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第11章 エクス自治連合

第2話 予想外の結末?

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ムーチョは交易用の港のある島に移動すると、船を降りて高台にある建物に向かう。途中でエクス門のほうを眺める。

外海にはホレック公国の旗を付けた船が12隻ほどいるのが見える。その中の一番大きな船に小型船が横付けしているのが見えた。

ホレック公国から使者が来ることが分かっていたので、事前に指示を出していた。ホレック公国の船は内海に入れずに、使者だけ連れてくるように言ってあるのだ。

ちょうど見ている間に、小型船がホレック公国の船を離れ、エクス門を抜けて走ってくる。

「早めに面倒なことは終わらせましょう」

ムーチョはそう呟くと、急ぐことなく歩き始めるのであった。


   ◇   ◇   ◇   ◇


高台の建物はこの港の代官屋敷であり、エクス自治連合の役所にもなっている。建物の下側には役所があり、隣には代官用の住まいも用意されている。

ムーチョはエクス自治連合として恥ずかしくない豪華な会議室で、ホレック公国の使者を待っていた。会議室からはエクス門を含む海が一望できる絶景が広がっている。

ノックして人族の使用人がホレック公国の使者を会議室に案内してきた。

先頭にはレイモンド、続いて綺麗な中年ぐらい着飾った女性、そして女性と同じぐらいの年の男と老齢な男が入ってくる。

指示した通り武器は誰も所持しておらず、最低限の使者だけで来たようだ。

ムーチョは立ち上がって使者を迎える。

「エクス群島の代表名代であるムーチョです」

ムーチョはまずは挨拶をした。彼は執事風の服にサングラス式の仮面だけ付けていた。

「お久しぶりでございます。こちらは公王の側室で私の母でもあるレーラ様です。そしてこちらがホレック公国使節団代表であるバッサン子爵、その隣が先代のバッサン子爵であるカーン殿です」

レイモンドが挨拶と同行者の紹介をした。

「ふむ、中々面白い組み合わせですね。レーラ様はバッサン子爵家から王宮に側室に入られたはず。そうなるとあなた達は全員が血族ということですな?」

ムーチョの話にレイモンドたちは驚きの表情を見せる。

「まさかそのような事情まで知っているとは驚きです。隠すつもりもありませんし、交渉が終わったらお話しするつもりでした」

レイモンドは正直に答えた。ムーチョはバルドーとしてヴィンチザード王国の王宮に勤めていた時に知った情報であった。

「宰相は来られなかったのですなぁ。それに重要な交渉に子爵位で大丈夫なんですか?」

「建前としては、混乱する公国内をまとめるために宰相は公都に残る必要があるということになります。実際は恐くて来たくなかったのでしょう。ですが交渉としては問題ありません。私は交渉が終わるまで王族であり、公王から全権委任の書類を持参しています」

ムーチョはレイモンドの話を聞いて、色々なことに気が付く。
レイモンドは隠すことなく本音で話している。それは、この場に公王や宰相の監視を頼まれている人物がいないか、いても気にする必要が無いということがわかったのだ。

交渉がしやすいと感じたが、要件を早めに終わらせようと話を進める。

「それではホレック公国側の最終的な判断を窺いましょうか」

ムーチョは彼らに座るように促して、交渉を始めるのだった。


   ◇   ◇   ◇   ◇


レイモンドは机の上にたくさんの書類を二つに分けて置くと話し始めた。

「こちらが領地割譲や支払うお金の目録の書類になります」

そういって右側の書類をムーチョに差し出した。ムーチョはそれらの書類に変な小細工が無いか細かく確認する。

「問題はなさそうですね。ペニーワースの罰が死ぬまで牢に入れられるということですが、それが守られるのか、牢とは名ばかりの場所にならないか心配ではありますがね」

「それは大丈夫でしょう。ホレック公国としてはできれば処刑にしたい、でも殺して良いか分からずに、そのような結論になったようです。中途半端なことをして彼を優遇すれば自分達の身が危ないのです。それほど快適な状況で無いのは確認してきました」

