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千獣の魔王 編

040. 不調の原因

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「お前なぁ……」

 ユーゴは何とか怒りを鎮めようと努めた。

「あ、ユーくんじゃん。りんご飴食べる?」

 輝く金髪をアップにした女神ユーラウリアは、青い浴衣を可愛く着こなしてバッチリお祭りスタイルだった。
 ちなみに、このトラディショナル・ジャパニーズ・ユカタドレスを着ているのはユーラウリアただ一人であり、絶世の美貌も相まって酷く目立っている。

「いらんわ。それより何してんだよ。ここで」

 女神の恵みをすげなく断り、ユーゴは質した。

「……もぐもぐ」

 だが女神はそれには答えず、チョコバナナを咀嚼しながらユーゴに横目で何かを訴えかける。

「いや無視? 俺がナンパ失敗した悲しいやつみたいになってんじゃねーか。まず答えようぜ」

「もー、うるさい。女の子がおいしいものを食べてる時は邪魔しない。教えたじゃん」

「え。初耳ですけど」

「いま目で伝えましたー」

「お前、ほんとフリーダムだよな」

「ユーくんには負けますー。で、何だっけ。あ、そうそう。いやー、やっとこっちに来れるからユーくんと話をしようと思ったんだけど、真剣なお話してるから、邪魔しちゃ悪いなぁって思って。どうせならお祭りをエンジョイするかなぁって」

「ちょうどいい。俺も聞きたいことがある。ここじゃなんだから、俺が止まっている宿に行くか」

「え。こんな時間からホテルはちょっと早くない? せっかくのお祭りなんだし、もうちょっと楽しもうよー」

「何の話だよ。実際そういう流れになったらはぐらかして逃げるだろうが、どうせ。いいから行くぞ」

「もうー。強引なんだから」

 ユーゴは女神と連れ立って宿まで戻ろうとしたが、立ち止まり周囲を見回した。

「どったの?」

「…いや。気のせいか?」

 何者かの視線を感じたユーゴだが、よく考えたら隣に (この国では) 奇抜なファッションをした女がいるのだ。好奇の視線くらい浴びるだろうと考え直し、そのまま歩き出した。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


「───というわけで、能力を使えないわパワーダウンするわで難儀してるんだが。ユーラ、何か心当たりは?」

 宿に戻ったユーゴはユーラウリアを椅子に座らせ、最近の不調について相談した。

「あるよ」

「あるんかい。やっぱり」

「うん。てゆうか、前にしなかったっけ? 【事象革命パーフェクトリライト】の代償の話」

「……あれか。現実を書き換える度合いによって、何らかの代償が発生するとか何とか…」

「それそれ。まぁ主にユーくんの体調に何らかの変化があるんだけど、その種類も重さも、書き換えた大きさや種類によってまちまちなんだよね…」

「体調どころの話じゃねーな、これ。てっきり熱出して寝込むとか、そういうのかと思ってたわ」

「後はユーくんの性欲が一ヵ月消失するとか?」

「…それがある意味一番恐ろしいわ。で、いつ治るんだ?これ」

「うん。今ユーくんのメタデータを読んでるけれど、もうすぐ治るよ。それこそあと数分で」

「そうか。にしても、こんな症状が何日も続くなら、あの能力は乱用はできんな」

「ウチもそうしたほうがいいと思うよ。本当にここぞって言う時だけの切り札だね。まぁ、今回は初めてのことで、体がまだ慣れてないってのもあるかもね。しかもこの間は、死んだ人を生き返らせるなんて無茶をしたわけだし」

「それでこのくらいの代償で済むなら、むしろラッキーってことか」

 言い終わると、ユーゴは急にベッドから立ち上がった。

「きゃっ! なになに⁉︎ びっくりするじゃん」

「……多分、治った」

 ユーゴの体に突然活力が漲ってきたのである。なるほど、確かにこれが本来の調子だと思い出した。おそらく徐々に体力や能力が衰えていったので、気づきにくかったのだ。

「……ん?」

 感覚も元に戻ったユーゴは、扉の外に気配を感じた。
千里眼ワールドゲイザー】を発動したユーゴは、廊下で室内の様子を伺う不審人物を発見した。見覚えがある。こいつは……。

「どったの? ユーくん?」

「いや。俺にお客さんらしい」

「そ。じゃあウチは邪魔だろうし、一旦引き上げるね」

 手を振ったユーラウリアの体が霞のごとく消え去る。この世界から離脱ログアウトしたのだ。

「おい。俺に何か用か?」

 答えは無い。【千里眼ワールドゲイザー】の映像では、気付かれたと思って、扉の前から立ち去ろうとする人物がいた。
 ため息を一つき、ユーゴは韋駄天を発動した。
 ユーゴ以外の世界の時間の流れが、停止した状態に限りなく近くなる。
 この能力が発動している間、ユーゴが動かそうと思って触れた部分は動く。
    この時はドアノブをひねってドアを開けるに止めた。
 目的の位置まで歩くと韋駄天を解除した。

「…なっ⁉︎」

 進路を塞ぐように急に目の前に現れたユーゴに、その人物は驚きを隠せないでいた。

「もう一度聞くけど、俺に何か用か?」

「……っ!」

 そこにいたのは、ベルタリオの執務室にいた女だった。
 女は逡巡し、肩の力を抜いた。白を切ることを諦めたのだ。

「失礼しました。あなたはベルタリオ様のお客様ですので、わが国で御身に何かあってをならんと勝手なから見守らせていただきました」

 しれっと宣う女に、ユーゴは意地悪く返す。

「そうだったのか。聞き耳を立てて部屋の中まで安全に気をつけてもらって、申し訳ないな」

「……! いえ」

 女の目が泳ぐ。

「一応はっきりさせとくけど、俺をこの街に連れてきたのはお宅の大将の奥さんだぞ。別に怪しいもんじゃないんだから」

 間者の疑いでもかけられてるだろうと踏んだユーゴ。一応弁明することにしたのだ。

「……伺っています。ただ、それにしてはお知り合いがいたようなのですが?」

 なるほど。確かに偶然連れてこられた人間が誰かと会ったのならば、既に潜入していた諜報員と接触したのかもしれないと勘ぐるのも理解できる。

「あれは偶然だよ。俺の体調のことを相談してたんだ。少しは会話が聞こえてたんだろう?」

 女は横を向いて俯き、顔を真っ赤にして言いにくそうに呟いた。

「あ……その。よく聞こえなかったのですが、性欲がなくなったとか……。すみません。まさか、そんな内容だと思わず……」

「よりによって、そんなところかよ」

 彼女が白を切ろうとしたのは、プライバシーに関するデリケートな話題を聞いてしまった後ろめたさからなのかもしれない。

「まぁ、まぁいいや。とにかく、俺の事はお宅の大将に詳しく話したから、そっちに聞いてくれ」

「は、はい。申し訳ありませんでした」

 女を解放したユーゴはそのまま外出して、何か美味いものはないだろうかと祭りを見て回ることにした。

──────to be continued

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