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2、旦那様の様子がおかしい。
しおりを挟む「ん、んん…」
目覚めれば私の部屋ではなく旦那様の部屋。
そういえば私、昨日は旦那様が心配で隣に座って…寝てしまったのね。
まだゆっくり眠ってらっしゃる様で良かったわ。
目覚めて最初に見るものが私だったら気分も悪いでしょうから、彼が目覚める前に早く部屋を出ていかないと。
「…ロザベリーナ?」
「だ、旦那様…。お目覚めになったのですね。今すぐ使用人を呼びますわね」
離婚が決まった私がここにいるのは不愉快でしょうし、早く部屋から出なくては。
慌てて扉に向かう。
「待ってくれ、ロザベリーナ。いや、ロズ。頼むから俺の傍から離れないでくれ」
「…はい?」
これは本当に私の知る旦那様なのかしら…。
普段の旦那様なら、私に触れることすらしないのに、今は行かないでと言うように私の腕を掴んでいる。
お医者様は問題ないと仰っていたけど、本当に問題はないのかしら。
体調が悪い時は人恋しくなったりもだし、すぐにお医者様を呼んだ方がいいわね。
「ロズ、俺の愛しい妻よ。どうして今まで俺はこんなにも美しい君の魅力に気付かなかったんだ…」
「だ、旦那様…?」
仰っている意味がわからないわ。
倒れた時にテーブルで頭をぶつけてしまったのかもしれないわね。今すぐお医者様に来て頂かないといけないわ。
「誰か!すぐにお医者様を呼んでちょうだい!」
「君の声は、鳥のさえずりのように透き通った綺麗な音色だが、そんなに大きな声を出すなんてどうしたんだ?」
本当に旦那様はおかしくなってしまったみたいだわ。
私が虫を見て叫んだ時に顔を顰めていた人が、こんなことを言うはずがないもの。
「その…一旦腕を離していただいてもよろしいでしょうか?」
「君がどこかへ行こうとしないなら離すさ」
「わかりました。何処にも行きませんので離していた…きゃっ!」
言葉の途中で掴まれている腕を引かれ、踏ん張ることも出来ずに旦那様の胸の上に倒れ込んでしまう。
「も、申し訳ありません!すぐに、」
「立つ必要は無い。このまま俺に抱かれているといい」
「っ、」
いえ、全くよくありませんわ!
昨日彼から離れることを決意したのに、こんな事をされては決心が鈍りますもの!
こんな、こんな風に愛おしそうに抱きしめられれば、旦那様に愛していただけるかもしれないとまた勝手に期待してしまいそうになるわ。
そうなる前に離れなければいけない。
離れなければいけない、とわかってはいるけど、どうしようもなく旦那様に胸がときめいてしまって身体が思うように動かない。
もう少しだけ…もう少しだけこのままで…。
「旦那様、奥様、お医者様が到着されました」
「っ、今すぐお通ししてっ、」
ドアがノックされた音で我に返って旦那様の胸を押して離れようとする。
だけど、離れようとしてもガッチリと腰に腕を回されていて動くことが出来ない。
「あの、旦那様…お医者がいらしたのでお離し下さい」
「医者がなんの用だ」
「そ、それは旦那様の様子がいつもと違うので、昨日倒れられたことと何か関係があるのかを診ていただく為です」
お医者様をお迎えするために旦那様から離れたいのに、どれだけ身体を捩ってもしっかりと抱きしめられているので隙間すら出来ない。
それどころか、抱きしめる力が増しているような気がする。
「あの、旦那様、もうすぐお医者様が来られるので離して…」
「失礼いたします」
遅かった…。
旦那様から逃れる前にお医者様と使用人が部屋に入ってきてしまった。
旦那様と私の関係を知っている使用人達は、私達の体勢を見て驚きが隠せないようで目を丸くしている。
それもそうよね、私達が用事も無いのに共にいること自体珍しいのに、女嫌いのはずの旦那様がベッドの上で私を抱きしめているんだもの。
「だ、旦那様!お医者様が来られましたのでお離し下さいませ!」
「俺に君を離せというのか…。なんて寂し事を言うんだ。今まで私が君の魅力に気付いていなかったから拗ねてしまったのか?」
捨てられた子犬のような表情をする旦那様に、私と使用人達は固まってしまう。
表情があまり変わらないために【氷の貴公子】とまで言われた旦那様がなんて表情をなさるの…。
昨日までいつも通りだったのに、一体旦那様になにがあったのかしら。
なにがあったのかを早くお医者様に診てもらわなければいけないわね。
そして早く治して頂かなければ私の心臓が持ちそうにませんわ…。
私はやっとのことで離婚を決意して、その予定なのだから、その決意が揺らぐわけにはいきませんもの。
「と、とりあえずお離しくださいませ。旦那様の事が心配でお医者様をお呼びしたのですから、診察されて下さい」
「…ロズがそういうのであれば、仕方ない」
渋々ではあるものの、旦那様は私を離してくれる。
そして診察を受けてくれましたが、結果は昨日と同じで体調に問題はないとの事。
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