レイモンドの話を聞いてムーチョは頷いた。すでにエアル達黒耳長族も彼の事は忘れているような状況である。問題が出てたら対処すればよい程度に考えていた。

「そうですか……、それなら問題はありません。ホレック公国がエクス群島と正式な条約として領地を割譲するということで、エアル様の署名を今日中にもらいましょう。お金は受け取ったら受取りに署名をします。それでよろしいですね?」

「はい、それで問題ありません。それとこちらがホレック公国側の要望というかお願いになります」

レイモンドはもう一つの書類の束をムーチョに差し出しながら話した。

「これは?」

「不可侵条約や交易に関するお願いになります。特に不可侵条約は結んで頂ければ、今回の10倍近い財貨を払う用意があります。今回の船団が増えたのもそれが理由です」

レイモンドは呆れたような感じで話した。彼は自分達の安全のためなら財貨を惜しまない公王や宰相、重臣たちの考えに呆れていた。そして不可侵条約など受け入れられるはずがないと思っていたのだ。

ムーチョは差し出された書類を細かく確認すると笑顔で答えた。

「交易に関する条約はお断りします。不可侵条約は条件の一部を変えれば受け入れましょう」

レイモンドは予想外の答えに驚いたが、条件を変えると言われてなるほどと思い尋ねた。

「条件の一部を変えるということですが、どのように変えるのでしょうか?」

「そうですねぇ。財貨は今回と同額で構いません。そのかわり割譲する領地と人質を増やしてもらいましょう」

「そ、それは、領地ですか……、どれほどの領地と引き換えに?」

レイモンドは予想外の条件に驚く。ただ断られるだけだと思ってたのだが、ムーチョの話を聞いて納得する。

「割譲を希望するのはバッサン子爵領だけですよ。確か割譲する領地の隣だったはずです。人質には公王の側室であるレーラ様をお願いします。ホレック公国としても割譲する領地と同じように厄介者になりそうなバッサン子爵領なら、支払う財貨が減って、不可侵条約を結べるなら喜んで受け入れてもらえると思いますが、どうでしょう?」

レイモンド達は全員が驚きの表情を見せる。

「ど、どこまで我々の事情や行動を知っているのですか?」

レイモンドは、まるで自分達が個人的にお願いしたいことを見透かされた気がして尋ねた。

「実際には何も知りませんよ。ただ、この状況を見て大まかな推測をしただけです。レーラ様は息子であるレイモンド殿を心配して、一緒に人質になるつもりだったのではないか。たぶんその事は公王も了承している。そして娘と孫が心配なカーン殿は、急遽息子にバッサン子爵位を譲って一緒に人質になるつもりだったのでは?」

「そ、その通りです……」

レイモンドは呆然として答えた。

「だったら領地ごとこちら側に来ればよろしいのではないでしょうか。この条件ならホレック公国は受け入れるのではないでしょうか?」

「喜んで受け入れると思います。ですがマッスル殿の目的は何なのでしょうか。国を興すつもりなんですか!?」

レイモンドは理解できない事態に、不安を感じて尋ねた。

「う~ん、ここだけの話にして頂けますか?」

ムーチョもどこまで話すか迷いながら尋ねた。

「「「はい!」」」

全員が真剣な表情で返事したのを見て話しを続ける。

「マッスル様はこの地に立ち寄っただけで、黒耳長族と仲良くなっただけです。いつまでこの地にいるかわかりませんので、レイモンド殿にはエクス自治連合の執政官、要するに私の代わりをしてもらうつもりなんですよ」

「ひゃい?」

余りに予想外の話にレイモンドは噛んで変な声をだしてしまった。

「いやぁ~、成り行きでこんなことまでになって、私も早くこんな役目から解放されたいのです。だから早めに今回の件を片付けて、レイモンド殿に引き継ぎたいですなぁ。はははは」

レイモンド達はムーチョの話を理解するのに暫くかかるのであった。
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