰かに奪われるかもしれないと、アランが自分自身の独占欲に疲れているのも知っていた。
だから、ああ楽な子を選んだんだ。と好都合だと思っていたが、アイラはどうやら不自然なのだ。
まるで、用意していたかのような返答。
この世界を支配しているかのように、彼女の何気ない一言や仕草は上手く人の弱点に浸透して皆を心酔させる。
そういう類の力は、精神力が弱ければ弱いほど掛かりやすいし。
逆に相手を、自分を、ちゃんと見れていれば掛かる事はない。
「楽したい」「楽になりたい」そう思ってしまえばもう負けなのだ。
知らぬ内に大切なモノを自分で壊していくことになる。
どうやらシシーリアにその力は効かないようで、彼女もまた自分と同じように、いつも楽に生きられる方法を選ばずに冷静に選択してきた人なのだと思うと嬉しくなる。
「あぁだから、余計に好きだよ」
「えっ?」
(私のコトかな?ちゃんとシナリオに沿ってるのかな?)
態とらしく頬を染めるアイラにため息をついて「君じゃないよ」と冷たく言うと途端に白くなる顔色、どこか焦っている様子。
(やっぱり不自然なんだよなぁ)
愛されて、選ばれて、当たり前だと言う態度。
だからこそ横柄で、無礼だ。
「目上の者に、目下の物から声をかけてはいけないと学ばなかった?」
「え……そんな事誰も……いえ、学びました」
「じゃあ、そうしてくれる?」
「え……きゃあっ!」
これ見よがしに転んだアイラはチラチラと自分を見る。
確かにアランならば「大丈夫か!?」と慌てて手を差し伸べてここぞとばかりにベタベタ引っ付いてくる好きな女以外の女にも優しくしただろう。
「生憎、僕は王太子なんだ。妙な騎士道は持ち合わせていないよ」
「え……」
「僕を知ってるでしょ?手を差し伸べるのは好きな子にだけだよ」
「で、でも……!」
(それって私の筈じゃ……攻略できてないの?)
「そうしていたければ、ご勝手に」
地面に座り込み困惑した様子のアイラを鼻で笑った。
呆然とする彼女が一体何を受け入れられないのかブツブツと何かを言っている様子はいつもの彼女の様子とは違った。
(いや、こっちが素か?)
コレを純粋でか弱いというならば、
シシーリアは無色透明ではないのか?と考えながら、甘ったるい声が
「殿下ぁ……待ってよぉ」と背後で発されたのを聞こえないフリをした。
あくまでこれは優しさ、
今すぐ、僕の気分で不敬罪になるより無視の方がマシでしょ?
「あ、シシー」
「ん?あ、イヴァン!」
自分で気付いているのか、安心したようなぶわっと花が舞うようなそんな笑顔で僕の名を読んだシシーリアはやっぱり無色透明だと思った。
(僕に染まってく君が、更に恋しいよ)
大丈夫、ちゃんと馬鹿な親友もシシーの大切だった人達も救ってあげる。
(きっと裏があるはずだ)
「ねぇシシー?不自然だと思わない?」
「え……」
シシーリアの宝石みたいな瞳が不安げに揺れた。
大丈夫だよシシー、
僕はずっと君の傍にいるから。
(軟弱な奴等と同じにしないでよ)
信頼されてないなぁって、ちょっとムッとしたから
唇に噛み付くようなキスをしたら、
驚いた顔の後に、安心したように笑ったからもう堪らなく君が欲しいよ。
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