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まだ吠えますのね。

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「エレノア!今すぐ止めろ!」
「お願いします!エレノア様!やめてください!」


やめろと言ってやめる筋合いはありませんわ。
今いいところですので静かにしてくださいませ。


『俺が愛しているのは君だけだ、ディア。不安に思うのなら、今この場でその愛を示そう…』
『で、殿下…』
『ディア…』


そうして、殿下は机の上にディア様を押し倒し、その手は彼女の制服をゆっくりと脱がし始める…。


「や、やめろ!見るな!!見たものは生きて帰さないぞ!ぐっ、」
「あ、ああ、そんな…」


映し出された映像に激高した殿下が剣を抜きそうになり、近くにいた騎士に取り押さえられる。ディア様は両手で顔を覆い隠して床に膝を突いた。


御二人とも私を断罪しようとした時の隠しきれない勝ち誇った顔とは随分変わりましたわね。
ふふふ、いい気味ですわ。
ですが。


「ここからの映像は紳士淑女の方に見ていただけるようなものではありませんので割愛致しますわ」


流石にここからの映像は不適切過ぎますので行為の部分は省いて流させてもらいましょう。


次に映し出されたのは教室から出てきた男女。
もちろんその2人は、現在仲良く床に膝を突かれている殿下とディア様。


少し乱れた息と服をそのままに、御二人は仲良く腕を組んで廊下へと消えていった。


「まぁ、学び舎であのような事をするだなんて…」
「王族にあのような方がいるのは…」
「あの少女も婚約者がいるとわかっていながら…」


映像を見て周りから殿下とディア様を批判する声が上がっていく。
その中で私は殿下に声をかける。


「殿下」
「なんだ」


苛立ちを隠そうともせず、私を射殺す様に睨んでくる殿下にとびきりの笑顔を作る。


「証拠は、この様に言い逃れのできない物をご用意くださいませ」
「くっ、どこまでも嫌味なやつだなお前は!」
「それは褒め言葉として受け取っておきますわ。それより、婚約破棄でしたわよね?もちろん合意致しますわ」
「本当か?なら、何故俺達を辱めるような事をしたんだ!」


辱めると言っても、私は事実を見ていただいただけですので、周りの方々に非難されるのは自業自得というものですわ。
ですが、それを頭に血が登りきっている殿下に言っても聞いて下さらないでしょうね。
なのでお伝えしたい事だけ言いましょう。


「婚約破棄に合意すると言いましたが、少し語弊がありますわね。婚約破棄は、私から申し立てますわ」
「どういう事だ…?」
「そのままの意味ですわ。今の映像を皆様にも見ていただけましたわよね?」


殿下ではなく周りの方々に問いかけると、皆様が力強く頷いてくださいますわ。
皆様は私が今から言おうとしている事を察してくださっているようですわね。察して居ないのは当の本人だけ。


「私という婚約者が居ながら別の方と愛を囁き合い、あまつさえ身体の関係まで結ばれたという事は、立派な浮気に当たります」
「ふん、浮気だと?そんなもの、浮気される方が悪いんだろうが!」


取り押さえられていると言うのに未だに強気で居られる事は素直に感心致しますわ。
ですが、その発言はここに居る半数近くの方を敵に回しましたわよ。
その半数の中に貴方のお母様もいらっしゃること、早くお気づきになった方がよろしいですわよ。


「浮気される方が悪いと仰いますが、私は殿下の婚約者という立場を蔑ろにした事はございませんわ」
「はっ、何を偉そうに。お前がしてきたことと言えば、俺に小言を言うくらいだろうが!」


それが私の婚約者としての使命でしたもの。
私だって、殿下のような頭の足りていない方と話すのは苦痛でしかありませんでしたわ。
ですが、今夜でその苦痛から解放されますわ。


「そもそもお前は俺の好みから外れているんだ!だから少しは俺に好かれるように努力すべきだろうが!」
「仮に私がその部分を疎かにしていたとしても、先程の浮気行為を正当化される理由にはなりませんわ」
「いいや、なる!王子である俺が言っているのだからなるに決まっているだろうが!」


そんな決まりがあれば国は崩壊しますわね。
殿下のお兄様方は立派な方ですのに、この方はどうしてこんなにも残念な仕上がりになったのか不思議で仕方ありませんわ。


殿下とはまともにお話も出来ませんし、ここは第三者に結論を委ねることにしましょう。


「国王陛下、許可もなくお声かけする事を深くお詫び申し上げます。しかし、急を要しますのでご容赦くださいませ」
「よい、許す。それで、どうした」


お顔を拝見すれば、私が何と申し上げようとしているかを察しておられる様子で、手で頭をマッサージしていらっしゃるわ。
息子がこんなにも恥を晒すとは予想外だったのでしょうね。
ですが、私は前々からこのような事態になるのでは、と陛下にお伝えはしておりましたわ。


「寛大なお心感謝致します。では陛下、私と殿下の言い分、どちらが正当なものか判断願えますでしょうか」
「ふん、そんなのは俺に決まっているだろ!あと、俺の腕を掴んでいるお前!お前は後で絶対にクビにしてやるから覚えていろよ!」


あくまでも強気なのですね。
お隣のディア様は回りからの視線を気にして俯いていらっしゃるというのに。


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